「●リストラクチャリング」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1586】 菊原 智明 『29歳でクビになる人、残る人』
どのような社員がリストラされるか、或いは、されないのか。落とし処は間違っていないのだが...。
『「いらない社員」はこう決まる (光文社ペーパーバックスBusiness)』['09年]
人事専門誌などに、企業の人事制度や施策等を紹介する記事を書いたら、その分野では"第一人者"であろうと思われる著者の、光文社ペーパーバックスとしては、『隣りの成果主義』('04年)、『超・学歴社会』('05年)、『会社を利用してプロフェッショナルになる』('07年)に続く第4弾。
『隣りの成果主義』は、殆ど図表等を用いずに企業の賃金制度などの紹介をしていて、字面だけでそうした内容を一般読者に理解させるのは難しいように思え、結果として、著者の持ち味が活かされていなかったように思われ、『会社を利用してプロフェッショナルになる』は、「知名度や規模」で会社選びをしてはならないとしながら、人材育成制度や社内教育施策が紹介されているのが、それなりの大企業・有名企業ばかりであるのが気になったのですが、今回もやや気になる部分がありました。
まず、企業で希望退職募集などのリストラ施策がどのように決定され、どのように実施されるのか、その内実が明かされていて、所謂「2:6:2」の法則に沿って、退職勧奨の対象になる「2割のダメ社員」とはどのような人か、「6割の普通の社員」でもリストラのターゲットになりやすいのはどのような人か、リストラとは無縁の「2割のデキる社員」はどこが違うのかということが、順を追って解説されています。
紹介されているマニュアル化された企業リストラの進め方は、企業側が法的な対応策も含め、万全を期して退職勧奨等の施策遂行に当たることが示されていて、リストラされた経験のないビジネスパーソンが読めばショックを受ける面はあるかも知れませんが、人事部サイドから見れば、アウトプーイスメント(再就職支援)会社を利用したことがあるならば「既知」のものと言えるでしょう。
今回気になったのは、"余剰人材"の選定において、本人の資質・能力の欠如やマネジメントスキルの無さなどがポイントになる点が強調されているのはわかるけれども、実際には、担当職務の代替可能性や年収の高さなども、大きなウェイトを占めるのではないかと思われることで、そのことが前半部分ではあまり謳われていないように思われた点です。
派遣社員や契約社員のリストラが完了しないうちに正社員のリストラが行われるのは、派遣社員や契約社員の現在の仕事の中に、かつては正社員が行っていた基幹業務が含まれているからであり(このことは、ここ10数年、所謂フリーターが増えているのではなく、正社員が減って常用非正規雇用が増えているという実態からもわかる)、また、中高年齢層ホワイトカラーを対象としたリストラが行われるのは、現状賃金と生産性に乖離が見られるのがその層であるからでしょう。
企業側の観点からすれば、「年収の高さ」と「代替可能性」は、"余剰人材"の選定において欠かせない要素だと思われるのですが、企業の制度や施策を取材して、その本質を分かり易く抽出することにかけては第一人者である著者が、そのことにあまり触れていないのがやや不思議。
と、思ったら、最後の「2割のデキる社員」はどこが違うのかというところで、資質・能力等に加えて、「高度の専門性を持つプロフェッショナル人材」であることが、いきなりトップ項目に踊り出てきています。
要するに、他の追随を許さない専門性を有し、会社に貢献できる(賃金以上の付加価値を生む)人材ということなのですが、これから行われようとしているリストラは、「削るべき人材」を探すよりも、まず「残すべき人材」を見極めるというものになるように思われ、企業サイドも、真っ先にこの点をチェックするのではないでしょうか。
そうした意味では、一般のビジネスパーソンにプロフェッショナル人材となることを呼びかけているのは尤もなことと言えますが、「遊びや趣味にうつつを抜かし、仕事を手抜きする社員もいただけない」とかいった話ばかり出てくる前半部分は、必ずしも後半と呼応しきれていないような気がしました。
自らがリストラされないようにするためにはプロフェッショナル人材となること、という落とし処は間違っていないので、一般のビジネスパーソンの目線で言うと星4つですが、人事部目線で言うと星3つかな。