【1408】 ○ モーリス・ルブラン (竹西英夫:訳) 『怪盗紳士ルパン―アルセーヌ=ルパン全集1』 (1981/09 偕成社) 《 (中村真一郎:訳) 『強盗紳士ルパン』 (1958/04 ハヤカワ・ミステリ)/(平岡 敦:訳) 『怪盗紳士ルパン』 (2005/09 ハヤカワ・ミステリ文庫)》 ★★★☆

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読み進んでいくと、ホームズよりルパンの方が好きになりそうな予感が...。

arsene-lupin-gentleman-cambrioleur.jpg強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404).jpg怪盗紳士ルパン 偕成社.jpg  怪盗紳士ルパン ハヤカワ.jpg
強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404)』['58年/中村真一郎訳]  『怪盗紳士ルパン (アルセーヌ・ルパン全集 (1))』['81年/竹西英夫訳]『怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)』['05年/平岡敦訳]
Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (リーブル・ド・ポッシュ版(原書表紙復刻版))

 1907年に刊行された、モーリス・ルブラン(Maurice Leblanc, 1864-1941) による「アルセーヌ・ルパン・シリーズ」の最も初期のもの(1905-1907)を集めて編んだ短編集で、「ルパン逮捕される」「獄中のアルセーヌ・ルパン」「ルパンの脱獄」「ふしぎな旅行者」「女王の首飾り」「ハートの7」「アンベール女史の金庫」「黒真珠」「おそかりしシャーロック・ホームズ」の9編から成ります。

 偕成社の単行本全集は(『怪盗紳士ルパン』は竹西英夫訳)、全訳が挿絵付きで読めるのはこれだけだそうですが(「偕成社文庫」として文庫化もされている)、ルビ付きであることから「少年少女向け」であることが窺えるものの、別に話を端折って訳したりしているわけではなく、難しい表現を出来るだけ避けるようにしているだけで、むしろ、堀口大學(新潮文庫)などの「文学の香り」こそするもの(『強盗紳士』というタイトルからして)古臭い感じもする"古典訳"よりは、冒険譚に合ったトーンであるとも言えるのではないでしょうか。

 この短編集に関して言えば、早川書房のポケット・ミステリ(ハヤカワ・ミステリ)に中村真一郎訳がありますが(『強盗紳士ルパン』)、「アンベール女史の金庫」「黒真珠」が収められていないなど、原典とラインナップがやや異なります(創元推理文庫版の石川湧訳『怪盗紳士リュパン』も同じ)。

 その早川書房のハヤカワ文庫HM(ハヤカワ・ミステリ文庫)で、2005年から平岡敦(1955年生まれ)氏による新訳の刊行が始まり、これは読みやすく(『怪盗紳士ルパン』は原典に沿ったラインナップ)、しかもこれ、個人訳のようなので、なかなかいいのではないかと。
 但し、全訳を目指すとの触れ込みだったはずが、2007年までに『カリオストロ伯爵夫人』『怪盗紳士ルパン』『奇岩城』『水晶の栓』の4冊が刊行され、その後ストップしている...(平岡さん、ワセダミステリクラブ出身だけれど、色々な作家の本を翻訳していて忙しそうだからなあ。訳者、変わるのかなあ)。

ルパン 怪盗紳士.JPG 『怪盗紳士 怪盗ルパン全集 (2)』['58年]怪盗紳士 ポプラ社怪盗ルパン文庫.jpg 『怪盗紳士―怪盗ルパン全集 (ポプラ文庫クラシック)』['09年]

 昔からのこのシリーズのファンの中には、子供時代にポプラ社の南洋一郎(1893-1980)訳に親しんだ人もいるかと思いますが、これは「原作・ルブラン/文・南洋一郎」ということで、実はものすごい意訳(大幅な翻案)だったのだなあと(ポプラ社が翻訳権を独占していた時期があったために、個人訳による「全訳」(全30巻)として成っているという点では凄いと思う)。

 但し、例えば『怪盗紳士』に収められているのは、オリジナル9編中5編で、抜け落ちを補ったり、分冊・合体させたりして「怪盗ルパン文庫版」として2005年から装いも新たに刊行されていましたが、昨年暮れ(2009年12月)から、今度は「ポプラ社文庫クラシック」として刊行当初のまま半世紀ぶりに復刻されていて、これはこれで古くからファンにとっては嬉しいのではないでしょうか(第1回配本で第1巻『奇巌城』、第2巻『怪盗紳士』などいきなり4巻出たが、このナンバリングも旧単行本と同じ)。

 『怪盗紳士ルパン』は、スパースター・ルパンの冒険活劇譚であり、最初からオールマイティである主人公にとって、一見トリックもへったくれも無いかのようですが、実は結構凝ったトリックもあり、本格推理としての要素もあります。
 また、ルパンの義侠心や女性に対する思いやりも窺え(個人的には「女王の首飾り」「ハートの7」が好み)、更には、その生い立ちを知ることもできます。

 また、この短編集のラストでは、早々にシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)(コナン・ドイルからの抗議を受け、後にハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名)との対決がありますが、ホームズとルパンは結構いい勝負をするはずですが、この巻においては、ホームズは「名探偵」とされながらも、あまりいいところがありません(ドイルから抗議を受ける前だったからか)。

 ポプラ社の南洋一郎訳は、南洋一郎「作」と見るべきか。「大人の読み物としてのルパン」を念頭に置いて訳しているという平岡敦訳・ハヤカワ・ミステリ文庫版が一番のお薦めですが(挿し絵は無い)、竹西英夫訳・偕成社版も、それほど「子ども子どもしている」わけでもなく、ラインアップが揃っているという点ではお薦めです(挿し絵がオマケで、ルビが余計か)。

 ルパン・シリーズ、ちょっと子どもっぽいかなあと思っていたけれど、読み進んでいくと、ホームズよりルパンの方が好きになりそうな、そんな予感が...。

強盗紳士ルパン.jpg 【1958年新書化[ハヤカワ・ミステリ(中村真一郎:訳 『強盗紳士ルパン』)]/1959年文庫化[創元推理文庫(石川湧:訳 『怪盗紳士リュパン』)]/1960年再文庫化[新潮文庫(堀口大學:訳 『強盗紳士』)]/1983年再文庫化[岩波少年文庫(榊原晃三:訳 『怪盗ルパン』)]/1987年再文庫化[偕成社文庫(竹西英夫:訳 『怪盗紳士ルパン』)]/2005年再文庫化[ポプラ社怪盗ルパン文庫版(南洋一郎:訳 『怪盗紳士』)]/2005年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(平岡敦:訳 『怪盗紳士ルパン』)]/2009年再文庫化[ポプラ社文庫クラシック(南洋一郎:訳 『怪盗紳士』)]】
強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404)』 

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