【1484】 △ 畠中 恵 『しゃばけ (2001/12 新潮社) ★★★

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ヤングアダルト向け時代物といった感じ。大人の読み物としてはやや物足りないのでは。

しゃばけ 2001.jpgしゃばけ』(2001/12 新潮社)しゃばけ 文庫.jpgしゃばけ (新潮文庫)

 2001(平成13)年・第13回「日本ファンタジーノベル大賞」(優秀賞)受賞作("大賞"ではない)。

 江戸で有数の回船問屋と薬種問屋と営む長崎屋の跡取り息子・一太郎は生まれながらの病弱であったため、祖父は佐助と仁吉という2人の手代をつけるが、彼らは人間の姿をしてはいるものの、実はそれぞれ犬神と白沢という妖(あやかし)。一太郎は、昔から人には見えない妖を見ることが出来、更に彼らが自分を守ってくれていることを知っている。若旦那と呼ばれながらも病弱のゆえ、ろくに仕事をさせてもらいない一太郎は、ある用事で夜中に外出した帰り人殺しの現場を目撃して犯人に襲われそうになるも、妖の助けでその場を逃れるが、その後、同じような類の殺人事件が連続して起きる―。

 作者の「しゃばけ」シリーズの第1作で、もともと懸賞応募小説だったためシリーズ化は意図していなかったとのことですが、その後、『ぬしさまへ』('03年)、『ねこのばば』('04年)、『おまけのこ』('05年)、『うそうそ』('06年)、『ちんぷんかん』('07年)、『いっちばん』('08年)、『ころころろ』('09年)、『ゆんでめて』('10年)と、コンスタントにシリーズ作品を生み出しており、最初のキャラクター設定がしっかりしていたというのもシリーズとして続いていった要因なのでしょう。

 この中で長編作品はこの『しゃばけ』と『うそうそ』だけで、後は短篇の連作ですが、そのためか、この作品がシリーズの中で一番面白いとする人も多いようです。個人的にもそんな気がしますが、一太郎の置かれている状況とその周辺の書き込み、妖(あやかし)それぞれのキャラクターや特性の紹介があって、やはりそれらを最初に読んだ時の新鮮さかなあ。

 事件及びその謎解きとしてはやや単調で、前述の書き込みがあるため冗長感も否めず、連続殺人事件ではあるけれども(妖が絡んでいるせいもあるが)何だか軽いなあという感じ。むしろ、一太郎の出生の秘密が明かされることの方が、シリーズ全体としては重要な出来事だったかも知れません。

 若い女性に人気があるシリーズといいうことですが、ファンタジーノベルでもあるため、中高校生が読みそうな「ヤングアダルト向け時代物」といった感じがしました(妖の台詞などは殆ど現代語であるし)。テレビドラマ化もされましが、これ映像化すると、妖(あやかし)が"仮装大会" になってしまうような...(観ていないが)。

 若い女性に人気が出たのは、一太郎の一見"草食系"風だが、実は芯が強く、男義もあるキャラクターの魅力かなと。全体にほのぼのしていて、色恋が絡んだどろっとした話が少なく、意図的にそうしたものを避けているような気もします(と思ったら、第2作『ぬしさまへ』の中に仁吉の恋の物語があったが(「仁吉の思い人」)、これとて妖の妖に対する千年も前の恋の話であり、極めてファンタジック)。

 シリーズ全体を通して勧善懲悪ストーリーで、読んでいて安心感はあるし、妖(あやかし)達が合議して事件解決に挑む姿は微笑ましいけれど、大人の読み物としてはやや物足りないのでは。

【2004年文庫化[新潮文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2011年5月21日 00:06.

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