【1420】 ○ アガサ・クリスティ (田村隆一:訳) 『予告殺人 (1955/04 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★

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論理的には精緻で凝っているが、犯行手口などに不自然な点も多いのでは。トータルではほぼ満足。

ハヤカワ・ポケッ「予告殺人」.jpg「予告殺人」ハヤカワ・ポケットミステリ, 1956, 1972(7th).jpg予告殺人 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 予告殺人 クリスティー文庫.jpg 予告殺人 ハ―パーコリンズ版.jpg 予告殺人 2002.bmp
予告殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(田村隆一:訳)/『予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/ハ―パーコリンズ版(1998/2002)
ハヤカワ・ミステリ(田村隆一:訳)(1956/1972(7th))

予告殺人 1953.bmp予告殺人 1963.bmp予告殺人 英国フォンタナ版.jpg 英国の田舎町である朝、地元新聞の広告欄に「殺人お知らせします」という記事が掲載される。何か面白いゲームだと思った物見高い近所の人々が、予告時間に合わせ、殺人が起きる場所に指定された女主人レティシア・ブラックロックの住まうリトル・パドックスを訪ねる。そして、まさに時計の針が予告された時刻を指したとき、銃声が響きわたる―。

英国・Fontana版(1953/1963/1980)

 1950年に刊行されたアガサ・クリスティのミステリ長編(原題:A Murder Is Announced)で、60歳にしての50作目の作品とのことですが、「クリスティ自選のベストテン」にも「日本クリスティ・ファンクラブ員の投票によるクリスティ・ベストテン」にもランクインしている作品であり、また、江戸川乱歩は、クリスティ作品の中で「面白かったもの」のべスト8に挙げていて、それらの中でも『アクロイド殺し』と並んでこの作品を高く評価をしています。
 
 「予告殺人」が実際に起きてしまったということで、最初はぐぐっと惹き込まれたけれども、登場人物が多くて、それらの会話や描写が続き、一旦はやや冗長かなあという気持ちになりかけた...。ところが途中で、実はこうした描写の中に、事件の鍵を解く伏線が張られているらしいことに気づき、改めて遡って読み直してみたりして、それでも犯人は誰か最後の最後まで分からなかったわけですが、ミステリ通やクリスティのパターンに通暁している人の中には、逆に、早々に犯人が判ってしまって意外性の乏しかったという人もいるようです。自分はホント、全然見当もつきませんでした。

予告殺人 米国ポケットブックス版.jpg この小説の最初の事件トリックは、クリスティが隣家を使わせてもらって実地検証したそうで、作品全体を通しても、論理的に精緻な構成であり、江戸川乱歩もこの点を高く評価したのではないかと思います(作中で話題となるダシ―ル・ハメットの作品にも、類似したトリックがあるが)。

 そうした意味では本格推理っぽい色合いもありますが、しいて言えば、犯人がこうしたややこしい方法をわざわざ選んだというのがやや不自然と言うか技巧的に思え、「ミステリのための手段」とでも言うか、非現実的に思えなくもない...。但し、そうは思いながらも結局のところ面白く読め、わけありの登場人物が多くいるなかで、真犯人の"意外性"にもインパクトがあったし(しかも、とってつけたような犯人ではなく、最初から物語の中心にいた人物!)、第1の殺人にもちゃんとした理由があったわけだなあと。。

米国・ポケットブックス版(1972) (Cover Illustration By Tom Adams)

 この難事件も、セント・メアリ・ミードから事件解決のために呼ばれたミス・マープルが見事に事件の背後にあるものを洞察し、「実はこうだったのよ」みたいな感じで最後にその全容を明かしてみせるのですが、人間観察に長けたミス・マープルらしい謎解きであることは認めるとして、こんなに"なりかわり(なりすまし)"がダブっていたのでは、普通の読者には見当もつかないのではないかと思いましたが、そこが面白いのでしょう。確かに凝っていると言えば凝っているし、ミス・マープル物の中でこの作品を最高傑作とする人も多いというのには頷けます。

 前半はやや冗長感があったものの(実は謎解きのヒントがいっぱいあった?)、英国の田舎町の人々の生活の様子がよく伝わってきました。物語で想定されている事件の起きた年は1949年で、こののんびりした田舎の雰囲気や暮らしぶりは、日本の昭和24年頃とは随分差がある感じ。

予告殺人 dvd.jpgマープル 予告殺人 レティシア・ブラックロック夫人.jpg こんな殺人予告記事が校閲に引っ掛かりもせず新聞に掲載されたり(ローカル紙と言うよりコミュニティ紙であり、そのあたりは鷹揚と言うか、いい加減?)、その記事によって村の人々がそこそこ興味本位で集まっても警察だけは来なかったりと(事件がまだ起きたわけではないからと言えばそれまでなのだが)、気になった点も幾つかありましたが、トータルで見れば、個人的にはほぼ満足のいく作品でした。

「ミス・マープル(第3話)/予告殺人」 (85年/英) ★★★★

予告殺人.jpgAgatha Christie's Marple - 'A Murder is Announced' (2005).jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」 (05年/英) ★★★☆
 

 
 
 

 【1955年ポケット版[ハヤカワ・ミステリ(田村隆一:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]】

予告殺人 テレビ朝日01.jpg●2018年ドラマ化 【感想】 2019年テレビ朝日でドラマ化(3年目のアガサ・クリスティシリーズで第4弾)。監督は「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」('17年)、「パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~」('18年)と同じく和泉聖治、脚本は「そして誰もいなくなった」、'18年版の第2夜放送の「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」('18年)と同じく長坂秀佳。沢村一樹演じる相国寺竜也警部のメインでの登場は「そして誰もいなくなった」、「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」に続いて3回目(「パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~」では予告殺人 テレビ朝日02.jpg列車の乗客としてカメオ出演)。因みに、オリジナルは『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて」ともこの『予告殺人』と同様ミス・マープルものなので、沢村一樹がミス・マープルの役どころを演じるのはこれが2回目となる(『パディントン発4時50分』は天海祐希がミス・マープルに該当の役)。大地真央は「アガサ・クリ予告殺人 テレビ朝日03.jpgスティ そして誰もいなくなった」にも容疑者の一人として出演していたが、その時の主役級は渡瀬恒彦で、今回は彼女が主役級。「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」の容疑者の主役級が黒木瞳だったので、天海祐希(探偵役)、黒木瞳(容疑者役)、大地真央(同)と宝塚出身者が続いたことになる。沢村一樹の相国寺竜也警部役のコミカルな演技は板についた印象で、恋愛を絡ませた"お遊び"的要素も。但し、「そして誰もいなくなった」の時と同じく、本筋のストーリーは比較的原作に忠実であったのが良かった。難点は、複雑な登場人物相関を分かりやすくする狙いで容疑者全員にカタカナのにニックネームを付けたのだろうが、レーリィとかローリィとか観ていいる側までも混乱してしまいそうになったことか。

予告殺人 テレビ朝日.jpg予告殺人 テレビ朝日 00.jpg「アガサ・クリスティ 予告殺人」●監督:和泉聖治●脚本:長坂秀佳●音楽:吉川清之●原作:アガサ・クリスティ●出演:沢村一樹/荒川良々/大地真央/室井滋月/村田雄浩/芦名星/北乃きい/ルビー・モレノ/山本涼介/吉川愛/国広富之/田島令子/村杉蝉之介/山口香緒里/和泉ちぬ/鈴木勝大/佐藤玲/大後寿々花/夏樹陽子/大浦龍宇一●放映:2019/04/14●放送局:テレビ朝日

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