【1530】 ○ クライブ・カッスラー (中山善之:訳) 『QD弾頭を回収せよ (1980/01 新潮文庫) ★★★★

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20作の「ダーク・ピット」シリーズの内、本当に面白かったのはこの辺りまでか。

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Vixen 03 (Dirk Pitt Adventure) ハードカバー/Vixen 03 (Dirk Pitt Adventure) Published 2010 by Bantam Books/Vixen 03 ペーパーバック /『QD弾頭を回収せよ (新潮文庫)

 コロラド州の湖に米軍の輸送機(Vixen03)が沈んでいることを発見したNUMA(国立海中海洋機関)は、その中に陸軍が極秘に開発した生物兵器「QD弾頭」が積まれていたことを知る。NUMAは輸送機を湖から引き揚げるが、何本かの弾頭が行方不明となっていた。一方、南アフリカ政府は、宿敵アフリカ革命軍の崩壊を目的とした偽装作戦として、米国の首都ワシントンを戦艦で砲撃する「野薔薇作戦」を計画、彼らは元英陸軍大佐を味方につけ、戦艦アイオワをワシントンに向け、ポトマック川を遡らせる。QD弾頭の行方を追うダーク・ピットは、弾頭が戦艦アイオワに搭載されたことを知り、QD弾頭の発射を阻止するために、ワシントンを砲撃中のアイオワに単身乗り込むが、敵の妨害工作に合っている間にQD弾頭は発射されてしまう―。

 1973年から2003年までに20作発表された「ダーク・ピット」シリーズの内の'78年に発表された第4作で(原題:Vixen03)、『タイタニックを引き揚げろ』('76年発表)の次の作品にあたりますが、この頃の「ダーク・ピット」シリーズが一番面白く、シリーズが進むにつれて完全無欠のスーパーマン的なキャラクターになっていくダーク・ピット像からすると、この頃はまだ"不死身"というイメージはさほどなくて、その分ハラハラさせられます。

 政治状況の設定は、この作品が書かれた時点での10年後の'88年を想定しているためか、自由自在と言うかやや荒唐無稽な趣もあるもののそれなりに凝っていて、アイオワという実在の戦艦を登場させているところなども、ベストセラー作家の妙手と言えますが、QD弾頭が武器商人の手違いでたまたまアイオワに搭載されてしまって、偽装工作であるがゆえの"挑発的"攻撃であるつもりが、強烈な細菌兵器が発射され大変なことになろうとしている―という言わば"アクシデント"がキーになっている点で評価が割れるかも(個人的には、充分に面白かったが)。

 ダーク・ピットがヘリコプターからロープにぶら下がって戦艦へ潜入するなど、派手なアクション映画のようなシーンもありますが、以前にも書いた通り、『タイタニックを引き揚げろ』の映画化作品「レイズ・ザ・タイタニック」('80年/米英)の余りの出来の悪さに懲りた作者は、このシリーズの映画化を永らく許可せず、その後は、『死のサハラを脱出せよ』('92年発表)が今世紀になってやっと「サハラ―死の砂漠を脱出せよ」('05年/米)として映画化されたのみで、四半世紀の空白が勿体なかった気もします。
 
 『QD弾頭を...』も、もしも映画化されていれば多分観ただろうし、「レイズ・ザ・タイタニック」の"駄作の罪"は大きい(?)。但し、映画「サハラ」も(こちらは観ていないが)、「自分の了承なしに大幅に脚本に手を加えた」として、作者は怒っているそうです。

 因みに、「ダーク・ピット」シリーズは、第6作の『大統領誘拐の謎を追え』('84年発表)以降の15作全てが、邦訳は上下2分冊となっており、だんだん読まなくなった個人的理由として、一作一作が長くなり過ぎたというのもあるかもしれません。

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