【1485】 ○ 宮部 みゆき 『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』 (2010/07 中央公論新社) ★★★★

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"手練れ"の域。多様性は拡がったが、1つの話がやや長いか。「逃げ水」が良かった。

宮部 みゆき 『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』.jpg あんじゅう.jpg  『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』(2010/07 中央公論新社)

 村の山の旱(ひでり)神に憑かれた少年が、自らの意に反して周囲の水を干上がらせていくため人々は困惑するが、少年はなぜか旱神と仲良くなる―(第1話「逃げ水」)。

 夭逝した双子の姉を模した人形を家族は大事にしたが、残された妹に慶事がある度に人形に無数の針が立ち、妹には針の跡のように発疹が出る―(第2話「藪から千本」)。

 幽霊屋敷と呼ばれるに空き家に住まうことになった夫婦と、屋敷の暗闇に潜む人ではない獣は、やがて互いに心を通わせ合うようになる―(第3話「暗獣」)。

 坊主のふりをして托鉢行脚をしていた破壊僧が訪れた村には閉鎖的な因習があり、ある村人を魔人に変えてしまう―(第4話「吼える仏」)。

 袋物屋の三島屋に事情があって身を寄せている娘おちかが、江戸中から集めた怖い話を百話になるまで聞いていくという『おそろし-島屋変調百物語事始』('08年)の続編で、前回同様に今回も4話ありますが、もう作者は、この形式においては"手練れ"の域にあると言っていいのでは。

 それぞれに趣向が異なり楽しませてくれますが、前作が単行本429ページだったのに対し、今回は563ページということで、1話当たり3割ぐらい長くなっている感じでしょうか。その分、話が本題に入る前に三島屋の周辺話もあったりして、客が話をしにやってくるまでの事情もよく書き込まれてはいますが、やや冗長感も...。

 幽霊や妖怪よりも怖いのは〈生身の人間>であるというのが1つのコンセプトだと思いますが、前作よりもバリエーションは拡がっている感じがしました。

 個人的には、第1話の「逃げ水」が、「水が次々消える」という突拍子もない出来事から始まるため引き込まれ、一番面白くもあったのですが、これなどは「日本むかし話」の世界に近いかも。

 第2話の「藪から千本」などは、むしろ基本コンセプトに近いものだと思いますが、こうなると『おそろし』の中にあった話にも近いかなあ(夭逝した子供の人形を作るという話は、ラテンアメリカの民話にもあったりはするが)。

 見開きごとにある南伸坊氏のイラストが、全体にほんわかした雰囲気を醸し、また状況説明の役割も担っていますが、第3話「暗獣」はそれが最も効いている感じで(結局これがタイトルと表紙イラストに)、作者的には新規性を感じましたが、一方で、やや<宮崎駿>的な感じもしました。
 それが、第4話「吼える仏」で、また人間の性とか業といったテーマに回帰しているといった感じでしょうか。

 自分としては「逃げ水」が一番好みで、「藪から千本」はドロっとした話ではあるものの、疱面の女性が淡々としているのが救い、あとの作品もまあまあで、星4つの評価は「逃げ水」に合わせたもの。

【2012年ノベルズ版[新人物ノベルス]/2013年文庫化[角川文庫]】

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