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シリーズの最後の短編集。衰えぬ冴えを見せる一方で、"変化球"的・"疑問符"的作品も。
Dust-jacket illustration of the first edition of The Case-Book of Sherlock Holmes『シャーロック・ホームズの事件簿 (1953年) (新潮文庫)』『シャーロック・ホームズの事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HM75-9)』『シャーロック・ホームズの事件簿 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』『シャーロック・ホームズの事件簿 (河出文庫)』
1927年、コナン・ドイルが亡くなる3年前に刊行されたシャーロック・ホームズ・シリーズの最後の短編集(第5短編集)で(原題:The Case-Book of Sherlock Holmes)、ドイルの没後60年に当たる1990年に著作権が切れるまでは、延原謙訳の新潮文庫版しかありませんでした(従って、創元推理文庫版の訳者は、阿部知二(1973年没)ではなく、最初から深町眞理子氏になっている)。
1917年刊行の『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』以降に発表された(これが"最後"じゃなかったわけだ)、「マザリンの宝石」(1921年)から「ショスコム邸」(1927年)までの12編を収めており、光文社文庫版(日暮雅通訳)は解説や漫画家・坂田靖子氏のエッセイなども含めて487ページ、この文庫はカバーの紙質がしっかりしているのがいいです(シドニー・パジットの挿画が多く掲載されている点もいい)。
一方、新潮文庫版は、例によって「隠居した画材屋」(延原謙訳では「隠居絵具屋」)と「ショスコム荘」の2編が『シャーロック・ホームズの叡智』の方に組み入れられていますが、この仕分け基準が未だによく分らない...。しかも、新潮文庫版は光文社文庫版と異なり発表順には並んでおらず、では何順なのかというと、この辺もよく分らない...(でも、訳文そのものは格調高い)。
とまれ、ドイルの晩年にして、なお衰えぬ見せぬホームズの冴えが認められる短編集であることは確かです。
シドニー・パジェット画/ホームズとワトスン
1927年と言えば、すでにアガサ・クリスティなどが登場していた頃ですが、起きている事件は1903年以前の設定となっていて、この辺りは、それまでリアルタイムで"現代モノ"を書いていたのが、晩年の作品において年月の流れを止めたクリスティと似ている気もします。
一方で、最後まで新たな境地を探ろうとしているのか、「白面の兵士」(この作品、ドイルは医師だったはずだが、ハンセン氏病に対する誤解がみられる)などのようにワトスンではなくホームズ自身が事件を語ったり、結構"変化球"が多いという感じでしょうか。 この"不統一性"は、1921年の書き始めの段階では、短編集として纏めるという意図が必ずしも無かったことからくるのかも。
「消えた蝋面」(「白面の兵士」)山中峯太郎 1956年ポプラ社(名探偵ホームズ全集19)
晩年のドイルの超自然現象への関心や、博物学的知識が反映されている作品も見られ、動物モノに至っては犬やライオンが出てくるばかりでなく、「ライオンのたてがみ」では、サイアネア・カピラータという大○○○まで登場します。
ホームズの"後出しジャンケン"的な謎解きも目立つ作品群で、全体としては玉石混交といった感じでしょうか。
個人的には、「サセックスの吸血鬼」「高名な依頼人」が良かったかなあ。
「ソア橋の難問」はトリックに(本格推理小説によくあるパターンだが)やや無理がある気もし、「三人のガリデブ」も着想はすごく面白いけれど、いくら犯人が金持ちだからといってここまでやるかなあという感じも。
「三破風館」の金持ち夫人である犯人に対する事件の収め方は、探偵がこんな取引きしてもいいの?というのはありますが、つい最近観た海外ドラマ「メンタリスト」(第17話)でも、主人公の犯罪捜査アドバイザー(サイモン・ベイカー[写真右端])が犯人に死刑求刑しない代わりに、誤認逮捕の被害者のがん治療費として50万ドルの小切手を切らせるというのがあり、こうした決着方法も今に引き継がれていると見るべきでしょうか(この番組の宣伝文句の1つは「ポスト・シャーロック・ホームズ」。科学捜査全盛のクライム・ドラマの中では、確かに言い得ているかも)。
●『シャーロック・ホームズの事件簿』 The Case-Book of Sherlock Homes (1927)
translator:延原謙(Nobuhara Ken) Publisher:新潮文庫(Shincho bunko)574-134D
cover:久野純 commentary:延原謙(Nobuhara Ken) 1953/10
「高名な依頼人」 The Adventure of the Illustrious Client (Collier's Weekly 1924/11)
「白面の兵士」 The Adventure of the Blanched Soldier (Liberty 1926/10)
「マザリンの宝石」 The Adventure of the Mazarin Stone (The Strand Magazine 1921/10)
「三破風館」 The Adventure of the Three Gables (Liberty 1926/ 9)
「サセックスの吸血鬼」 The Adventure of the Sussex Vampire (The Strand Magazine 1924/ 1)
「三人ガリデブ」 The Adventure of the Three Garridebs (Collier's Weekly 1924/10)
「ソア橋」 The Problem of Thor Bridge (The Strand Magazine 1922/ 2-1922/ 3)
「這う男」 The Adventure of the Creeping Man (The Strand Magazine 1923/ 3)
「ライオンのたてがみ」 The Adventure of the Lion's Mane (Liberty 1926/10)
「覆面の下宿人」 The Adventure of the Veiled Lodger (Liberty 1927/ 1)
●『シャーロック・ホームズの事件簿』 The Case-Book of Sherlock Holmes (1927)
translator:日暮雅通(Higurashi Masamichi) Publisher:光文社文庫(KobunSha bunko)/新訳シャーロック・ホームズ全集
cover:ささめやゆき design:間村俊一 commentary:日暮雅通(Higurashi Masamichi)/注釈/坂田靖子(Sakata Yasuko) 2007/10/20
「まえがき」 Perface (The Strand Magazine 1927/ 3)
「マザリンの宝石」 The Adventure of the Mazarin Stone (The Strand Magazine 1921/10)
「ソア橋の難問」 The Problem of Thor Bridge (The Strand Magazine 1922/ 2-1922/ 3)
「這う男」 The Adventure of the Creeping Man (The Strand Magazine 1923/ 3)
「サセックスの吸血鬼」 The Adventure of the Sussex Vampire (The Strand Magazine 1924/ 1)
「三人のガリデブ」 The Adventure of the Three Garridebs (Collier's Weekly 1924/10)
「高名な依頼人」 The Adventure of the Illustrious Client (Collier's Weekly 1924/11)
「三破風(はふ)館」 The Adventure of the Three Gables (Liberty 1926/ 9)
「白面の兵士」 The Adventure of the Blanched Soldier (Liberty 1926/10)
「ライオンのたてがみ」 The Adventure of the Lion's Mane (Liberty 1926/12)
「隠居した画材屋」 The Adventure of the Retired Colourman (Liberty 1926/12)
「ヴェールの下宿人」 The Adventure of the Veiled Lodger (Liberty 1927/ 1)
「ショスコム荘」 The Adventure of Shoscombe Old Place (Liberty 1927/ 3)
「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」The Mentalist (CBS 2008/09~ ) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2010~)
「THE MENTALIST / メンタリスト 〈ファースト・シーズン〉コレクターズ・ボックス1 [DVD]」
【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1991年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康男:訳)]/1991年再文庫化[創元推理文庫(深町真理子:訳)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2014年再文庫化[河出文庫(小林 司/東山あかね:訳)『シャーロック・ホームズの事件簿―シャーロック・ホームズ全集9』/2021年再文庫化[角川文庫(駒月雅子:訳)]】