【1414】 ○ ガブリエル・ガルシア=マルケス (野谷文昭:訳) 『予告された殺人の記録 (1983/04 新潮社) ★★★★

「●か G・ガルシア=マルケス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1417】 ガブリエル・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出
○ノーベル文学賞受賞者(ガブリエル・ガルシア=マルケス)「○ラテンアメリカ文学 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

カットバック構成は見事。推理小説っぽさもあるが、謎が解けないところが「文学」的乃至「神話」的?
予告された殺人の記録00_.jpg予告された殺人の記録.jpg  予告された殺人の記録 新潮文庫.jpg   予告された殺人の記録 1998.png 予告された殺人の記録 2006.jpg
予告された殺人の記録 (新潮・現代世界の文学)』['83年] 『予告された殺人の記録 (新潮文庫)』['97年](装画:ジェームス・アンソール)/スペイン語ペーパーバック(1998/2006)

 カリブ海沿岸ボリビアの閉鎖的な冠婚葬祭。町をあげての婚礼は、衆人環視のカーニバルである。嫁入り前の妹を傷モノにされていた事実を突き止めた双子の兄弟は、妹の相手サンティアゴ・ナサールの殺害を宣言していた―。

 1981年にコロンビア出身の作家ガブリエル・ガルシア=マルケス(1928年生まれ)が発表した中編小説で、『百年の孤独』のような幻想的な文学作品とは異なり、まさに「記録」文学のような文体であり、初期の『幸福な無名時代』に収められているルポルタージュ的作品の文体に似ていると思いました。もともと新聞記者から作家になった人ですが、『幸福な無名時代』に収められているものは1958年に発表された文章で、そこにまた回帰しているのが興味深いです。

 〈わたし〉がかつて住んでいた田舎町で30年前に起きたこの事件は、〈わたし〉の友人サンティアゴ・ナサールが、犯人も場所も時間も殺害方法も動機に至るまで、その町の住人のほとんどに予め知らされていた中で、本人だけがそのことを知らされずに、兄弟にめった斬りにされ惨殺されたというもので、この事件を〈わたし〉が、当時の関係者や記録を調べ、何があったのかを明らかにしようとするという体裁をとっています。

予告された殺人の記録 映画.jpg 事件の経過を、5つの視座・視点で再構成しているため、カットッバック的にそれらが重なり、手法的には丁度、娯楽映画であるスタンリー・キューブリックの「現金に体を張れ」('56年)や、クエンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」('94年)を想起しました(舞台化されているが、この5つの視座・視点はどう表現されているのだろうか)。

 確かに文学の世界でこの種のカットッバック手法はあまり使われていないように思いますが、この作品はある意味、エンタテインメントなのかも(本国でもこの小説は、作者の他の作品よりも大きな活字で出版されているらしい)。

 因みに、この作品自体も1987年にフランチェスコ・ロージ監督によりイタリア・フランス合作映画化されています(出演:ルパート・エヴェレット/オルネラ・ムーティ/ジャン・マリア・ボロンテ)。やはり、5つの視座・視点はどう表現されているのかが知りたいところです。

映画「予告された殺人の記録」 Cronaca di una morte annunciata (1987年)

 原作の構成はとにかく見事。最後の最後に被害者の死の場面が出てくるのが衝撃的で、「腸に泥がついたのを気にして、手で落としたほどだったよ」というのが生々しく、これが語り部を通して語られることで、時間を超えた神話のような雰囲気を醸しているのが、いかにもガルシア=マルケスといったところでしょうか。

 誰もがサンティアゴ・ナサールが殺されることを知っているにも関わらず、誰もそのことを彼に教えない、しかも娘の兄弟達は、ホントは復讐殺人なんかしたくないのに誰も止めてくれないのでやらざるを得なくなってしまっている―というのは、まさに共同体の悲劇であり崩壊の予兆でもあるという、そうした点でも、作者の他の作品に繋がるテーマを孕んでいると言えるかも知れません。

 但し、個人的にはむしろ、推理小説的な面白さを強く感じ、もしもサンティアゴ・ナサールが加害者だとすれば、当然罪の意識はあろうかと思われ(元来いい人みたいだし)、全く疾しさも身の危険も感じること無く翌朝から町中へ出かけるとは考えにくく、一方、「傷モノにされた妹」は、当夜サンティアゴ・ナサールを加害者として名指ししつつも、何年もたってからの<わたし>の問いに対しては、何も語ろうとはしない―だから、この謎は解けないのですが、解けないところが「文学」乃至は「神話」なのかなあ(解けてしまえば「推理小説」そのものになってしまうのかも)。
 
 【1997年文庫化[新潮文庫]】 

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2010年11月14日 23:36.

【1413】 ◎ ガブリエル・ガルシア=マルケス (鼓 直:訳) 『百年の孤独』 (1972/05 新潮社) ★★★★★ was the previous entry in this blog.

【1415】 ○ ガブリエル・ガルシア=マルケス (旦 敬介:訳) 『幸福な無名時代』 (1991/01 筑摩書房) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1