【1428】 ○ ダニエル・シュミット 「ヘカテ」 (82年/仏・スイス) (1983/08 ヘラルド・エース) ★★★★

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「女が愛しているのは快楽だけだという事実」を突き付け、「愛の行為の果て」を描いた映画。

Hécate(1982).jpgヘカテ/ダニエル・シュミット.jpg ヘカテ/エレンディラ.jpg
Hécate(1982) 輸入版DVDジャケット「ヘカテ [DVD]」ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/VHS「エレンディラ/ヘカテ」

 1942年、スイスのベルン。フランス大使館主催のパーティの人混みの中で、ある男がひとりもの想いに沈んでいた。その男ジュリアン・ロシェル(ベルナール・ジロドー)は10年前、フランスの植民地である北アフリカの地に赴任、熱い太陽の下で退屈な日々を送っていたが、あるパーティでテラスで風に吹かれていたクロチルドという女性(ローレン・ハットン)に出会い、その魔性の魅力に溺れていく。やがて、彼はクロチルドに大きな秘密があることを知る。それが秘密と呼んでいいものなのか、彼自身にもわからないのだが。彼は、ギリシャ神話に登場する女神ヘカテヘカテ パンフ.JPGを思い浮かべた。犬を従えて闇を歩く夜の魔女ヘカテ―。

エレンディラ サンリオ文庫.png かつてレンタルビデオで「エレンディラ」と「ヘカテ」の2本組みというのがありましたが、何だか凄い組み合わせだなあと(エレンディラの祖母とヘカテことクロチルドの"魔女"セットか)。「エレンディラ」はガルシア=マルケス原作、「ヘカテ」はポール・モラン(1888-1976/享年88)原作で、この作家は外交官としてアフリカに赴任していたこともあり、亡命先のスイスでの、ココ・シャネル(1883-1971/享年87)へのインタヴュー取材などでも知られています。

HECATE by  Daniel Schmid.jpgHecate.jpg 「ヘカテ」というのは、ギリシャ神話に出てくる、男を、子供を、更に世界をも支配する巨大な魔力を持つ、神秘的で残酷な女神のことだそうで、主人公の男にとってクロチルドはまさに「ヘカテ」であり、パンフレットにある批評の「恋とは永遠に不確か」(映画評論家・渡辺祥子)、「恋に乱れる男たちの愚かさよ」(画家・合田佐和子)と言うよりむしろ、「女が愛しているのは快楽だけだという事実」(翻訳家・小沢瑞穂)を突き付け、「愛の行為の果て」(作家・辻邦生)を描いた映画とも言えるかも。

Hécate(1982) 2.jpg クロチルド役のローレン・ハットン(Lauren Hutton、1943年生まれ)は、アローレン・ハットン.bmpメリカン・ヴォーグの専属モデル出身の女優で、特別にグラマーでも美人でもないですが、服の着こなしがいいのか、ダニエル・シュミット(1941-2006/享年64)のカメラ指示がいいのか、シュミットの映像美にマッチしており、この作品では、アンニュイなセクシーさを充満させています。
 後に、61歳でヌードになったことで話題になり、更に、'08年には、65歳にして、スペイン大手ファッションチェーン、マンゴのアルジェリアで新規ショップのオープンに際して、親善大使並びにイメージ・キャラクターに起用されています(やはり、この人も"魔女"か)。

マンゴの広告キャンペーンに登場したローレン・ハットン(2008年・65歳)

HECATE 1982.jpg この映画で、ベルナール・ジロドー演じる外交官が赴任した国は同じ北アフリカでもモロッコのようですが、いずれにせよ、辺境の地で無聊を託っている折に、目の前にこんな女性が現れ、その女性が、恋人、愛人、情婦、更には貴婦人としても完璧であれば、男はずぶずぶ深みに嵌っていくだろうなあと思わせるものがあり、実際、この映画の主人公の男は次第に嫉妬心のコントロールが出来なくなって、狂気に駆られていきます。

 後に狂気から覚めた男が、シベリアの地で今は世捨て人同様となった彼女の夫と見(まみ)え、「君も、僕と同類さ。あれに噛まれた犬なんだ」と言われる場面は、何とも怖いと言うか、しんみりさせられると言うか...(原作の原題は「ヘカテとその犬たち」)。

異邦人パンフレット.jpg 映画の、北アフリカの砂漠の町という舞台設定が、何と言ってもいいです。パンフレットにある、筈見有弘(1937-1997/享年59)の、映画における「文化果つる辺境のロマンチシズム」というのは、マレーネ・デートリッヒ主演の「モロッコ」('30年)、ジャン・ギャバン主演の「望郷」('37年)あたりから連綿とあって、マルチェロ・マストロヤンニ主演の「異邦人」('68年)などもそうであり、この作品も、その系譜にあるとの解説に頷かされました。
 

Hécate(1982) 1.jpg「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原六本木駅付近.jpg俳優座劇場.jpg作:ポール・モラン「ヘカテとその犬たち」●時間:108分●出演:ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/ジャン・ブイーズ/ジャン=ピエール・カルフォン/ジュリエット・ブラシュ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(83-10-17)●2回目:自由が丘・自由劇場(84-09-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)
六本木・俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

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