【1488】 ○ 小津 安二郎 (原作:清水 宏) 「大学は出たけれど (1929/09 松竹蒲田) ★★★☆ (△ 小津 安二郎 (原作:野田高梧) 「和製喧嘩友達 (1929/07 松竹蒲田) ★★★)

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新卒就職難の世相を反映した「大学は出たけれど」。モダンな感覚と併せて、現代に通じる面が。

大学は出たけれど vhs.jpg大学は出たけれど.jpg   和製喧嘩友達3.gif 和製喧嘩友達 haisinnban.jpg
大学は出たけれど(吹替・活弁版) [VHS]」('29年)高田 稔/田中絹代 「和製喧嘩友達」('29年)GyaO!インターネット配信版
 大学を卒業したものの定職につけない徹夫(高田稔)は、故郷の母親に「就職した」と嘘の電報を送ったことから、母は婚約者の町子(田中絹代)を連れて上京。2人の嬉しそうな顔を見ると、徹夫はなかなか本当のことを言い出せずにいるが、徹夫の嘘を見抜いた町子は、徹夫に内緒で、カフェで働き始める―。

下宿のおかみさんに、母親には自分が会社に通っていることにしてくれと頼みこむ徹夫

小津安二郎 大学は出たけれど  清水宏原作.jpg 大学卒業者の就職率が約30%という不況の底にあった昭和初期を舞台に、仕事に就けない男が奔走する様をコメディっぽく描いた小津清水宏 監督.jpg安二郎監督の1929(昭和4)年の無声映画作品。原作は、小津安二郎と親交の深かった、同じく松竹系の映画監督・清水宏(1903-1966/享年63)となっていますが、元々は清水宏が監督する予定だったのが都合で出来なくなり、替わって盟友の小津安二郎が監督した作品であり、清水宏は原案提供者といったところか(「学生ロマンス 若き日」('29年)の原作者・伏見晁が原作者であるとの説も)。

清水宏(1903-1966)

 公開された時は70分の長編作品だったそうですが、11分しかフィルムが現存していないとのことで、話がぶつ切れになって「大学は出たけれど(吹替・活弁版) [VHS]」.jpgいるのではないかと思ったら、あたかも長編を短篇に編集し直したかのように纏まった1つの話になっていました。

松田春翠.png ただ、そうしたこともあってか、松田春翠(1925‐1987)の「活弁」付きのI・V・C版ビデオで鑑賞したのですが(松竹ビデオ(S・H・V)版は活弁無し)、「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」(1933年)がアテレコに近い活弁なのに対し、どちらかというと"ト書的"(解説的)活弁です。

大学は出たけれど(吹替・活弁版) [VHS]

大学は出たけれど3.jpg 大学を卒業した時に許婚(田中絹代が初々しい)がいて、それで就職が決まらないというのは結構キツイなあと思ってしまいましたが、母親と許婚の手前、会社に行くふりをして弁当を持って出かける主人公にとっての"仕事の場"は公園であり、"仕事" は公園に来ている子供らとボール遊びをすること、子供らとすっかり仲良くなるが、雨が降った日は"仕事"が休みになる―といった具合に、ユーモラスに描くことで救われています。恋女房となった田中絹代に実は就職が決まっていないと打ち明ける場面でも、「サンデー毎日」の新聞広告を見せるギャグ(つまり自分は、実は毎日が休日状態だと)。

大学はでたけれど2.jpg 途中、客として訪れたカフェで、夫に内緒で働いている奥さんを見てしまったりするハプニングもあったりして(カフェの先客で、その奥さんに「君は最近新しく入った子か」などと声掛けしているのは笠智衆)、最後は、女房の健気さに勇気づけられて主人公は発奮、「受付ならば」と言われて頭にきて辞去した会社を再訪し、「受付でも何でもやります」と―(それまで"雨天休業"だった主人公がどしや降りの日に出掛けていくところもミソ。見送る田中絹代が可憐)。

高田稔/田中絹代(当時19歳)
       
大学は出たけれど 5.jpg いい話に纏め過ぎている感じもしますが、まあ、そういう映画なのでしょう。当時の若者にリアルタイムでエールを送った作品とも言えるのでは。

「ロイドのスピーディ」.jpg 昨今の新卒就職難と比べると、厚生労働省と文部科学省が、全国の大学や短大など112校の6250人の学生を抽出して、その就職内定率を調査した結果によれば、2011年3月に4年制大学を卒業した学生の就職内定率は4月1日の時点で91.1%と過去最悪とのこと(この調査の数字は"甘め"に出るとの批判もあるが、それでも90%を超えている)、この"過去最悪"とは、同統計を取り始めてからの"過去最悪"であって、昭和初期にはもっと厳しい時代があったのだなあと。
背後のポスターは「ロイドのスピーディ」(1928)

 そうした当時の世相を作品に反映させている意味で記録的な意義もあり(実際「大学は出たけれど」という言葉は流行語になった。それが今の時代にも通じるというのが皮肉でもある)、また、物語としても共感できるという意味で、小津安二郎の感性のモダンさを感じる作品です。

田中絹代2.jpg 田中絹代.bmp 田中絹代3.bmp 田中 絹代

 小津安二郎は、フィルムが現存する彼の作品の中で最も古い作品で自身の第8作目にあたる「学生ロマンス 若き日」('29年)とこの「大学は出たけれど」の間に、第9作目にあたる「和製喧嘩友達」('29年/松竹蒲田)という作品を撮っています。

和製喧嘩友達1.jpg 留吉(渡辺篤)と芳造(吉谷久雄)は、親しい仕事仲間、貧しいゆえに2人でルームシェアをしているトラック運転手である。あるとき偶然、身寄りのない娘・お美津(浪花友子)と出逢う。住むところのないお美津が2人の長屋に転がり込み、お美津はかいがいしく家事をしてくれるが、2人の男の間では、恋の鞘当てが始まる。やがて、留吉・芳造の長屋の近くに住む学生・岡村(結城一朗)と、お美津が相思相愛であったのだ、という現実を、留吉・芳造は知ることとなる。お美津と岡村をさわやかに見送る留吉・芳造であった(「Wikipedia」より)。
「和製喧嘩友達」左から吉谷久雄、渡辺篤、浪花友子。

和製喧嘩友達2.jpg これも元々は77分の作品でありながら、デジタル復元版で現在観ることができるのは当時家庭用に編集された14分の短縮版です(「小津安二郎 名作セレクションV」に所収)。男同士の二人暮らしのところへ若い女性が居ついて、2人が彼女を巡って牽制し合うも、最後はその女性に好きな人が出来て...というこの展開は、リチャード・ウォレスの喜劇映画「喧嘩友達」('27年)をベースにしているということで(タイトルに「和製」とつくのはそのため)、脚本の野田高梧(1893‐1968)が小津と組むのは「懺悔の刃」('27年)に次いで2作目。結局、小津の遺作「秋刀魚の味」('62年)までの付き合いとなるわけですが、この頃、小津は満25歳、野田高梧は満35歳野田高梧.jpgと若く(主演の渡辺篤は満31歳、吉谷久雄は満25歳、浪花友子は満20歳、結城一朗は満24歳と出演者も皆若いのだが)、とりわけ小津の監督としての若さが光るとともに、彼の出自が喜劇であることを改めて感じさせる作品となっています。

 コメディとしてのオリジナリティやテンポはイマイチですが、これが、あの「東京物語」('53年)や「彼岸花」('58年)、「秋日和」('60年)や「秋刀魚の味」などの脚本を書いた野田高梧のオリジナル脚本だと思うと興味深いものがあります(小津より10歳年上だったのだなあ)。

野田高梧(1893‐1968)

朗かに歩め.jpg朗かに歩め 高田.jpg朗かに歩め  .jpg 因みに、「大学は出たけれど」の高田稔と「和製喧嘩友達」の吉谷久雄(ハンチングを被った小柄な方)は、翌年の同じく小津作品である「朗かに歩め」('30年/松竹蒲田)でヤクザ仲間の役で共演します(就職が決まらない学生とトラック運転手のそれぞれ次の役がチンピラ役かあ。こちらはヤクザ稼業から足を洗おうとする男たちの話であり原作は清水宏)。

高田 稔 in「朗かに歩め」('30年/松竹蒲田)

大学は出たけれど(shv).jpg田中絹代・笠智衆 in「大学は出たけれど」('29年/松竹蒲田) 笠智衆はカフェの客の役
大学は出たけれど 笠智衆・田中絹代.jpg大学は出たけれど       .jpg大学は出たけれど 題.jpg「大学は出たけれど」●制作年:1929年●監督:小津安二郎●脚本:荒牧芳郎●撮影:茂原英朗●原作:清水宏●活弁:松田春翠●時間:70分(現存11分)●出演:高田稔/田中絹代/鈴木歌子/日守新一/大山健二/木村健二/飯田蝶子/坂本武/笠智衆/筑波雪子/小藤田正一●公開:1929/09●配給:松竹蒲田(評価:★★★☆)
大学は出たけれど vhs.jpg「大学は出たけれど」vhs7.2.jpg

「和製喧嘩友達」.png「和製喧嘩友達」●制作年:1929年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧●撮影:茂原英朗●原小津安二郎 名作セレクションV.png作:野田高梧●時間:77分(現存14分)●出演: 渡辺篤/吉谷久雄/浪花友子/結城一朗/高松栄子/大国一郎/若葉信子●公開:1929/07●配給:松竹蒲田(評価:★★★) 
 渡辺篤/吉谷久雄/浪花友子

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【収録作品】 『母を恋はずや』(1934)/『青春の夢いまいづこ』(1932)/『学生ロマンス 若き日』(1929)/『朗らかに歩め』(1930)/『大学は出たけれど』(1929)/『東京の女』(1933)/『落第はしたけれど』(1930) /『東京の宿』(1935)/『和製喧嘩友達』(短縮版・1929年)/『突貫小僧』(短縮版・1929年) /『菊五郎の鏡獅子』(1935年)

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