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労働判例を体系的に編集した法科大学院の教材。実務的観点からの「質問」形式がいい。
『ケースブック労働法 第6版 (弘文堂ケースブックシリーズ)』(2010/04 弘文堂)
労働法をより深く学びたいという人の中には、法科大学院では労働法の授業はどのように行われているのかということに、関心を持ったことのある人もいるかもしれません。
本書は、法科大学院の教材として編集された労働法のケースブックであり、具体的な事例を通して法律問題を実際的に考えることを主眼としているものです。
労働判例を30講にわたって体系的に編集したスタイルは、2005年の初版から変わっておらず、今回から、これまで執筆者の1人であった菅野和夫氏が「監修」に回り、執筆陣には野田忍氏らが新たに加わって、門下の精鋭が集ったという感じでしょうか。
各講の冒頭で簡潔にその講のテーマ解説するとともに、枝となるテーマごとに挙げた代表的判例のそれぞれについて、初歩的・基礎的な質問を最初に掲げ、順次、応用的な質問へと移っていきますが、学生がそれらについて議論することを想定したものとなっているため、各質問に答えが付されているわけではありません。
判例集ならば「事実―判旨―解説」とくるところが、"教材"であるために「事実―判旨―質問」となっているわけですが、事実及び判旨の纏め方が、質問に対する答えを導く助けになるように詳細且つ分かり易く記されているため、独習者であっても、それを自分で考えることが出来るかと思います。
また、それらの質問の視点から事実及び判旨に遡ることで、事例の判断のポイントが浮き彫りにされる一方、こうした法律問題の実際的解決においては、答えは必ずしも1つではなく、他の考え方、結論、解決もあることを示唆するものにもなっています。
601ページ4,410円(税込、以下同)の価格は、法科大学院の授業を受けているつもりで読めば、お値ごろかも知れません(「質問」の答えは自分で考えるという条件が付きますが)。
タイトルとしてとり上げられている判例数は、「ジュリスト」別冊の『労働判例百選〔第8版〕』(2009/10 有斐閣、248ページ2,600円、120判例を所収)とほぼ同じくらいで、参考判例も加えると、野川忍氏の『労働判例インデックス』(2009/04 商事法務、330ページ2,730円、160判例を所収)に匹敵するくらいでしょうか。
『判例百選』が2002年以来7年ぶりの改訂で、前回から1割程度の判例の入れ替えがあったのに対し、本書は、前年版と比べても1割程度の判例の入れ替えを行っており、毎回、質問項目の時宜に適った追加、見直しなども行われていて、法科大学院等の授業でより使い易いようにとの執筆陣の熱意と配慮が感じられます。
判例集としても読めますが、判例集との違いは前述の通りで、「質問」には実務的な観点が多く織り込まれていることから、単に法科大学院の教材としてだけではなく、「実務者」、「スペシャリスト」として労働法分野を深耕したいという人、労務問題の分析・解決能力を高めたいう人には、是非お奨めしたい1冊です。
30講というのは大学の講義の一般的なコマ数と同じ。法科の学生や院生に対する授業でも、1年かけてこの1冊を全部出来るか出来ないかといったところだと思われるので、焦って全部一気に読む必要も無く、手元に置いて折々に開き、質問について考えてみるといった読み方になるのではないでしょうか(勿論、社内外でこうした本をテキストとして勉強会をやろうという機運があればベストだが)。
【2012年・第7版/2014年・第8版】