【1496】 △ 山本 嘉次郎 「エノケンの近藤勇 (1935/10 P.C.L.) ★★★

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日本初の国産ミュージカル。太田光と岡村隆史を足して2で割ったような感じのエノケン。

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「エノケンの近藤勇」VHS  1935(昭和10)年10月15日公開 「エノケンのキネマソング

エノケンの近藤勇1.jpg 勤皇派と反目し合う新撰組組長・近藤勇(榎本健一)らが桂小五郎(二村定一)暗殺に動く中、組員の加納惣三郎(花島喜代子)は芸姑との恋に落ちていた。一方、薩長同盟を成し、大政奉還実現を目指ざす坂本龍馬(榎本)は、寺田屋騒動ではお龍(高尾光子)の機転で何とか難を逃れるものの、その後に中岡慎太郎(柳田真一)と共に暗殺される。新撰組は脱党者が増えて混乱し、更に、辻斬りの疑いをかけられた加納は同士・田代又八(如月寛多)を斬ってしまい芸姑と心中。近藤は、池田屋に勤皇の志士が集まっていることを聞き、斬り込みをかける―。

 浅草の舞台での往年の爆発的な人気に陰りの出たエノケンが、トーキーに進出し、山本嘉次郎(1902-1974)監督と組んだ第1作が「エノケンの青春酔虎伝」('34年)、第2作が「エノケンの魔術師」('34年)、そして第3作がこの「エノケンの近藤勇」('35年)で、この頃のエノケンの映画は、舞台で彼が演じたものを映画化しており、彼の舞台がどのようなものであったかが想像できて興味深いものがあります。

榎本健一.jpg岡村隆史.jpg太田光.jpg エノケン一座「ピエル・ブリヤント」で、エノケンと共に座長だった二村定一演じる桂小五郎の殺陣シーンなどは完全に舞台風で、それに対して主役のエノケンは、場面々々で様々なパターンの演技を見せているのが芸達者ぶりを窺わせます(この頃のエノケンは若々しく、爆笑問題の太田光とナイティナインの岡村隆史を足して2で割って少し男前にしたような感じ。ヒロポン中毒になる以前の彼か)。

 近藤勇と坂本龍馬の1人2役ということで、襖を挟んで2人が偶然居合わせる場面などの映画的趣向はありますが、フィルム合成は無く編集操作のみ、基本的に舞台基調という感じで、前半の山場である「寺田屋騒動」は、まるでドリフの「8時だョ!全員集合」の冒頭コントのようでした。

 龍馬暗殺の場面では結構シリアスに演技しているかと思うと、最後におちゃらけてみせたりするなど、常にゲラゲラ笑えるというものではないですが、真面目にやっていながらいきなりギャグで落としたり、或いは、所々に小さなギャグを挟んだりと、バラエティに富んでいます(山岡鉄太郎(丸山定夫)が近藤勇を諭す場面など、シーンの終わりまで真面目な時代劇風だったりもする)。

 最後の「池田屋騒動」はミュージカル調。前半はクラシック(ラヴェルの「ボレロ」)で後半は和楽、大円団は紙吹雪舞う凱旋パレード風で、深作欣二監督の「蒲田行進曲」の楽屋落ち風のエンディングは、この作品に想を得ていることが窺えました。

 間諜が「X二十七番」(中村是好)という名前になっているなど、洋画の影響が見られるかと思えば、時計が時報を鳴らす際に台湾と満州の時刻も併せて告げるなど、昭和10年という時代を反映させた遊びも入れたりしています。

 近藤勇は真剣勝負の際に高下駄を履くとやけに強くなり、坂本龍馬は眼鏡を外すと何も見えなくなるというオリジナル設定。加納惣三郎は、司馬遼太郎の『新選組血風録』中の1篇「前髪の惣三郎」(大島渚監督の「御法度」の原作)では、ホモセクシュアル嗜好者から熱い視線を浴びる美青年でしたが、この作品では女優が演じており女剣劇風、と言うより芸姑との恋に落ちるため宝塚を観ているみたい―但し、この挿話は要らなかったようにも思いました。

 こうした無駄もあったせいか、この作品の批評家受けは良くなかったようですが、「キートンの爆弾成金」との併映ということもあって興行的には成功し、以降、山本嘉次郎監督とのコンビで次々と作品を世に送り出すことになります。

 作品自体の出来はそこそこといった感じで、思想性も個人的には特に感じられませんでしたが、P.C.L.(東宝の前身の1つ)初の時代劇であり、日本で初の国産ミュージカルであるという映画史的な価値の方が高い作品かも。エノケンはその後、1939(昭和14)年に大佛次郎原作、近藤勝彦監督の「エノケンの鞍馬天狗」に出演、「鞍馬天狗」は薩長など勤皇は善で、それに対する新撰組などの佐幕は悪という単純な割り切りのもと作られているため、そちらではエノケン演じる鞍馬天狗は新選組の敵役となっています。

二村定一(桂小五郎)と千川輝美(幾松)
エノケンの近藤勇桂小五郎.jpg「エノケンの近藤勇」●制作年:1935年●監督:山本嘉次郎●脚本・原作:ピエル・ブリヤント/P.C.L.文芸部●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●時間:81分●出演:榎本健一/二村定一/中村是好/柳田貞一/如月寛多/田島辰夫/丸山定夫/伊藤薫/花島喜世子/宏川光子/北村季佐江/千川輝美/高尾光子/夏目初子●公開:1935/10●配給:P.C.L.(評価:★★★)

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