【1573】 ○ 樋口 弘和 『社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社 (2009/11 幻冬舎) ★★★☆

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"目からウロコ"というよりは、極めて"まとも"。但し、啓蒙レベルを出ないが。

社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社.jpg社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社』(2009/11 幻冬舎)

 著者は日本ヒューレット・パッカードの人事部門で20年近く勤務し、現在は人事・採用コンサルティング会社を経営して11年になるという人で、本書は、とりわけ中小企業の経営者に向けて書かれた本とのことですが、帯に「経営者・管理職に読ませたい本」とあるように、管理職が読んでも違和感がないものです。

 「人材採用」「社員の育成」「女性社員の戦力化」「管理職の指導と育成」「後継者選び」の5つの人事マネジメント上の課題について、それぞれ10ずつの「鉄則」を掲げていて、「社員全員のモチベーションを高めようとするのは無意味」、「経験者の採用は常に賞味期限との戦い」、「平均的業績ならば給与は落ちていくと悟らせなければならない」といった刺激的なフレーズが並びますが、中身を読んでみて、内容的には、長年の経験に裏打されたその考え方は、ほぼ納得のいくものでした。

 特に共感したのは、「新卒採用をやめると5年後にツケがくる」として新卒採用の重要性を説くと一方で、「中途採用は"いつまでもつか"の予測が肝心」とし、更に、経営幹部の外部からの登用については「経営者はお金で買えない」「外部幹部の成功率は2割程度」と言って、その成功率が低いとしていることで、これは、著者の会社が採用業務のアウトソーシングを請け負っているだけに、真実味があるように思いました。

 また、女性社員の戦力化を5つの課題の1つにあげ、女性のキャリア形成に対する配慮や心理的なケアにまで踏み込んで書かれているのも、類書ではあまり見られないことなのではないかと思います。
 但し、「一人でランチをとる女性はリーダーの素質あり」などという表現になってくると、その会社と社員を見たうえで、状況に応じて経営者にそっと話すべき所謂クライアント・トークであって、これが活字になっているのはオーバー・ゼネラリゼーション(過剰な普遍化)ではないかとも思いました(この章がいちばん踏み込んで書かれていて興味深いのだが)。

新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか.jpg 著者の前著『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか―失敗しないための採用・面接・育成』('09年/光文社新書)も、内容的にはオーソドックスで、採用に際して応募者に志望動機やキャリアビジョンを語らせても、将来性志向だけでは空回りするものであり、今まで何をしてきたか、どんな役割だったかを、掘り下げて雑談風に聞くのが良いというのは、本書にも「面接で志望動機を聞くのは時間のムダ」とあるのと、ほぼ同趣旨です。

新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか (光文社新書)』 ['09年]

 但し、前著には、そうした考えに基づく実際の「雑談形式」面接の進め方の例も出ていますが、これはこれで、面接する側に相当のヒューマンスキルが求められるような気もしました(そうしたスキルの習得についてのコンサルティングに応じるということか?)。

 本書では「セルフモチベーターを見極めなさい」と言っていますが、抽象的な啓蒙レベルに止まっているから違和感なく読めるのであって、具体策に踏み込んでいくと、納得できる部分もあれば、実際どうすればいいのかとか疑問を抱かざるを得ないような部分も出てくるのであり、その点で本書は、(経営者向けということもあるが)書かれていることの多くが啓蒙レベルの域を出ていないように思います。

『社長の人事でつぶれる会社、伸びる会社』.jpg 個人的には、本書の内容自体は、「啓蒙書」としては、"目からウロコが落ちる"と言うよりは、極めて"まとも"だと思います。
 但し、自分の会社が置かれている状況の中では、それらの「鉄則」(「提言」と言うべきか)の内、どれがどう当て嵌まるのか、また具体策に落とし込むにはどうしたらよいかをイメージしながら読まないと、本書を読んで1ヵ月後に振り返ったとき、「50の鉄則」のうち具体的な記憶としてどの程度の内容が残っているかは、甚だ心もとなくなるような気がします。

 例えば、前著の場合、「雑談形式」面接というのは、具体的な方法論であり、個人的には脳裏に残りました。でも、相応のヒューマンスキルが面接官に求められる気がする...。
 本書の場合も、「新卒採用の2チーム体制」といった具体的な方法論は、やはり印象に残ります。でも、採用業務にそてほど人手を割けないような中小企業の場合、どうやってそれをこなしていくかという問題が残るように思いました。

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This page contains a single entry by wada published on 2011年11月17日 23:00.

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