【1611】 ◎ アイラ・チャレフ (野中香方子:訳) 『ザ・フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』 (2009/11 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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能動的フォロワーのモデルを提唱。さらっと読める本だが、扱っているのは難しいテーマかも。

ザ・フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書.jpgザ・フォロワーシップ.bmp      Ira Chaleff.jpg アイラ・チャレフ(Ira Chaleff)
ザ・フォロワーシップ―上司を動かす賢い部下の教科書』(2009/11 ダイヤモンド社)
"The Courageous Follower: Standing Up To & For Our Leaders"

 組織においてリーダーがリーダーシップを発揮することが、組織を健全に成長させ、組織改革を正しい方向に導くうえで不可欠であるのは言うまでもないですが、一方で、強力なリーダーと従順なフォロワーという関係が最も望ましいとするパターン化されたイメージが、様々な組織において固着しているきらいもあります。

 そうした中、近年においては、リーダーを支えるだけでなく、リーダーを育て、必要に応じてリーダーに苦言を呈するなどの、"能動的"フォロワーとしての役割が注目されるようになってきており、本書では、リーダーとフォロワーの関係の考察を通して、そうしたフォロワーシップの新たなモデルが提唱されています。

 ちなみに、本書の著者アイラ・チャレフ(Ira Chaleff)は、ワシントンD.C.で議員コンサルタントをしている(併せて議員に仕えるスタッフの研修を行っている)エグゼクティブ・コーチングのプロで、原著は1995年に刊行されていますが(原著タイトル"The courageous follower")、その頃はアメリカでも、リーダーシップに関する本は多くあったものの、フォロワーシップをタイトルに掲げる本はまだ無かったとのことです。

 本書では、フォロワーはリーダーの重責に敬意を払いつつも、共に働く者として対等な人間関係を築き、堂々とリーダーを支えていくことが肝要であるとしています。

 序章では、フォロワーシップの手本として「勇敢なフォロワー」というイメージを掲げ、フォロワーには、「責任を担う勇気」「役割を果たす勇気」「異議を申し立てる勇気」「改革に関わる勇気」「良心に従って行動する勇気」の5つの勇気が求められるとしています。

 第1章では、組織は、共通目的とリーダー、フォロワーという3つの要素から成り、共通目的はリーダーとフォロワーを結びつける究極の接着剤であり、また、リーダーがフォロワーの行動や業績に責任を負うように、フォロワーもリーダーに対して責任があるとしています。

フォロワーシップe9.gif 第2章では、フォロワーにとって「責任を負う」とはどういうことなのかを説くとともに、フォロワーのタイプを、リーダーへの支援と批判の度合いにより、次の4つの象限に分けています。
  第一象限:支援(高)、批判(高)――パートナー
  第二象限:支援(高)、批判(低)――実行者
  第三象限:支援(低)、批判(高)――個人主義者
  第四象限:支援(低)、批判(低)――従属者

 第3章では、フォロワーにとって「リーダーに仕える」とはどういうことなのかを説いています。フォロワーはリーダーに影響を与え、リーダーのエネルギーを無駄に消費させないようにし、リーダーへの連絡が過剰にならないように調整したりし、リーダーに対する不満が執拗に語られるようであれば、組織メンバーにリーダーの長所を思い出させるようなサポートをする必要があり、リーダーに好意を持たないフォロワーとリーダーが親しく付き合えるような促しをする必要があるとしています。

 第4章では、フォロワーにとってリーダーに「異議を申し立てる」とはどういうことなのかを説いています。勇敢なフォロワーは、リーダーと結んだ「共通目的達成のための契約」の守護者になる必要があり、そのために、必要に応じてリーダーに異議を申し立てたり、リーダーが他のフォロワーから必要なフィードバックを受け入れられる環境を作る必要があるとしています。

 第5章では、フォロワーにとって「変革に関わる」とはどういうことなのかを説いています。「忠告さえすれば後の結果には責任を負わない」という姿勢はフォロワーとして好ましくなく、勇敢なフォロワーは、嵐が訪れる前にリーダーに変革を促して実行させ、危機を回避するまでの責任があるとしています。その際、リーダーに「自分は非難されている」と感じさせ、批判に対して耳を塞がせてはならず、「自分は理解されている」と感じさせ、耳を傾けやすくする必要があるとしています。

 第6章では、フォロワーにとって「道義的な行動を起こす」とはどういうことなのかを説いています。勇敢なフォロワーは、自らの選択や行為さえ道義的であればいいという考えをしてはならず、同僚やリーダーの選択や行為の道義性も考慮する必要があるとしています。フォロワーシップが最低限守るべきこととして、リーダーについていくかいかないか自らの決断に責任を負わなければならないとし、非道義的な行為が組織にある場合、組織内部にとどまって変革を起こすか、場合によってはリーダーへの告発・組織からの脱退も視野に入れなければならないとしています。

 第7章では、勇敢なフォロワーの必要性を説くとともに、勇敢なフォロワーに対してリーダーはどうあるべきかを説き、「フォロワーに耳を傾ける」ことの大切さを述べています。建設的な異議を正当に評価し、また、そうした建設的な意見を募るようなコミュニュケーション文化を築くのはリーダーの仕事であるとしています。

 大変分かりやすい言葉で書かれている一方で、実行するのは容易ではないと思われるものもありましたが、自分が今置かれている仕事面での状況や上司との関係を振り返りながら読むと、啓発される部分は多いのではないでしょうか(「道義的な行動を起こす」の章では、辞職を覚悟して行動しなければならないケースについても触れられている)。

 また、「リーダーに求められている勇気」として、「フォロワーに耳を傾けること」の重要性を説いている点は、上司が現在の部下やスタッフとの関係を見直すうえでも参考になるかもしれず、また、人事的な観点からすると、リーダーシップ研修などの人材育成においても新たな視座を提供しているように思えました。

 更に「人事部」的な観点から見ると、まず人事部は、会社内におけるポジション上、会社の理念や施策に関わることで経営幹部に直接上申したり、直接下命を受けたりすることが多く、そうした中、経営幹部と協調したり、或いは、考えが対峙することが少なからずあるかと思われ、そうした場合に(特に後者の場合)、思い切って苦言を呈し、自分が正しいと考えることを述べることができる、著者の言う「勇気あるフォロワー」にならなければならないのだろうなあと(著者の言を借りれば、「懲戒解雇より望ましくない結末」というのも世の中にはあるのだから)。また、そうしたことは、人事部内の管理職とスタッフの間でも起こり得ることであり、そこには、著者の言う「公正な争い」を通しての「成長と互いへの尊敬」がなければならないのでしょう。

 苦言を受け入れない上司を通り越して上の上司に掛け合う必要がある場合も想定されていますが、そうした場合における、直属上司に更に上の上司と会う旨を伝えるための絶妙な言い回しの例を並べるなど、「気配り」の大切さを説いたりもしています。

 さらっと読める本ですが、扱っているのは難しいテーマかも。状況の個別性や文化の違いなどから、本書の書かれていることの全てがすぐに実行でき、またそのことが有効に機能するかというと、そんなに生やさしいものではないという気もします。とは言え、フォロアーシップという概念だけでも、最低限、意識しておく価値はあるかと思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2011年11月26日 01:02.

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