【1570】 △ 東野 圭吾 『マスカレード・ホテル (2011/09 集英社) ★★★

「●ひ 東野 圭吾」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1906】 東野 圭吾 『ナミヤ雑貨店の奇蹟

"ミッシングリンク"自体をトリックとしたメタ構造。「推理小説のための犯行」みたいで"軽い"。

東野 圭吾 『マスカレード・ホテル』3.JPG マスカレード・ホテル 映画.jpg
マスカレード・ホテル』(2011/09 集英社) 2019年映画化(監督:鈴木雅之/出演:木村拓哉、長澤まさみ)

マスカレード・ホテル 東野圭吾.jpg 都内で3件連続して起きた不可解な殺人事件で、それぞれの事件に共通する残されたメモを手掛かりに、警察は次の犯行は都内のある超一流ホテルで行われる予測、潜入捜査のためホテルに送り込まれた新田刑事はホテルのスタッフに扮し、ホテル従業員・山岸尚美の下で業務に当たりながら犯人を捜す―。

 作者の「作家生活25周年記念」の特別刊行ということで、その第1弾が『麒麟の翼』(講談社)、第2弾が『真夏の方程式』(文藝春秋)、そして、完結版である第3弾がこの作品だそうです(オリジナルは「小説すばる」'08年12月号から'10年9月号に連載)。

 『麒麟の翼』は「加賀恭一郎」刑事シリーズで、TVドラマ化された「新参者」の阿部寛のイメージが、『真夏の方程式』は「湯川学」の"ガリレオ"シリーズで、やはりTVドラマ化された同シリーズや映画化された「容疑者χの献身」の福山雅治のイメージがあり、その点、この作品は「新田浩介」刑事という、東野作品における"ニューフェイス"登場ということもあり、先行イメージに捉われることなく読めました(新田刑事をサポートする所轄の能勢刑事というのがいい味出しているが、この人も東野作品で初登場なのだろうか。何となく既知感がある)。

石ノ森章太郎 生誕80周年記念企画 HOTEL.jpgホテル 上巻.jpgホテル下巻.jpg 前半部分は、職業ものドラマみたいで、それなりに面白かったけれども、こうしたホテルを舞台にした作品では、これもテレビドラマ化された石ノ森章太郎の『HOTEL』(昭和62年度・第33回「小学館漫画賞」受賞作)などの作品があり、海外でも、ビジネス小説家のアーサー・ヘイリーの『ホテル』(新潮文庫)といった先行作品があるため、それほど新味を感じませんでした。

石ノ森章太郎 生誕80周年記念企画 HOTEL 1 (主婦の友ヒットシリーズ)['17年]

 とは言え、刑事がホテルマンに扮するという、その職務性質のギャップが面白く、また、プロット的にも、終盤まで面白く読めました。所謂"ミッシングリンク"を探るものですが、作者が自ら「想像力の限りを尽くしたという実感があります」(帯より)と述べているのは、この"ミッシングリンク"自体をトリックとしたメタ構造になっていることを指しているのでしょう。

 但し、結末から振り返ると、犯人の犯行方法は、そうしたメタ構造を作者が小説として描いて見せるためのものだったように思われ、「推理小説のための犯行」みたいになってしまっている印象を受けました。こうしたことは"本格派推理"では珍しくないことかも知れませんが、結果として作品が"軽く"なってしまった感じがします("第4の犯行"のターゲットが誰だったかということも含め)。

マスカレード・ホテル (集英社文庫).jpg 大体この犯人のやり方は回りくどいばかりでなく、却って犯人にとっての危険度を増すものであったように思われ、なぜ、そうした犯行手口を選んだのかを、犯人自身が被害者を殺害しようする前に滔々と喋っているのも、その点の説明を要することの裏返しではないかと思ったりもしました。

 そして、殺害しようとする相手にではなく読者に向けに長広舌を揮っている間に、救い手が現れて―というのも、これまでの小説(乃至は映画やドラマ)などで繰り返されてきたパターンであるように思いました(この方が逆にスンナリ映像化し易いのかもしれないけれど)。

【2014年文庫化[集英社文庫]】

2019年映画化「マスカレード・ホテル」(東宝)
監督:鈴木雅之/出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、菜々緒、生瀬勝久、松たか子、石橋凌他
マスカレード・ホテル0.jpgマスカレード・ホテル40.jpg


《読書MEMO》
石ノ森章太郎 生誕80周年記念企画 HOTEL 1 (主婦の友ヒットシリーズ)

石ノ森章太郎 生誕80周年記念企画 HOTEL (2).jpg

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1