【1571】 ○ パク・ジョアン・スックチャ 『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』 (2002/07 朝日選書) ★★★★

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いろいろな点で、企業へのワーク・ライフ・バランス施策提案、個人への啓蒙の魁となった本。

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会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案 (朝日選書)

 次世代育成支援対策推進法が'03年7月施行に施行され、以降、ワーク・ライフ・バランスに関する本が幾つか刊行されるようになり、今はワーク・ライフ・バランスという言葉もかなり定着したように思えますが、本書は'02年の刊行であり、ワーク・ライフ・バランスの"ブーム"の魁とも言える本。

 著者自身は'00年12月に"ワーク/ライフ・コンサルタント"として独立しており、日本で最初のこの分野の専門コンサルタントだそうですが、本書のしっかりした内容からしても、それは認めていいのではないでしょうか。

 本書には著者自身の経験が織り込まれていて、日本生まれの韓国人である著者は、米国留学を機にMBAを取得して米国系企業に就職、5年間の勤務の後、日本に戻って米国系運輸企業にて人事系の仕事を担当しましたが、そこで自らの仕事と家庭生活の両立が困難になり、会社を辞めざるを得なくなったとのことで、その際に、同じような悩みを抱えている人は多いはずと考え、ワークライフバランス・コンサルティングの会社を設立したとのこと(会社を辞めざるを得なくなって、自ら会社を作ることにしたというのが実にアクティブ!)

 米国及び日本国内の米国系企業で働いた経験と照らして、日本の一般の企業のワーク・ライフ・バランス事情が米国に比べいかに遅れているかということが、個人の経験だけでなく、実証データを用いて明らかにされていて、結論としては「社員の私生活を尊重することが企業の業績向上に繋がる」ということを言っています(これは、日本では最近になってやっと言われてきたことではないだろうか。しかも、現実には多くの経営者が、ワーク・ライフ・バランスをまだ福利厚生施策にの一環としてしか捉えていない)。

 その結論に至るまでに、様々なワーク・ライフ・バランス施策の類型、導入例などが紹介されていて、それらが、今現在、国や地方自治体が企業に対して助成金などを絡めて導入の働きかけをしているものをかなり先取りしており、且つ、より広い視野から、それを超える施策を提示しているのも注目に値します。

 経営戦略という観点からワーク・ライフ・バランス施策を提案することは、今は民間のコンサルタントもやっていますが、そういう言い方をした方が企業に受け容れられ易いという戦術的なものの、フォロアーの手本になっているかも。

 一方で本書は、「自己把握と自己実現のための演習」という最終章で、自己の意識改革をし、個人としてワーク・ライフ・バランスを確立することも強く勧めていますが、こっちの方も、働く側に向けた最近の啓蒙書の類型を先駆的に示しているように思えました。
 それが、勝間和代氏などになると、一発逆転を賭けた「成功本」に変質してしまい、相当ムチャなことを言うようになって...、一旦、本書に立ち返った方がいいのではないかと。

 個人的には著者に対しても、本書からも(前職では年10回以上の海外出張をこなすビジネスウーマンだった)、実際に会った印象からも、相当"モーレツ"な人だなあという印象は受けたのですが。

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This page contains a single entry by wada published on 2011年11月16日 22:26.

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