【1481】 △ 道尾 秀介 『光媒の花 (2010/03 集英社) ★★★

「●み 道尾 秀介」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1528】 道尾 秀介 『月と蟹
「●「山本周五郎賞」受賞作」の インデックッスへ

部分的にはいいが、全体的には"文学"の部分も"ミステリ"の部分も共に中途半端。

光媒の花.jpg光媒の花』(2010/03 集英社)

 2010(平成22)年・第23回「山本周五郎賞」受賞作。

 印章店を細々と営み、認知症の母と2人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く―。(「隠れ鬼」)

 「隠れ鬼」「虫送り」「冬の蝶」など6章から成る短篇連作で、何れもミステリ性はそれほど前面に出されておらず、むしろ文芸小説のような雰囲気もあり、今洋モノの推理小説などでも"文学的ミステリ(文芸推理)"のようなものが流行っていますが、それの日本版かなといった印象を受けました。

 「山本周五郎賞」受賞作ということで、『カラスの親指』(140回)、『鬼の跫音』(141回)、『球体の蛇』(142回)に続く作者4連続目の直木賞候補作(143回)であり、『月と蟹』での直木賞受賞(144回)へのステップになった作品とも言えます。

 冒頭の「隠れ鬼」を読んだ時はなかなか面白いと思ったのですが、全体を通しては、"文学的ミステリ"としては軽いかなという印象で、もともとミステリの部分が抑えられているために、"文学"の部分も"ミステリ"の部分も、共に中途半端になった感じがします。

 構成的にも、それぞれの話が少しずつ被っているものの、「虫送り」と「冬の蝶」の関係が微妙に絡んだものである外は(ここだけ連作的)、あまり設定を被せる必然性が感じられず、最後の「遠い光」で冒頭の印章店が出てきてあっと思わせますが、これも、6話全体をインテグレーションするようなものにはなっていなくて肩透かし気味。同じく連作モノである、東野圭吾の『新参者』('08年/講談社)の上手さを改めて感じてしまいました。

 「冬の蝶」に出てくる不幸な少女の話なども、ストーリーのための材料という印象が拭えず、質感を伴った暗さではないため感動にも結びつきにくく、その分、ホラー作家出身の作者の器用さばかりが目立ってしまいました。

 ただ、それぞれの物語において、成長した登場人物が自分の幼年期の記憶を辿る部分の描写などは秀逸で、そうした部分はまさに"文芸的"であり、筆力も感じました。
 全体に、「これ、山本周五郎賞?」と言いたくなるような小ぢんまりとした作品が多いために、その部分の「密度の濃さ」が却って印象に残りました。


【2012年文庫化[集英社文庫]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1