【1577】 △ 太田 肇 『「不良」社員が会社を伸ばす (2010/09 東洋経済新報社) ★★☆

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元暴走族、オタクと、所謂「不良社員」とでは、それぞれ違うのでは。著者自身に"レッテル貼り"傾向が。

「不良」社員が会社を伸ばす 太田肇.png 『「不良」社員が会社を伸ばす』(2010/09 東洋経済新報社)

 帯に「実戦力や独創性に欠ける〈優等生〉に替わって、元暴走族、元ヤンキー、元レディス、オタクなどが新たな価値を創造し会社を繁栄させる」とあります。

 〈不良〉が排除されてきた「組織の論理」や「人事部の損得勘定」に対する批判として、「やらされ感」に支配された〈優等生〉と、「やりたい感」に突き動かされてきた〈不良〉のモチベーションの違いを対比させ、企業はどちらを求めるべきかという問題提起の仕方をしています。

 元不良だったのが、今は企業で頑張っている、或いは企業を経営しているといった事例が紹介されていて、若いうちに社会からドロップアウトしてしまった人に対する、励ましや勇気づけにもなっているのかも。

 ただ、本書で取り上げている〈不良〉というのが、元暴走族・ヤンキーなどと元オタクであり、かなり型にハマってしまっていて、なお且つ、ヤンキーとオタクでは随分違うのではないかとも思いました。
 著者自身、この違いを認識しながらも、〈優等生〉に対するアンチテーゼとして、それらをほぼ一緒くたに論じていて、そうしたところに、逆にある種の"レッテル貼り""上から目線"的なものを感じてしまいました。

 一方で、本書における〈不良〉とは、「一流大学卒」に対する「三流大学卒」であったり、所謂「不良社員」であったりもし、最終的には(著者の持論である)"「承認欲求」を満たしてやることで「彼ら」の動機付けが図られ、それが会社や組織を変える"という論旨に繋がっていくわけですが、その「彼ら」の部分に、それら全て(元暴走族・ヤンキー、オタク、三流大学卒、所謂「不良社員」)が含まれるということのようです。

 前著『承認欲求―「認められたい」をどう活かすか?』('07年/東洋経済新報社)に重なるテーマですが、元暴走族と、オタクと、更に、いま現に社内にいる「働かない社員」とでは、それぞれ違うのではないかと思われ、やや乱暴な普遍化も見られるように思いました。

 むしろ、優等生ばかりで構成された組織の弱さ、危うさの指摘に説得力を感じましたが、この点においても、"分り易さ"を優先させたのか、やや論旨が粗いような気も。
 「受験秀才だが知恵がなく行動力もない〈優等生〉たちが日本を衰退させた」と著者が言う〈優等生〉は、優等生であることが直接の問題なのではなく、その優秀さ(能力)の組織内での使い方、使われ方が問題であるように思います(ここにも、著者の"レッテル貼り"傾向が見られる)。

組織戦略の考え方.jpg こうした問題については、一橋大学の沼上幹氏が、『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』('03年/ちくま新書)の中で、「育ちの良い優等生の〈大人〉たちが組織内で多数になると、厄介者の言うことがかなり理不尽であっても、組織として通してしまう場合が出てくる」(「厄介者の権力」)、或いは、「(スキャンダルで)密告者が権力を握るのではない。根性のない優等生たちが恐怖にとらわれ、その恐怖心を気持ちよく解消する〈美しい言い訳〉を創り上げる宦官が権力を握る」(「バランス感覚のある宦官」)などといったように、組織論的な観点から"分り易い"言葉で指摘しています。

沼上 幹(つよし)『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』 ちくま新書 〔'03年〕
 
 

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