【1411】 ? ホルヘ・ルイス・ボルヘス (鼓 直:訳) 『伝奇集 (1990/11 福武書店) ★★★?

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「バベルの図書館」「円環の廃墟」など、カフカ的な作品が目白押しの短編集。やや難解?

ボルヘス 伝奇集  単行本.pngボルヘス「伝奇集」』['90年]ボルヘス 伝奇集 iawa.jpg 『伝奇集 (岩波文庫)』['93年]

 1960年代のラテンアメリカ文学ブームの先鞭となった、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges、1899-1986)の代表的短編集(原題:Ficciones)で、1941年刊行の『八岐(やまた)の園』と1944年刊行の『工匠集』を併せたものですが、全17篇の中では、「バベルの図書館」と「円環の廃墟」が有名です。

バベルの図書館.jpg 「バベルの図書館」(原題: La biblioteca de Babel )は、その中央に巨大な換気孔をもつ六角形の閲覧室の積み重ねで成っている巨大な図書館で(図書館職員だった作者自身が勤めていた図書館がモデルとされている)、閲覧室は上下に際限なく同じ部屋が続いており、閲覧室の構成は全て同じであるという不思議な構造をしています。

 蔵書は全て同じ大きさで、どの本も1冊410ページ、1ページに40行、1行に80文字という構成であり、本の大半は意味のない文字の羅列であって、全て22文字のアルファベットと文字区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われておらず、同じ本は2冊とないということです。

 司書官たちは外に対する意識は無く(この図書館には出口がない)、生涯をここで暮らし、死ぬと中心の六角形の通気孔に投げ入れられ、そこで無限に落下しながら風化し、塵すらも無くなるといいます。

 主人公(ボルヘス?)は、この図書館を「宇宙」と呼び、図書館が無限で周期的であることが、唯一の希望であるとしていますが、個人的には、この図書館は何を意味しているのかを考えると際限が無くなり(「システム」とか「機構」といったものにも置き換えられるし、「都市」や「生命組織体」、更には「インターネット」にも擬えることは可能かも)、イメージとしては面白いけれど、やや茫漠とした印象も残りました。

円環の廃墟Ⅱ.jpg 作者に言わせると「カフカ的作品」とのことですが、それを言うなら、「円環の廃墟」(原題:Las ruinas circulares)もそれに近いように思われ、ここでは詳しい内容は省きますが(要約不可能?)、「城」とか「流刑地にて」に似ていて、夢の中で彷徨しているような作品です。

「円環の廃墟Ⅱ」星野美智子(リトグラフ)

 他にも、こうした不条理な作品が目白押しで、これらを1回読んだだけで理解できる人は、相当な読解力・抽象具現力の持ち主ではないでしょうか(自分はその域には達していないため、評価は"?"とした)。

borgesbabel.jpg 一方で、「死とコンパス」のような推理小説仕立ての作品もあって、これは、連続殺人事件を追う辣腕刑事が、事件現場であるA、B、Cの3地点と事件の起きた日時から、第4の殺人がいつどこで起きるかを推理し、現場にかけつける―という、何となく親しみやすいプロットで(アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』みたいだなあ)、意外性もあります(この作品は1997年にアレックス・コックス監督・脚本、ピーター・ボイル主演のミステリとして映画化されている)。でも、形而上学的なモチーフ(味付け?)と一定のアルゴリズムへの執着という点では、この作品も「バベルの図書館」に通じるものがあるかな。

 因みに、国書刊行会の文学全集で、「バベルの図書館」シリーズと名付けられているものがあります。

 【1993年文庫化[岩波文庫]】 

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