【1569】 ○ 丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚 (2008/03 エンターブレイン) ★★★★ ( ○ 江戸川 乱歩 「パノラマ島綺譚」― 『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集第2巻』 (2004/08 光文社文庫) ★★★☆)

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丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、スコーンと突き抜けている感じ。

パノラマ島奇談 丸尾末広.jpg  パノラマ島綺譚 光文社文庫.jpg パノラマ島奇談他4編 春陽文庫.jpg 天国と地獄の美女.jpg
パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉 (光文社文庫)』['04年]『パノラマ島奇談 (1951年) (春陽文庫〈第1068〉)』(装画:高塚省吾)
パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)』['08年]「天国と地獄の美女~江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」~ [DVD]

 2009(平成21)年・第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞作。

江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚.jpg 「月刊コミックビーム」の2007(平成19)年7月号から翌年の1月号にかけて連載された作品に加筆修正したもの。「エスプ長井勝一漫画美術館主催事業」として、「江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚」展が今年(2011年)3月に宮城県塩竈市の「ふれあいエスプ塩竈」(生涯学習センター内)で開催されており(長井勝一氏は「月刊漫画ガロ」の初代編集長)、3月12日に丸尾氏のトークショーが予定されていましたが、前日に東日本大震災があり中止になっています。主催者側は残念だったと思いますが、原画が無事だったことが主催者側にとってもファンにとっても救いだったでしょうか。

 原作は、江戸川乱歩が「新青年」の1926(大正15)年10月号から1927(昭和2)年4月号にかけて5回にわたり連載した小説で、売れない小説家だった男が、自分と瓜二つの死んだ大富豪に成り替わることで巨万の富を得て、孤島に人工の桃源郷を築くというものです。

 光文社文庫版にある乱歩の自作解説(昭和36年・37年)によると、発表当初はあまり好評ではなく、それは「余りに独りよがりな夢に過ぎたからであろう」とし、「小説の大部分を占めるパノラマ島の描写が退屈がられたようである」ともしていますが、一方で、萩原朔太郎にこの作品を褒められ、そのことにより、対外的にも自信を持つようになったとも述べています。

江戸川乱歩名作集 春陽堂.jpg『江戸川乱歩名作集』.jpg 個人的には、昔、春陽堂の春陽文庫で読んだのが初読でしたが、ラストの"花火"にはやや唖然とさせられた印象があります。原作者自身でさえ"絵空事"のキライがあると捉えているものを、漫画として視覚的に再現した丸尾末広の果敢な挑戦はそれ自体評価に値し、また、その出来栄えもなかなかのものではないかと思われました。

 前半部分は、原作通り、主人公がいかにして死んだ大富豪に成り替わるかに重点が置かれ、このトリック自体もかなり無理がありそうなのですが、視覚化されると一応納得して読み進んでしまうものだなあと。

丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』1.jpg 但し、本当に描きたかったのは、後半のパノラマ島の描写だったのでしょう。海中にある「上下左右とも海底を見通すことのできる、ガラス張りのトンネル」などは、実際に最近の水族館などでは見られるようになっていますが、その島で行われていることは、一般的観念から見れば大いに猟奇変態的なものです。

 しかしながら、丸尾末広の他の作品との比較においてみると、独特の猥雑さが抑えられ、ロマネスク風の美意識が前面に押し出されているように思いました("妻"の遺体があるところが明智小五郎にバレるところなどは、原作の方が気持ち悪い。丸尾版では、明智小五郎が"ベックリンの絵"なる意匠概念を持ち出すなどして、ソフィストケイトされている)。
丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』12.jpg
 でも、やはり、ここまでよく描いたなあ。乱歩が夢想した世界に寄り添いながらも、それでいて、丸尾パワー全開といった感じでしょうか。但し、丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、逆に、スコーンと突き抜けてしまっています。個人的には、これはこれで楽しめました。

 光文社文庫版にある江戸川乱歩の自作解説によると、原作は、昭和32年に菊田一夫がこれをミュージカル・コメディに書き換えて、榎本健一、トニー谷、有島一郎、三木のり平、宮城まり子、水谷良重などの出演で、当時の東宝劇場で上演したとのことです。一体、どんな舞台だったのでしょうか。


天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」 [DVD]
天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」.jpg 1977(昭和52)年から1994(平成6)年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間33回にわたり放送されたテレビドラマシリーズ「江戸川乱歩 美女シリーズ」(内、天知茂版が1977年から1985(昭和60)年までの25回)の中で、第17話として1982(昭和57)年にジェームス三木の脚色によりドラマ化され江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女01.jpgたことがあり(タイトルは「天国と地獄の美女」)、正月(1月2日)に3時間の拡大版(正味142分)で放映されています。明智小五郎役は天知茂、パノラマ島を造成する人見広介役は伊東四朗で(山林王・菰田源三郎と二役)、菰田千代江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女02.jpg子(源三郎の妻)役が叶和貴子(当時25歳)、その他に小池朝雄、宮下順子、水野久美らがゲスト出演しています。パノラマ島64 天国と地獄の美女.png自体は再現し切れていないというのがもっぱらの評価で、実際観てみると、特撮も駆使しているものの、ジャングルとか火山とかの造型が妙に手作り感に溢れています(特撮と言うより"遠近法"?)。ただ、逆にこの温泉地の地獄巡り乃至"秘宝館"的キッチュ感が後にカルト的な話題になり、シリーズの中で最高傑作に推す人もいます(叶和貴子は第21話「白い素肌の美女」(原作『盲獣』(実質的には『一寸法師』)('83年)、北大路欣也版第3話「赤い乗馬服の美女」(原作『何者』)('87年)でも"美女役"を務めた)。
図1天国と地獄の美女.png
天国と地獄の美女 叶.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第17話)/天国と地獄の美女」●制作年:1982年●監督:井上梅次●プロデューサ:佐々木天国と地獄の美女95_.jpg孟/植野晃弘/稲垣健司●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「パノラマ島奇譚」●時間:142 分●出演:天知茂/叶和貴子/伊東四朗/荒井注/五十嵐めぐみ/小池朝雄/宮下順子/水野久美/柏原貴/原泉/東山明美/草薙幸二郎/北町嘉朗/松本朝夫/出光元/加瀬慎一/相原睦/渡辺憲悟/本田みちこ/喜多晋平/山本幸栄/小田草之介/加島潤/近藤玲子バレエ団●放送局:テレビ朝日●放送日:1982/01/02(評価:★★★☆)


江戸川乱歩 美女シリーズ3.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ2.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日


江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他.jpgパノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6).jpg【1951年文庫化[春陽文庫(『パノラマ島奇談 他4編―江戸川乱歩名作集2』)]/1987年再文庫化・2015年改版[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『パノラマ島奇談 他4編』)]/1987年再文庫化[講談社・江戸川乱歩推理文庫(『パノラマ島奇談』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集第2巻』)]/2009年再文庫化[角川ホラー文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩ベストセレクション (6)』)]/2016年再文庫化[文春文庫(桜庭 一樹 (編)「パノラマ島綺譚」--『江戸川乱歩傑作選 獣』)]/2018年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他』)]】
パノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6) (角川ホラー文庫)』['09年]
江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他 (岩波文庫)』['18年]


●「江戸川乱歩の美女シリーズ」(全33話)放映ラインアップ
(天知茂版)

話数 放送日 サブタイトル 原作 美女役 視聴率
江戸川乱歩シリーズ 浴室の美女.jpg1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
2 1978年1月7日 浴室の美女 『魔術師』 夏樹陽子 20.7%
3 1978年4月8日 死刑台の美女 『悪魔の紋章』 松原智恵子 15.6%
4 1978年7月8日 白い人魚の美女 『緑衣の鬼』 夏純子 14.5%
5 1978年10月14日 黒水仙の美女 『暗黒星』 ジュディ・オング 15.3%
6 1978年12月30日 妖精の美女 『黄金仮面』 由美かおる 14.0%
7 1979年1月6日 宝石の美女 『白髪鬼』 金沢碧 13.0%
8 1979年4月14日 悪魔のような美女 『黒蜥蜴』 小川真由美 15.4%
9 1979年6月9日 赤いさそりの美女 『妖虫』 宇津宮雅代 16.9%
10 1979年11月3日 大時計の美女 『幽霊塔』 結城しのぶ 23.4%
岡田奈々の「魅せられた美女」.jpg11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
12 1980年10月4日 エマニエルの美女 『化人幻戯』 夏樹陽子 19.5%
13 1980年11月1日 魅せられた美女 『十字路』 岡田奈々 20.0%
14 1981年1月10日 五重塔の美女 『幽鬼の塔』 片平なぎさ 21.6%
15 1981年4月4日 鏡地獄の美女 『影男』 金沢碧 19.7%
16 1981年10月3日 白い乳房の美女 『地獄の道化師』 片桐夕子 20.1%
17 1982年1月2日 天国と地獄の美女 『パノラマ島奇談』 叶和貴子 16.6%
18 1982年4月3日 化粧台の美女 『蜘蛛男』 萩尾みどり 17.6%
19 1982年10月23日 湖底の美女 『湖畔亭事件』 松原千明 16.0%
20 1983年1月1日 天使と悪魔の美女 『白昼夢』(『猟奇の果て』) 高田美和 12.6%
江戸川乱歩シリーズ 禁断の実の美女.jpg21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%
22 1984年1月7日 禁断の実の美女 『人間椅子』 萬田久子 18.9%
23 1984年11月10日 炎の中の美女 『三角館の恐怖』 早乙女愛 22.4%
24 1985年3月9日 妖しい傷あとの美女 『陰獣』 佳那晃子 24.7%
25 1985年8月3日 黒真珠の美女 『心理試験』 岡江久美子 26.3%
(北大路欣也版)
1 (26) 1986年7月5日 妖しいメロディの美女 『仮面の恐怖王』 夏樹陽子 19.9%
2 (27) 1987年1月10日 黒い仮面の美女 『凶器』 白都真理 17.0%
3 (28) 1987年8月15日 赤い乗馬服の美女 『何者』 叶和貴子 17.9%
4 (29) 1988年5月14日 日時計館の美女 『屋根裏の散歩者』 真野響子 16.4%
5 (30) 1989年8月26日 神戸六甲まぼろしの美女 『押絵と旅する男』 南條玲子
6 (31) 1990年4月14日 妖しい稲妻の美女 『魔術師』 佳那晃子 15.8%
(西郷輝彦版)
1 (32) 1992年7月4日 からくり人形の美女 『吸血鬼』 美保純 15.5%
2 (33) 1994年1月8日 みだらな喪服の美女 『白髪鬼』 杉本彩 13.4%

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