【1505】 △ 渡辺 淳一 『孤舟 (2010/09 集英社) ★★☆

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小説としてはどうってことないが、前半部分は定年退職した際の参考書として読める?

渡辺 淳一 『孤舟』.jpg孤舟.jpg 『孤舟』(2010/09 集英社)

 大手広告代理店・東亜電広を1年半前に60歳を前に退職した大谷威一郎は、退職後は自由な時間をゆっくり楽しもうと思っていたが、現実には今日をどう過ごせばよいのかと1日の長さに堪え切れない日々を送ることとなり、家にいても家事をするわけでもなくごろごろしている。その挙句、妻の洋子は"主人在宅ストレス症候群"となって家を出て行き、同じく家を出て行った娘のマンションに泊まりきりで戻って来ないという状況。鬱々とした日々を送る彼だったが、インターネットで偶然知ったデートクラブに入会し、小西佐智恵という27歳の女性と知り合って彼女に入れ込む―。

 広告代理店を定年退職して間もない人に、読んだよと言われて自分も読んでみた本で、その人の感想は「興味深かった。小説としてはどうってことないけどね」というものだったと覚えていますが、自分の感想もまさにその通りでした。

 前半部分は、仕事一本槍の会社人生を送ってきた団塊世代が定年退職し、家庭内で"濡れ落ち葉"症候群に陥るというある種の"社会事象"を、主人公に託して旨く描いているなあという感じで、妻子らに疎んじられて相手してくれるのは飼い犬のコタロウしかおらず、カルチャーセンターに行っても何となく馴染めず、お金も妻に管理され、不自由且つ鬱々とした日々を送る主人公がやや気の毒に。

 主人公は、元勤務先の広告代理店では、52歳で執行役員、55歳で常務執行役員とまあまあの道を歩んできたようですが(二子玉川に自宅マンションも買った)、60歳の手前で在阪子会社の社長としての転出話を持ち出され、社内ポリティックスが働いたことを悟って屈辱を感じ、すっぱり会社を辞めてしまうという、そのあたりはつまらない辞め方をしたというよりは、本人のプライドを買いたいところですが、その後、自宅に籠ってからが、ちょっとしたことで妻に怒りをぶつけたりして、かなり大人気ない―(こんな大人気無い人物でも常務執行役員にまでなってしまうのが会社というものかも知れないが)。

 デートクラブで知り合った若い女性に入れあげるようになってからは、益々その大人気の無さが露呈し、ストーリーの方も、自宅に彼女を呼び込んだりして彼女とより親密になる機会を窺う内に、妻がいきなり戻ってきてニアミス状態になるなど、ドタバタ喜劇風になっていきます。

 結局、話は『失楽園』みたくなることはなく、何となく予定調和で話は終わりますが、要するに、現役時代の肩書きから脱し切れていなかった自分というものにやっと気付いたということでしょうか(この小説の教訓的メッセージ? 27歳の女性にそれを教えられるというのも情けないが)。

 全体を通して文芸的な深みは無く、通俗ホームドラマのようではありますが、前半部分は、定年退職した際の参考書(主人公の心理行動面では反面教師的なそれ)として読める(?)部分もあり、一応「×」ではなく「△」にしておきます。

 『化身』('85年)、『失楽園』('95年)、『愛の流刑地にて』('05年)と、10年おきに日経新聞に長編「性愛」小説を連載してきた作者ですが、この作品は団塊の世代の定年にスポットを当てたものと言え、この人、'03年には『エ・アロール それがどうしたの』(中日新聞連載)を発表、老人の性を描いてから(作者はこの年に「菊池寛賞」を受賞している)、「性」と「老」を掛け合わせたようなテーマにスライドしてきているかも。まあ、本人も70代後半だからなあ。

【2013年文庫化[集英社文庫]】

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