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最初のうちは嫌な奴だと思ったら...。読んでいくうちに、作者のうまさに嵌っていくような感じ。
垣根涼介 氏
『君たちに明日はない』['05年]『君たちに明日はない (新潮文庫)』「君たちに明日はない (坂口憲二 主演) [DVD]」
2005(平成17)年度・第18回「山本周五郎賞」受賞作。
リストラ請負会社「日本ヒューマンリアクト」に勤める村上真介の仕事は、リストラ専門の面接官であり、昨日はメーカー、今日は銀行と飛び回る日々の中で、女の子に泣かれ、中年男には殴られたりもするが、たとえ相手に何を言われようとも、真介はこの仕事にやり甲斐を感じている。その一方で、建材会社に勤める・芹沢陽子の面接を担当した際、彼女の気の強さに好意を抱く―。
作者はミステリや冒険小説を書いてきた作家ですが、こうした企業小説っぽいジャンルはどうなのかなあと思って、リストラ請負会社という興味あるモチーフながらも暫く手をつけないでいたのですが、NHKでドラマ化されたのを機に読んでみたら、そこそこリアリティがあって、意外と面白かったです(作者のサラリーマン時代の経験がベースになっている?)。
リストラ請負会社は(文庫解説の篠田節子氏は「私は聞いたことがない」「大嘘を前提としながら」と書いているが)世間的にはともかく、個人的にはアウトプレイスメント会社というものは必ずしも縁遠いものではなく、その上、先にNHKのドラマの方をちらっと観てしまったため、「こんな世界があるんだぞ~」と世間に知らしめて、あとは恋愛ドラマ路線でもっていくタイプの話だという、ややバイアスがかかった見方をしていたのかも知れません。
原作も最初はやや漫画チックに思えましたが(実際、漫画化されているが)、テンポの良さを保ちながらもトータルでは現実を逸脱していないし、最初の内は主人公の村上真介は相当エグイことをする嫌な奴だと思いつつも、話が進むにつれ次第にいい奴に思えてくるという、何だか読んでいくうちに作者の旨さに嵌っていくような感じでした。
例えばリストラ面接の場面においても、面接者である主人公と被面接者の両者の視点から書いていて、これがなかなか面白く(もしかしたら女性の心理の方が男性よりうまく書けているかも)、また、状況に応じて登場人物を名字で書いていたり名前で書いたりしているのも、計算の上でのことなのだろうなあ。
「怒り狂う女」「オモチャの男」「旧友」「八方ふさがりの女」「去り行く者」の5話から成る1話1企業という連作形式をベースに、33歳の真介と第1話「怒り狂う女」で彼の被面接者であった41歳の陽子との関係性の話が進行していき、陽子の仕事環境にも転機が訪れて、続編『借金取りの王子―君たちに明日はない2』('07年)、『張り込み姫―君たちに明日はない3』('10年)に繋がっていくようです(「平成不況」の次に「リーマン・ショック」が来たためにモチーフがいつまでも古びないのは皮肉だが、アウトプレイスメント業界自体は寡頭競争で大変なのではないか)
NHKのドラマは6話構成で、その内5話を本作から、1話を『借金取りの王子』をとっていますが、考えてみれば順番はどうにでもなる。ただ、いきなり原作に無い人物も出てきたりして、一瞬、自分が忘れてしまったのかと思ったりもし、最近の「土曜ドラマ」の原作の改変ぶりはあまり好きになれないなあ。
「君たちに明日はない」●演出:岡田健/榎戸崇泰●制作:屋敷陽太郎●脚本:宅間孝行●音楽:松本晃彦●主題歌:久保田利伸●原作:垣根涼介「君たちに明日はない」「借金取りの王子」●出演:坂口憲二/田中美佐子/須藤理彩/村田雄浩/前田吟/堺正章●放映:2010/01~02(全6回)●放送局:NHK
【2007年文庫化[新潮文庫]】