「●み 宮部 みゆき」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2109】 宮部 みゆき 『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件』
読ませる。読ませるけれども長い。長いけれども読ませる。読ませるけれども...strong>
『おまえさん(上)』『おまえさん(下)』『おまえさん(上) (講談社文庫)』『おまえさん(下) (講談社文庫)』
『ぼんくら』('00年)、『日暮らし』('04年)に続くシリーズ第3作ですが、7年間もお待たせして読者に申し訳なかったという作者の意向によるとかでの単行本と文庫の同時刊行だそうで、有難いと言えば有難いことであり、こうなると文庫の方を買ってしまいます。
大きなハズレがなく、安心して読める作者の時代ものですが、最近、『おそろし』('08年)にしろ『あんじゅう』('10年)にしろ、岡っ引きが出てこないなあと思っていたら、しっかりこっちの方で活躍していました。
人物関係を丁寧に描き込んでいるので、7年間の記憶のブランクがそれによって埋まり、政五郎が回向院の茂七の手下ということは『本所深川ふしぎ草紙』('91年)からの系譜なのだなあと改めて認識したりもしました。
ただ、このシリーズの「名探偵役」は井筒平四郎ではなく弓之助と、これはもう決まっているみたいで、それはそれでいいとして、下手人の特定までが結構長かったなあという感じ。文庫換算の総ページ数で、『ぼんくら』が667ページ、『日暮らし』が888ページに対し、この作品は1130ページ。
このシリーズはもともと推理の部分だけでなく、長屋を巡る市井の人々の生活の活気や人情が魅力なのですが、ただ、事件の解明の方が遅々として進まないと思ったら、弓之助が結局一人で論理的謎解きをやってしまうため、そこまで長々と描かれたプロセスは何だったのだろうかという気も。
弓之助の謎解きの後も、下手人が逃亡しているため話は続くわけですが、また合間に事件に関係ないような話も入る―それでも、終盤の詰めの部分の展開は面白く、弓之助の兄で淳三郎という非常に面白いキャラの遊び人が活躍したり、片恋に苦悩する信之輔の葛藤があったりと、エンタメとしても人間ドラマとしても充実していたように思います。
読ませます。読ませるけれども長い。弓之助の謎解きまでを3分の2ぐらいに減らしてもよかったのではないかなあ(そしたら、謎解きで上巻が終わって、下手人捜しが下巻となり、上下巻の区切りも良くなった?)。この長さでも読ませることには一応変わりなく、そこは手馴れの成せる技ではありますが。