【1472】 ○ 道尾 秀介 『ソロモンの犬 (2007/08 文藝春秋) ★★★☆

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読み始めてしばらくした時の予測よりは、ラストは楽しめた。「ライト感覚」。

ソロモンの犬.jpgソロモンの犬』['07年] ソロモンの犬 文庫.jpgソロモンの犬 (文春文庫)』['10年]

 ある雨の日、少し奇妙な雰囲気の喫茶店で顔を合わせた4人の男女。重苦しい空気の中、秋内静は切り出した。「一度、ちゃんと話し合うべきなのかもしれない」「この中に、人殺しがいるのかいないのか」―2週間前、彼らの目の前で、大学教授の息子である小学生の陽介が、散歩中の愛犬に引きずられるような形で車道に出されて大型トラックに轢かれて亡くなった。秋内の心の中には、 一体なぜ犬は急に走り出したのか、3人は自分に何か隠し事をしているのではないかとの疑念があった―。

 秋内および秋内と同じ大学の友人3人(京也、彼の恋人のひろ子、秋内が想いを寄せる智佳)の4人の関係の中で話は進んでいきますが、巷で「青春ミステリ」と言われた如く、学生同士の友達付き合いや恋愛における遣り取りが、ごく自然に、時にコミカルに描かれていて、比較的上手に作られた青春ドラマを見ているような感じでしょうか。

 その分、ミステリの謎解きの方は遅々として進まず、読んでいてややイライラしてくるのですが、もうあんまり期待しなくていいやと思った終盤頃になって急速な展開を見せ、謎を解くのは主人公の秋内ではなく、動物が専門の大学の先生―この先生のちょっと変わったキャラや、犬の習性を織り込んだ謎解き自体も楽しめました(謎解きについては、リアリティとしてどうかというのはあるが、まあ「純粋推理」と見れば許される範囲か)。

 全体としては若者の日常を描いた青春小説という印象の方が強く、人は死ぬし、結構ウエットな部分もありながらも、どことなく軽くて明るい感じで最後までいく―文芸的な要素(この作品はジュブナイルっぽい感じもするが)と推理小説的な要素を併せ持つ作者の作品の1つタイプがここにも表れているように思いました。

 叙述トリックとでも言える点が2つあり、1つは、何かを知っている人間が知らないふりをして(登場人物や「読者」と共に)謎解きに参加していることですが、もう1つは完全に「読者」に向けたトラップで、但しこれに犯人もひっかかるというのがかなり不自然で無理があり、こちらはちょっと作り込み過ぎかなあという感じも。

 でも、いろんなことを軽々とやってみせる才能は感じるなあ。結局、すべてにおいて軽くなってしまうんだけれども、お話自体が大学生のライト感覚の青春物語なので、この作品について言えば、フィットしている(してしまっている)ように思いました。

 【2010年文庫化[文春文庫]】

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