【1491】 ◎ 小津 安二郎 (原作:ジェームス槇)「浮草物語 (1934/11 松竹蒲田) ★★★★☆

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完璧な「人情話」。ストーリー、カメラ、演出のどれをとっても完成度が高い。

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浮草物語 [VHS]」松竹ホームビデオ版「浮草物語(吹替・活弁版) [VHS]

浮草物語 0.jpg 信州のとある田舎町に、旅役者・市川喜八(坂本武)の一座がやってくるが、実はこの町には、喜八の昔の女(飯田蝶子)と、2人の間にできた息子・信吉(三井秀男)がいる。喜八は自分が父とは名乗らず、毎日のように女の家を訪ねて行くが、喜八の今の世話女房(情婦)のおたか(八雲理恵子)はこのことを知って嫉妬し、当てつけに妹分の女優おとき(坪内美子)に信吉を誘惑させるよう仕向ける。ところが、おときと信吉は本当に好き合うようになってしまう―。

浮草物語 1.jpg 小津安二郎(1903-1963)監督の1934(昭和9)年の無声映画作品で、小津安二郎はこの作品で、「生れてはみたけれど」「出来ごころ」に続き3年連続で「キネマ旬報ベスト・テン」の1位に輝きました。また、前年の「出来ごころ」に続く坂本武主演の"喜八もの"と言われる作品でもありますが、「出来ごころ」よりはこちらの方が断然完成度が高いように思えました。

 オリジナルはサウンド版であり主題歌まであったそうですが、現存プリントはサイレント映画。これも松田春翠の活弁付きビデオで鑑賞し(ノーカット版は118分のようだが、ビデオは85分だった)、春翠の名調子にハマった部分はありましたが、ストレートに「無声」の浮草物語 tubouti41.jpgまま観ても、ぐっとくる作品ではないでしょうか。

A Story of Floating Weeds.jpg 同じ坂本武の"喜八もの"と言っても、喜八が下町定住者だった「出来ごころ」に対し、こちらは旅役者であって状況設定はかなり異なっており、また、小津作品全体を通しても、こうした旅役者を扱ったものは珍しいようです("流れ者"という意味では、小津に影響を受けた山田洋次監督の「寅さんシリーズ」の原点とも言えるが)。
坪内美子

A Story of Floating Weeds (Ozu, 1934)2.jpg 暗くてじめじめした話かと思ったら、ユーモラスなギャグが絡むことで救われて、喜八の情婦が妹分の女優を使って喜浮草物語 2.jpg八の息子を籠絡しようとするところで、いやあ今度こそホントに嫌な話になってきたなあと思ったら、予想外の展開(「蛙の子は蛙、学があっても女には手が早い」とか、深刻な場面なのに、ここでも笑浮草物語 3.jpgわせる)、結局、この坪内美子演じる妹分女優のおときというのが、一番可哀想だったなあと思いました(「寅さん」における浅丘ルリ子のリリーか)。

 八雲理恵子が演じる一見毒婦が如く見えたおたかにも、最後には観る者の同情を引く話の運びが旨く、そうした人間像の多面的な描き方は、一座の長老格などの脇役にまで及んでいます。

A Story of Floating Weeds 3.jpg 小津自身による原作は(ジェームス槇は小津のペンネーム)、旅まわりのサーカスの一座を舞台としたアメリカ映画「煩悩」を下敷きにしA Story of Floating Weeds fishing.jpgているそうですが、完璧に日本的な人情話に仕上がっていて、人物や部屋の調度などを映し出すローアングルのカメラも良く、親子で渓流釣りをする場面(片方は親子だとは知らないわけだが)や、飯田蝶子演じる母親が息子に屹然と事実を告げる場面など、印象に残るシーンが多くありました(学生である息子が若干老けて見えたのが難か。おときとのバランス上、敢えてそうしたのかもしれないが)。完璧な「人情話」。ストーリー、カメラ、演出のどれをとっても完成度はかなり高いように思います(親子が並んで渓流釣りをする場面は後の「父ありき」('42年)などにもある)。

A Story of Floating Weeds (Ozu, 1934)
The Story of Floating Weeds (1935).jpg「浮草物語」●制作年:1934年●監督:小津安二郎●脚本:池田忠雄●撮影:茂原英朗●原作:ジェームス槇(小津安二郎)●活弁:松A Story of Floating Weeds (Ozu, 1934).jpg田春翠●時間:85分(118分)●出演:坂本武/飯田蝶子/三井秀男/八雲理恵子/坪内美子/突貫小僧/谷麗光/西村青児浮草物語 笠智衆.jpg/山田長正/青野清/油井宗信/平陽光/若宮満/懸秀介/青山万里子/池部光村/笠智衆(ノンクレジット)●公開:1934/11●配給:松竹蒲田●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-13)(評価:★★★★☆)●併映:「出来ごころ」(小津安二郎)

笠智衆(村人(芝居の客の一人))...... 笠智衆の登場はこの1シーンのみ

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This page contains a single entry by wada published on 2011年5月22日 20:11.

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