【1542】 ○ アガサ・クリスティ (恩地三保子:訳) 『杉の柩 (1957/08 ハヤカワ・ミステリ) ★★★☆

「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2400】 クリスティ 『愛国殺人
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

心理小説、文芸小説的な味わいのある作品。

杉の柩 ポケミス.jpg  杉の柩 ミステリ文庫.jpg  杉の柩 クリスティー文庫.jpg  杉の柩 hp.bmp SAD CYPRUS 2.jpg
杉の柩 (1957年) (世界探偵小説全集)』(恩地三保子:訳)『杉の柩 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-11))』『杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』 "Sad Cypress (Agatha Christie Collection)"(ハーパーコリンズ版1995)/Pan 1979

Sad Cypress (1940).jpg エリノアは幼馴染みの義理の従兄ロディーと婚約して幸せに浸っていたが、その二人の前にメアリイが現れ、彼女の出現でロディーが心変わりをし、婚約は解消され、激しい憎悪がエリノアの心に湧き上がる。そしてある日、彼女の作ったサンドイッチを食べたメアリイが死んだ。「犯人は私ではない!」と心の中で叫ぶエリノアの声が通じたかのように、名探偵ポワロが調査を開始する―。

 1940年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:Sad Cypress)、すごく面白いというわけでもないですが、初期作品に比べて登場人物の心理描写がキメ細やかで、これもまた「外れが少ないクリスティ作品」の1つではないでしょうか。

Sad Cypress 1963. Mass Market Paperback

 エリノアが法廷に立つ場面から始まる倒叙法を採っていますが、自分が嫉妬心に駆られていたことを自覚する彼女は、無罪を主張しながらも、自分が"無意識"にサンドイッチに毒を仕込んだかのような錯覚に陥りかけているという―こうした彼女の揺らめく心理の描写も含め、全体を通して、心理小説、文芸小説的な味わいのある作品です。

Sad Cypress - Pan 271.jpg 殺害されたメアリイは、門番の娘でありながら、野性の薔薇のように美しい女性であり、性格も素直。しかし、こうなってみると、その美しさも素直さも結果的には罪つくりであったといえ、そうしたこともあってか、彼女の心理には敢えて必要以上には踏み込んでいないように思いました。

 ポワロが調査を開始した契機は、屋敷の主治医でメアリイのことを密かに想っていた青年ピーター・ロードからの依頼であり、ラストで・ロードはエリノアに寄り添っていて、エリノアも彼の温かさを感じているという、ハッピーエンドとは言わないまでも、"壊れかけた"エリノアの"再生・再出発"を暗示している結末が良いです。

Sad Cypress 1954. Pan Books
 
 「彼女にはあなたが必要だ」とロードを後押しするポワロは、他の作品に類を見ない優しさ。この作品では、実質自分が事件を解決しながらも、法廷での事件の謎解きを全て弁護士にやらせ、自分は表に出てこないという謙虚さも見せています(そのことに物足りなさを感じるファンもいるようだが)。

 一方で、ミステリとしては、登場人物もそう多くないし、容疑者となると更に絞られるため、それほど意外性は感じられないかもしれません(しかも犯人は、「車掌・執事...」の言わば禁忌系であるし)。

名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 2003-2.jpgSad Cypress.jpg デヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズでも映像化されていますが、フランスの、ポワロやミス・マープルに代わってラロジエール警視とランピオン刑事が事件解決にあたる「クリスティーのフレンチ・ミステリー」シリーズでも2010年にTVドラマ化されていて、どのような味付がされているのかは観てのお楽しみです。ただ、個人的には、比較的原作に忠実に作られているデヴィッド・スーシェ版の方が良かったです。
「名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩」 (03年/英) ★★★☆ 

クリスティのフレンチ・ミステリー/杉の柩.jpgクリスティのフレンチ・ミステリー⑥杉の柩03.jpg 「クリスティのフレンチ・ミステリー(第6話)/杉の柩」 (10年/仏) ★★★


【1957年新書化[ハヤカワ・ミステリ]/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]/2004年再文庫化[クリスティー文庫]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1