【1409】 △ モーリス・ルブラン (竹西英夫:訳) 『ルパン対ホームズ―アルセーヌ=ルパン全集2』 (1982/01 偕成社) ★★★

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ルパンとホームズの最初の本格対決。一応、ホームズにも花を持たせているが...。

Arsene Lupin contre Herlock Sholmes.jpgArsène Lupin contre Herlock Sholmes.jpg     ルパン対ホームズ.jpg     ルパン対ホームズ 偕成社文庫.jpg
ルパン対ホームズ (アルセーヌ・ルパン全集(2))』['82年]『ルパン対ホームズ(偕成社文庫-アルセーヌ・ルパン・シリーズ)』['87年]
Arsène Lupin contre Herlock Sholmes(リーブル・ド・ポッシュ版(旧版 1963/改版1973))
Edition de 1963
ARSÈNE LUPIN CONTRE HERLOCK SHOLMES.jpg ある数学教授が古道具屋で古びた小机を購入するが、なぜかその小机に執着する青年がおり、間もなく小机は教授の自宅から消失、小机には宝くじ100万フランの当たり券が入っており、盗んだのはアルセーヌ・ルパンだった。続いてある男爵が殺害され、競売に掛けられた彼の青いダイヤが盗み出されるという事件が連続して発生、両事件にルパンと「金髪の美女」が関与していることがわかるが、その先の捜査に行き詰まった警察は、事件解決のため、イギリスの名探偵シャーロック・ホームズを招聘する―。

 モーリス・ルブラン(1864-1941)による「ルパン対ホームズ」の最初の本格的対決モノで(原題:Arsene Lupin contre Herlock Sholmès)、上記「金髪の美女」と中編「ユダヤのランプ」を所収、1906年から翌年にかけて発表され1908年単行本刊行ということですから、ルパン・シリーズでも初期作品ということになりますが、作者がこのシリーズを書き始めた動機の1つに、シャーロック・ホームズ・シリーズに影響を受けたということがあるようですから、両者の対決が早々にあるのは自明のことだったのかも。

 ルパンのデビュー短編集「怪盗紳士ルパン」の最後にホームズを実名で登場させてコナン・ドイルからの抗議を受け、原作ではシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)がハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名されているわけですが、日本の翻訳界ではホームズと訳すのがお約束のようです。

 ホームズの相方ワトソンも、原作ではウィルソンに改名されていて、石川湧訳の創元推理文庫版や堀口大學訳の新潮文庫版では原作のままウィルソンとしていますが、この竹西英夫訳の偕成社版は、(児童向けのためか)ワトソンとなっています。

La dame blonde.jpg 「金髪の美女」は、3事件が絡み合うという込み入ったストーリーの割には、盗んだ机に偶然当たりくじ券が入っていたとか、ストーリーテリングが偶然に依拠している部分が多い気もし、ルパンがレストランで、これもまた偶然に、事件解決のためパリに来たばかりのホームズと再会したりもします。

 Arsène Lupin contre Herlock Sholmes: La dame blonde (1983)

 その際のルパンの狼狽ぶりと言うか緊張ぶりがやや意外で、一方でホームズの方は、10日間で事件を解決し、10日目にルパンを逮捕すると自信満々(売り出したばかりの20代の若手と、50代の高名なベテランという構図か)。

 ところが、その10日間の前半から中盤にかけてはホームズにいいところはなく、仕舞いにはルパンに誘拐され、ワトソンは怪我まで負ってしまいます(ワトソンは「ユダヤのランプ」でも負傷する)。
 それでもホームズは、最後には巧妙なトリックによって(何だかこっちが犯罪者みたい)逆転劇風にルパンを逮捕に追い込むということで、形だけはホームズに花を持たせたということでしょうか(逮捕されたルパンは、またもあっさり逃亡してしまうのだが)。

 遅ればせながら今回(多分)初めて読んで、プロセスも含めれば「両雄互角の勝負」と言うよりは、ルパンの方が余裕綽々と言うかスマートという印象を受け、一方、この作品のホームズは結構ドタバタ感が伴い、本家本元のホームズとはちょっとイメージ違うなあと思いました(作者はショルメとして書いているからか)。

 但し、ルパンの方も、ホームズとの対決行動の実行段階ではスマートであるものの、最初はホームズに対し、"宿敵"ガニマール警部(「ルパン三世」の「銭形警部」みたいなものか)に対するのとは比較にならないほどの警戒心や対抗意識を露わにする場面があり、この辺り、両者の対決を盛り上げる意図もあるのでしょうが、作者のホームズ・シリーズへのライバル意識が反映されているようにも思え、興味深かったです。

 【1959年文庫化[創元推理文庫(石川湧:訳(『リュパン対ホームズ』)]/1960年再文庫化[新潮文庫(堀口大學:訳)]/1983年再文庫化・2001年改版[岩波少年文庫(榊原晃三:訳)/1987年再文庫化[偕成社文庫(竹西英夫:訳)]/2005年再文庫化[ポプラ社怪盗ルパン文庫版(南洋一郎:訳)]】

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