【1418】 ○ アガサ・クリスティ (高橋 豊:訳) 『動く指 (1958/10 ハヤカワ・ミステリ) ★★★☆ (△ エリック・ウォレット 「クリスティのフレンチ・ミステリー(第3話)/動く指」 (09年/仏) (2010/09 AXNミステリー) ★★★)

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ミス・マープルにして見れば難事件では無かった。ロマンス話もあって、雰囲気を楽しむ作品?

動く指 hpm.jpg       動く指 ハヤカワ文庫.png       動く指 クリスティ文庫.jpg
動く指 (1958年) (世界探偵小説全集)』ハヤカワ・ポケット・ミステリ『動く指 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['77年] 『動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['04年] 

動く指 ハーパーコリンズ版.jpg動く指2002.bmp動く指2007.bmp 戦時中の飛行機事故で傷を負って傷痍軍人となったジェリー・バートは、療養のため妹ジョアナとともにリムストックの外れの村のリトル・ファーズ邸に住むことになり、弁護士のディック・シミントンの妻のモナ、医師オーエン・グリフィスの妹のエメ、カルスロップ牧師の妻のデインらと知り合うが、間もなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられるようになり、陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆うようになる。
"The Moving Finger" ハーパーコリンズ版(1995/2002/2007)

THE MOVING FINGER Dell (US) rpt.1975.jpgTHE MOVING FINGER .Fontana rpt.1986.jpg そうした中、シミントン弁護士の妻のモナが、手紙が原因の服毒自殺と思われる死を遂げる。シミントン家にはモナと前夫との娘のミーガン・ハンター、現在の夫ディックとの間の2人の子とその家庭教師のエリシー・ホーランド、お手伝いのアグネスとコックのローズが住んでいたが、事件当日はモナ以外全員が外出し、モナ一人の時に匿名の手紙が配達されて来たらしい。自殺現場には「生きていけなくなりました」とのメモがあった。そして今度は、お手伝いのアグネスの行方がわからなくなった。アグネスは行方不明になる少し前に、前の奉公先であるリトル・ファーズ邸のお手伝いパトリッジに相談があると電話していたが、約束の時間に現れず、翌朝シミントン家の階段下物置で死体となって発見される。解決を見ない事件の成り行きに、ミス・マープルに声が掛かる―。 
THE MOVING FINGER .Fontana 1986

THE MOVING FINGER Dell (US) 1975

動く指43.bmp動く指42.bmp 1943年に刊行された(米版は1942年に刊行)アガサ・クリスティのミステリ長編で(原題:The Moving Finger)、ミス・マープルものですが、ミス・マープルが登場するのはかなり後の方になったから。それも、挨拶がてら登場したかと思いきや、次に登場するのはラストで、その時には事件は解決しているけれども、その謎を解いたのはミス・マープルだったというような、「事後的説明」的な作りになっています。

Collins(1943)/Dodd Mead(1942)

 ミス・マープルのファンにすればやや物足りない展開ですが、イギリスの田舎町の人々の暮らしぶりはよく描かれているように思えました(戦時中にしては、結構のんびりしている?)。
 マープルものだからといって、事件が起きた途端に最初から彼女が登場するものばかりではなく、作品によってはこういうのもあります。こうしたバリエーションの豊かさも作者ならではで、これもまた、その力量の証なのでしょう。ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村近辺でばかり事件が起きていても不自然だし、時々"出張"もしているわけです。

The Moving Finger - Pan 55.jpg動く指61.bmp動く指1971.bmp 田舎町でブラック・メールの飛び交うという、暗っぽい話のようでありながらそうでもないのは、主人公のジェリーとジョアナ兄妹の気の置けない遣り取りによってその暗さが中和されていて、その上更にそれぞれの恋愛が絡んでいたりするからでもあり、読み終えてみれば、結構ハートウォーミングな話だとも思えたりしました(この作品は、作者自身のマイベスト10に入っている)。

  Fontana(1961/1971)
Pan Books (1950)

 その分、ミステリとしてはそれほど凝ったものでもなく、村人や地元警察は暗中模索するも、ミス・マープルにしてみればお茶の子さいさいで事件を解決といった感じでしょうか。

 「動く指」というのは、まさにブラック・メールをタイプし、ポストに投函する「指」を意味していますが、この「動く」には、「何か不気味なことを引き起こす」という意味もあるとのこと。これが同時に、編み物をするミス・マープルが、こんがらがった編み物の糸口を見出すかのように事件を解決する、その「指」(手腕)にも懸っているのは、タイトルの妙と言えます。
 
動く指 2.jpg この「動く指」は、ジョーン・ヒクソンがミス・マープルを演じた〈BBC〉のTVシリーズの1作として'85年にドラマ化されていますが、最近では、「シャーロック・ホームズの冒険」や「名探偵ポワロ」で定評のある英国〈グラナダTV〉が「新ミス・マープル」シリーズの1作として'06年ドラマ化しており(マープル役はジェラルンディン・マッキーワン)、更に'09年フランスで、「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「エンドハウスの怪事件」と併せた4作が〈France2〉でドラマ化され、このフランス版は日本でも〈AXNミステリー〉で「クリスティのフレンチ・ミステリー」として今年('10年)9月に放映されました。

動く指 1シーン.jpg 最近のものになればなるほど原作からの改変が著しく、「クリスティのフレンチ・ミステリー」ではポワロやマープルは登場せず、彼らに代わって事件を解決していくのは、ラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)とランピオン刑事(マリ動く指 dvd.jpgウス・ コルッチ)のコンビ、その中でも「動く指」は、アル中の医者に、色情狂のその妹、偽男色家の自称美術品収集家に...といった具合に、キャラクター改変が著しいばかりでなくやや暗い方向に向かっていて、一方で、随所にエスプリやユーモアが効いたりもし(この「暗さ」と「軽妙さ」の取り合わせがフランス風なのか)、また、結構エロチックな場面もあったりして(こういうのを暗示で済まさず、実際に映像化するのがフランス風なのか)、少なくとも一家団欒で鑑賞するような内容にはなっていません(この辺りが、NHKで放映されない理由なのか)。

「クリスティのフレンチ・ミステリー/動く指」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LA PLUME EMPOISONNEE●制作年:2009年●本国放映:2009年9月11日●制作国:フランス●監督:エリック・ウォレット●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Christophe Alévêque/Laurence Côte/Anaïs Demoustier/Cyrille Thouvenin/Catherine Wilkening/Olivier Rabourdin●原作:アガサ・ クリスティ●日本放映:2010/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

「ミス・マープル(第2話)/動く指」 (85年/英) ★★★★
動く指 dvd2.jpg 動く指 1985 02.jpg 動く指 1985 01.jpg
                                                                                     
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第6話)/動く指」 (06年/英) ★★★☆
アガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 09.jpg 動く指 02.png 第6話/動く指.png
 

【1958年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】 

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