【1423】 ◎ ミケランジェロ・アントニオーニ (原作:フリオ・コルタサル) 「欲望」 (66年/英・伊) (1967/06 MGM) ★★★★☆

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コルタサルの「悪魔の涎」に想を得た作品。ポップな背景のもと、人間の孤独と疎外を描く。

blow-up-pt.jpg欲望 パンフ.jpg 欲望 ポスター.jpg 欲望.jpg from Blow-Up.jpg 「欲望」パンフレット/「欲望」ポスター 「欲望 [DVD]」 デヴィッド・ヘミングス/ヴェルーシュカ

 ファッション・カメラマンのトーマス(デヴィッド・ヘミングズ)が、公園で隠し撮りしたカップルの写真を自宅のラボで現像してみると、そこには偶然、殺人者と死体が小さく写っていた。現場に戻ると確かに死体があり、この事実を共有しようと友人を訪ねている間に、写真も死体も消えてしまう―。

悪魔の涎・追い求める男.jpg イタリアの映画監督ミケランジェロ・アントニオーニ(1912‐2007)が、海外(英国)で初めて撮った作品で、カンヌ国際映画祭グランプリ(現在の最高賞パルム・ドールに該当)、全米映画批評家協会賞作品賞受賞作。アルゼンチンの作家のフリオ・コルタサル(1914‐1984)の幻想短篇小説「悪魔の涎」に触発されてこの映画を作ったとのことです。コルタサルは作家生活の殆どをフランスで過ごした作家であり、但し、その作品は母国語であるスペイン語で書かれていて―となると、何だか作品の背景は、伊・英・仏・南米と入り混じっていて、素地としては結構インターナショナルであるということになります。

欲望8.jpgBlow-Up2.jpg 但し、映画のトーンは、それまでのアントニオーニ作品とはうって変わってほぼ完全にブリティッシュ調で、「スウィンギング・ロンドン」と言われた当時のロンドンのポップな風潮を反映しており(郷に入れば郷に従え?)、当時としては最先端モードのファッションなども盛り込みヴェルーシュカ 欲望.jpg(さらに当時世界最高のスーパーモデルと言われたヴェルーシュカを起用するなどして)、今観るとモダンなレトロ感が溢れています。また、音楽はハービー・ハンコックが担当欲望 ジェフ・ベック1.jpg欲望 ジミー・ペイジ1.jpgし、ジェフ・ベックジミー・ペイジがダブルリードとして加っていた当時の「ヤードバーズ」のライブシーンなどの貴重映像もあります(ジミー・ペイジにとってはレッド・ツェッペリン結成の前年に当たる)。因みに、「世界3大ギタリスト」とされるエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの3人は皆この順番で「ヤードバーズ」に在籍したことがあります。
ヴェルーシュカ(身長190cm)/ジェフ・ベック(右上)(1944-2023/78歳没)/ジミー・ペイジ(右下)

欲望07.jpg 原作(と言えるかどうか)「悪魔の涎」の舞台はパリで、映画の舞台はロンドン、原作の主人公は翻訳家(コルタサル自身がモデルか)で写真は「趣味」ということなのに対し、映画では「プロ」写真家ですが、写真に撮られたカップルの片割れの女性が、主人公に気づいてフィルムをよこすよう迫るのを主人公が拒絶し、自分で写真を大判に現像してみるところなどは、原作も映画も共通しています。

 原作の方は、主人公が自分で引き延ばした写真の中の女性が動き出して、彼を脅かし始めるという、現実の非現実の混在したコルタサルならではの幻想的な作りになっていますが、映画では、撮欲望 dvd.jpgヴァネッサ・レッドグレイブ.jpgられた女(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が彼のもとを訪れ、ヌードモデルになることと交換条件でフィルムをよこすよう要求したため、カメラマンはその話の乗ったフリして、愉しむだけ愉しんで偽フィルムを彼女に渡し、後で不審に思って写真を引き伸ばし(Blow Up)てみると、そこに殺人の現場と思われる場面が写っていたという展開。
Vanessa Redgrave
ヴァネッサ・レッドグレーヴ -02.jpg こう書くと完全に推理小説仕立てのようですが、主人公のカメラマンはこの事件情報を仲間や世間の人々に伝えようとするものの、誰も彼の話に関心を示すものは無く、不条理かつ人間疎外的な世界を照射したようなシークエンスの連続の中をひたすら彷徨するという流れになっていて、ミステリとして完結するわけではなく、こうした点はいかにもアントニオーニらしいなあと思わされます(「情事」('60年)なども、冒頭に女性が行方不明になり、どこへ消えたのか皆が探すが、いつの間にか途中から、そうしたミステリ的要素はどこかにいってしまう)。

BLOW-UP 1967  .jpg 顔を白塗りした若者のグループがテニスコートに現れ、ボールもラケットも持たずに黙ってプレイを始め、観客達はありもしないボールを眼で追うといった非リアル且つ抽象的なシーンが多く、今だとちょっとベタかなあという気もしますが、このカメラマン、結構売れっ子で若い女性達とよろしくやっているけれども、実は孤独なんだということは伝わる―こうした一見華やかな職業人を通して、人間の孤独や疎外を象徴的に普遍化する切り口は旨いと思いました。

バーキン.jpgBlowup.jpg 主人公のカメラマンがモデル達と裸になってふざけ合う場面に、無名時代のジェーン・バーキン(Jane Birkin)が出ていて、18歳で出演した「ナック」('65年)は、映画そのものは日本でも話題になりましたが、彼女自身はまだそんな有名ではなかったです(この映画でも、どちらか言うと、金髪のバーキンより茶髪のジリアン・ヒルズ(Gillian Hills)の方が日本人受けしたのではないか)。

ジェーン・バーキンx.jpg ジェーン・バーキンは1946年12月14日ロンドン生まれで17歳の時グレアム・グリーンの戯曲「彫刻の像」で初ステージを踏み、この作品撮影当時は19美しき諍い女  ジェーン・バーキン.jpg歳。この映画に出た翌年にフランスに渡ってセルジュ・ゲンズブールと結婚し、「ナイル殺人事件」('78年/英)や「地中海殺人事件」('82年/英)にも出ていましたが、個人的に映画で観たのは「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年/仏)が最後で、今は人道支援活動をしたり、娘のシャルロット・ゲンズブールのステージママ的存在でもあるようです。

ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン in「美しき諍い女」(1991)

blow-up.bmp blow-up3.jpg  Jane Birkin.jpg

yokubou.jpg   「欲望」●原題:BLOW-UP●制作年:1967年●制作国:イギリス/イタリア●監督:ミケランジェロ・アントニオーニ●製作:カルロ・ポンティ●脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ/トニーノ・グエッラ/エドワード・ボンド●撮影:カルロ・ディ・パルマ●音楽:ハービー・ハンコック●原作:フリオ・コルタサル「悪魔の涎」●時間:111分●出演:デヴィッド・ヘミングス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/サラ・マイルズ/ジェーン・バーキン/ジリアン・ヒルズ/ヤードバーズ(ジミー・ペイジ(ベース)/ジェフ・ベック(ギター)/キース・レルフ(ボーサラ・マイルズ.jpgカル、ハープ)/ジム・マッカーティ(ドラムス)/クリス・ドレヤ(ギター)/ヴェルーシュカ・フォン・レーエンドルフ●日本公開:1967/06●配給:MGM●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-02-03)(評価:★★★★☆)●併映「さすらい」(ミケランジェロ・アントニオーニ)

サラ・マイルズ

ジェーン・バーキン(Jane Birkin)
ジェーン・バーキン3.jpg ジェーン・バーキン2.jpg ジェーン・バーキン.jpg

ジェーン・バーキンさん死去.jpgジェーン・バーキン(仏俳優・歌手・モデル)
2023年7月16日、パリの自宅で亡くなっているのが見つかった(仏文化省が発表)。76歳。イギリス出身。2人目の夫、セルジュ・ゲンズブールとともにヒット曲を生み出し、過激な性描写でも話題になった「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」は世界的ヒット曲に。カンヌ国際映画祭最高賞の「欲望」や「ナイル殺人事件」などに出演、ファッションモデルとしても活動。エルメスの人気バッグ「バーキン」の名前の由来にもなった。

ジェーン・バーキン=2021年7月仏カンヌ[ロイター]

シャルロット・ゲンズブール監督「ジェーンとシャルロット」('21年/仏)ドキュメンタリー映画
「ジェーンとシャルロット」.jpg
シャルロット・ゲンズブール/ジェーン・バーキン
映画 ジェーンとシャルロット.jpg

 
 
   

 
《読書MEMO》
ヴェルーシュカ(Veruschka、2017、age78)
ヴェルーシュカ・フォン・レンドルフ.jpgヴェルーシュカ 78.jpg

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ジェフ・ベック イングランド出身ののミュージシャン、ギタリスト。
2023年細菌性髄膜炎に罹患し、1月10日78歳で死去。ヤードバーズの元メンバーとして知られ、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジと並ぶ世界3大ギタリストの一人。

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