【1419】 ◎ アガサ・クリスティ (田村隆一:訳) 『ゼロ時間へ (1958/01 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆

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乱歩曰く、"メロドラマとトリックの驚異の組み合わせ"。犯人像の意外性もいい。

ゼロ時間へ ポケミス.jpg ゼロ時間へ ハヤカワ文庫.jpg  ゼロ時間へ クリスティー文庫.jpg    ゼロ時間へ ハ―パーコリンズ版.jpg ハ―パーコリンズ版
ゼロ時間へ (1958年) (世界探偵小説全集)』(田村隆一:訳) 『ゼロ時間へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 『ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』(三川基好:訳)

Towards Zero.bmp 金持ちの老婦人の住む河口の避暑地ソルトクリークの別荘に夏休み滞在することになったのは、プロテニス選手の甥とその新妻及び前妻、更にその2人の女性にそれぞれ恋心を抱く2人の男たち―嫉妬や恨みが渦巻く一触即発の雰囲気の中で、老婦人が惨殺されるという事件が起きる―。

 アガサ・クリスティが1944年に発表した長編ミステリで、タイトル(原題:Towards Zero)は、物語のプロローグでミステリ好きの高名な弁護士が語る、ミステリは殺人が起きたところから始まるがそれは誤りであって、殺人は結果であり、物語はそのはるか以前から始まっている、との論に由来しています。つまり、すべてがある点に向かって集約して「その時」に至るのであって、そのクライマックスが「ゼロ時間」であると―。
"Towards Zero" (1944)

Towards Zero -Pan 54.jpgTowards Zero - Fontana.jpg 実際、この作品では殺人事件は物語の中盤過ぎに起こりますが(なかなか起きないので、最後に起きるかとも思ってしまった)、それまでに、主要登場人物の誰が犯人でああっても不思議ではないような状況が見事と言っていいまでに出来上がっていて、まず、かなり明白な状況証拠から、テニス選手の甥が第一容疑者として浮かび上がる―。

Pan Books (1948)/Fontana (1959)

 初読の際は、完全に裏をかかれました。最初、その高名な弁護士が探偵役を務めるのかと思いましたが、途中で舞台から去ってしまい...。但し、弁護士は、犯人は誰であるかを示唆していて、もう犯人は判ったつもりで読み進んでいたのですが...。

Christie TOWARDS ZERO .Fontana rpt.1981.jpg 事件の捜査にあたったのは、ポアロもので脇役登場していたバトル警視で、彼はこの作品でしか本領を発揮していないようですが、ポアロがいてくれればとか言ってボヤきながらも頑張っています。但し、本当に事件解明に繋がる鋭い閃きを見せたのは、冒頭と最後の方にしか登場しない、たまたま当地に滞在していた自殺未遂の心の傷を克服しつつある男ではなかったのかなあと。

TOWARDS ZERO .Fontana.1981

 この作品は、作者自身がマイベスト10に選んでいて、日本の「クリスティー・ファンクラブ」の会員アンケートでもベスト10に入っている作品です。因みに両方でベスト10入りしているのは「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」「予告殺人」とこの作品の5つです。しかも、江戸川乱歩が選んだクリスティ作品のベスト8にも入っています。

 人間模様の描き方とミステリとしてのトリックの完成度もさることながら、もう1点個人的に感嘆したのは意外だった犯人像で、犯人は、ある種の異常者(サイコパス)だと思うのですが、こんな人物造形もあるのかと(これに比べたら、近年のサイコスリラーの犯人像は、あまりにパターンに嵌り過ぎではないか)。

ゼロ時間の謎.jpg 2007年にフランス映画としてパスカル・トマ監督により映画化されていますが(邦題「ゼロ時間の謎」)、舞台(ブルターニュ地方に改変)も登場人物も現代のフランスに置き換わっていて、90歳のダニエル・ダリューが老婦人役を、カトリーヌ・ドヌーヴとマルチェロ・マストロヤンニの娘キアラ・マストロヤンニが、テニス選手の前妻を演じています。

 映画では、事件の解決にあたるのはバトル警視ならぬバタイユ警視ですが、英国のグラナダ版では、原作には登場しないミス・マープルが事件を解決します。確かに、ポワロよりはミス・マープル向きの舞台ではあるかも知れませんが、ちょっとねえ。

ゼロ時間へ dvd.jpg第11話/ゼロ時間へ 00.png第11話/ゼロ時間へ 01.jpg
アガサ・クリスティー ミス・マープル(第11話)/ゼロ時間へ」 (07年/英) ★★★☆

 【1958年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(三川基好:訳)]】

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