2010年10月 Archives

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ルパンとホームズの最初の本格対決。一応、ホームズにも花を持たせているが...。

Arsene Lupin contre Herlock Sholmes.jpgArsène Lupin contre Herlock Sholmes.jpg     ルパン対ホームズ.jpg     ルパン対ホームズ 偕成社文庫.jpg
ルパン対ホームズ (アルセーヌ・ルパン全集(2))』['82年]『ルパン対ホームズ(偕成社文庫-アルセーヌ・ルパン・シリーズ)』['87年]
Arsène Lupin contre Herlock Sholmes(リーブル・ド・ポッシュ版(旧版 1963/改版1973))

 ある数学教授が古道具屋で古びた小机を購入するが、なぜかその小机に執着する青年がおり、間もなく小机は教授の自宅から消失、小机には宝くじ100万フランの当たり券が入っており、盗んだのはアルセーヌ・ルパンだった。続いてある男爵が殺害され、競売に掛けられた彼の青いダイヤが盗み出されるという事件が連続して発生、両事件にルパンと「金髪の美女」が関与していることがわかるが、その先の捜査に行き詰まった警察は、事件解決のため、イギリスの名探偵シャーロック・ホームズを招聘する―。

 モーリス・ルブラン(1864-1941)による「ルパン対ホームズ」の最初の本格的対決モノで(原題:Arsene Lupin contre Herlock Sholmès)、上記「金髪の美女」と中編「ユダヤのランプ」を所収、1906年から翌年にかけて発表され1908年単行本刊行ということですから、ルパン・シリーズでも初期作品ということになりますが、作者がこのシリーズを書き始めた動機の1つに、シャーロック・ホームズ・シリーズに影響を受けたということがあるようですから、両者の対決が早々にあるのは自明のことだったのかも。

 ルパンのデビュー短編集「怪盗紳士ルパン」の最後にホームズを実名で登場させてコナン・ドイルからの抗議を受け、原作ではシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)がハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名されているわけですが、日本の翻訳界ではホームズと訳すのがお約束のようです。

 ホームズの相方ワトソンも、原作ではウィルソンに改名されていて、石川湧訳の創元推理文庫版や堀口大學訳の新潮文庫版では原作のままウィルソンとしていますが、この竹西英夫訳の偕成社版は、(児童向けのためか)ワトソンとなっています。

La dame blonde.jpg 「金髪の美女」は、3事件が絡み合うという込み入ったストーリーの割には、盗んだ机に偶然当たりくじ券が入っていたとか、ストーリーテリングが偶然に依拠している部分が多い気もし、ルパンがレストランで、これもまた偶然に、事件解決のためパリに来たばかりのホームズと再会したりもします。

 Arsène Lupin contre Herlock Sholmes: La dame blonde (1983)

 その際のルパンの狼狽ぶりと言うか緊張ぶりがやや意外で、一方でホームズの方は、10日間で事件を解決し、10日目にルパンを逮捕すると自信満々(売り出したばかりの20代の若手と、50代の高名なベテランという構図か)。

 ところが、その10日間の前半から中盤にかけてはホームズにいいところはなく、仕舞いにはルパンに誘拐され、ワトソンは怪我まで負ってしまいます(ワトソンは「ユダヤのランプ」でも負傷する)。
 それでもホームズは、最後には巧妙なトリックによって(何だかこっちが犯罪者みたい)逆転劇風にルパンを逮捕に追い込むということで、形だけはホームズに花を持たせたということでしょうか(逮捕されたルパンは、またもあっさり逃亡してしまうのだが)。

 遅ればせながら今回(多分)初めて読んで、プロセスも含めれば「両雄互角の勝負」と言うよりは、ルパンの方が余裕綽々と言うかスマートという印象を受け、一方、この作品のホームズは結構ドタバタ感が伴い、本家本元のホームズとはちょっとイメージ違うなあと思いました(作者はショルメとして書いているからか)。

 但し、ルパンの方も、ホームズとの対決行動の実行段階ではスマートであるものの、最初はホームズに対し、"宿敵"ガニマール警部(「ルパン三世」の「銭形警部」みたいなものか)に対するのとは比較にならないほどの警戒心や対抗意識を露わにする場面があり、この辺り、両者の対決を盛り上げる意図もあるのでしょうが、作者のホームズ・シリーズへのライバル意識が反映されているようにも思え、興味深かったです。

 【1959年文庫化[創元推理文庫(石川湧:訳(『リュパン対ホームズ』)]/1960年再文庫化[新潮文庫(堀口大學:訳)]/1983年再文庫化・2001年改版[岩波少年文庫(榊原晃三:訳)/1987年再文庫化[偕成社文庫(竹西英夫:訳)]/2005年再文庫化[ポプラ社怪盗ルパン文庫版(南洋一郎:訳)]】

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読み進んでいくと、ホームズよりルパンの方が好きになりそうな予感が...。

arsene-lupin-gentleman-cambrioleur.jpg強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404).jpg怪盗紳士ルパン 偕成社.jpg  怪盗紳士ルパン ハヤカワ.jpg
強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404)』['58年/中村真一郎訳]  『怪盗紳士ルパン (アルセーヌ・ルパン全集 (1))』['81年/竹西英夫訳]『怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)』['05年/平岡敦訳]
Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (リーブル・ド・ポッシュ版(原書表紙復刻版))

 1907年に刊行された、モーリス・ルブラン(Maurice Leblanc, 1864-1941) による「アルセーヌ・ルパン・シリーズ」の最も初期のもの(1905-1907)を集めて編んだ短編集で、「ルパン逮捕される」「獄中のアルセーヌ・ルパン」「ルパンの脱獄」「ふしぎな旅行者」「女王の首飾り」「ハートの7」「アンベール女史の金庫」「黒真珠」「おそかりしシャーロック・ホームズ」の9編から成ります。

 偕成社の単行本全集は(『怪盗紳士ルパン』は竹西英夫訳)、全訳が挿絵付きで読めるのはこれだけだそうですが(「偕成社文庫」として文庫化もされている)、ルビ付きであることから「少年少女向け」であることが窺えるものの、別に話を端折って訳したりしているわけではなく、難しい表現を出来るだけ避けるようにしているだけで、むしろ、堀口大學(新潮文庫)などの「文学の香り」こそするもの(『強盗紳士』というタイトルからして)古臭い感じもする"古典訳"よりは、冒険譚に合ったトーンであるとも言えるのではないでしょうか。

 この短編集に関して言えば、早川書房のポケット・ミステリ(ハヤカワ・ミステリ)に中村真一郎訳がありますが(『強盗紳士ルパン』)、「アンベール女史の金庫」「黒真珠」が収められていないなど、原典とラインナップがやや異なります(創元推理文庫版の石川湧訳『怪盗紳士リュパン』も同じ)。

 その早川書房のハヤカワ文庫HM(ハヤカワ・ミステリ文庫)で、2005年から平岡敦(1955年生まれ)氏による新訳の刊行が始まり、これは読みやすく(『怪盗紳士ルパン』は原典に沿ったラインナップ)、しかもこれ、個人訳のようなので、なかなかいいのではないかと。
 但し、全訳を目指すとの触れ込みだったはずが、2007年までに『カリオストロ伯爵夫人』『怪盗紳士ルパン』『奇岩城』『水晶の栓』の4冊が刊行され、その後ストップしている...(平岡さん、ワセダミステリクラブ出身だけれど、色々な作家の本を翻訳していて忙しそうだからなあ。訳者、変わるのかなあ)。

ルパン 怪盗紳士.JPG 『怪盗紳士 怪盗ルパン全集 (2)』['58年]怪盗紳士 ポプラ社怪盗ルパン文庫.jpg 『怪盗紳士―怪盗ルパン全集 (ポプラ文庫クラシック)』['09年]

 昔からのこのシリーズのファンの中には、子供時代にポプラ社の南洋一郎(1893-1980)訳に親しんだ人もいるかと思いますが、これは「原作・ルブラン/文・南洋一郎」ということで、実はものすごい意訳(大幅な翻案)だったのだなあと(ポプラ社が翻訳権を独占していた時期があったために、個人訳による「全訳」(全30巻)として成っているという点では凄いと思う)。

 但し、例えば『怪盗紳士』に収められているのは、オリジナル9編中5編で、抜け落ちを補ったり、分冊・合体させたりして「怪盗ルパン文庫版」として2005年から装いも新たに刊行されていましたが、昨年暮れ(2009年12月)から、今度は「ポプラ社文庫クラシック」として刊行当初のまま半世紀ぶりに復刻されていて、これはこれで古くからファンにとっては嬉しいのではないでしょうか(第1回配本で第1巻『奇巌城』、第2巻『怪盗紳士』などいきなり4巻出たが、このナンバリングも旧単行本と同じ)。

 『怪盗紳士ルパン』は、スパースター・ルパンの冒険活劇譚であり、最初からオールマイティである主人公にとって、一見トリックもへったくれも無いかのようですが、実は結構凝ったトリックもあり、本格推理としての要素もあります。
 また、ルパンの義侠心や女性に対する思いやりも窺え(個人的には「女王の首飾り」「ハートの7」が好み)、更には、その生い立ちを知ることもできます。

 また、この短編集のラストでは、早々にシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)(コナン・ドイルからの抗議を受け、後にハーロック・ショルメ(Herlock Sholmès)と改名)との対決がありますが、ホームズとルパンは結構いい勝負をするはずですが、この巻においては、ホームズは「名探偵」とされながらも、あまりいいところがありません(ドイルから抗議を受ける前だったからか)。

 ポプラ社の南洋一郎訳は、南洋一郎「作」と見るべきか。「大人の読み物としてのルパン」を念頭に置いて訳しているという平岡敦訳・ハヤカワ・ミステリ文庫版が一番のお薦めですが(挿し絵は無い)、竹西英夫訳・偕成社版も、それほど「子ども子どもしている」わけでもなく、ラインアップが揃っているという点ではお薦めです(挿し絵がオマケで、ルビが余計か)。

 ルパン・シリーズ、ちょっと子どもっぽいかなあと思っていたけれど、読み進んでいくと、ホームズよりルパンの方が好きになりそうな、そんな予感が...。

強盗紳士ルパン.jpg 【1958年新書化[ハヤカワ・ミステリ(中村真一郎:訳 『強盗紳士ルパン』)]/1959年文庫化[創元推理文庫(石川湧:訳 『怪盗紳士リュパン』)]/1960年再文庫化[新潮文庫(堀口大學:訳 『強盗紳士』)]/1983年再文庫化[岩波少年文庫(榊原晃三:訳 『怪盗ルパン』)]/1987年再文庫化[偕成社文庫(竹西英夫:訳 『怪盗紳士ルパン』)]/2005年再文庫化[ポプラ社怪盗ルパン文庫版(南洋一郎:訳 『怪盗紳士』)]/2005年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(平岡敦:訳 『怪盗紳士ルパン』)]/2009年再文庫化[ポプラ社文庫クラシック(南洋一郎:訳 『怪盗紳士』)]】
強盗紳士ルパン (ハヤカワ・ミステリ 404)』 

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『緋色の研究』同様にそこそこ面白かったが...。河出書房版の訳者あとがきは興味深い。

四つの署名.jpg  四つのサイン 河出大.jpg     四つの署名 シャーロック・ホームズ [新潮CD].jpg
四つの署名 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』『四つのサイン (シャーロック・ホームズ全集)』「四つの署名―シャーロック・ホームズ [新潮CD] (新潮CD 名作ミステリー)」['98年]

The Sign of Four 01.jpgThe Sign of Four 02.jpg ホームズの元にメアリー・モースタンという若い女性が相談に訪れ、彼女の父親はインド英国軍の大尉だったが、帰国した際に消息を絶ち、その数年後から謎の人物から彼女に贈り物が届くようになって、そして今度は、その相手から直接会いたいとの連絡があったという―。ホームズとワトスンは、メアリーに付添って、彼女の父親とインドで一緒だったショルトー少佐の息子、サディアスを訪れ、そこで父親の死と秘密の財宝についての話を聞かされ、更に財宝を見つけた兄バーソルミューを訪ねるが、彼は密室の中で死んでいた―。

A Study in Scarlet and the Sign of Four
Sir Arthur Conan Doyle (Wordsworth Editions(2003)/Grant Thiessen(2004))

 シャーロック・ホームズ・シリーズの『緋色の研究』(1987年発表)に続く長編第2作で、1890年に発表され、同年に単行本刊行されたものですが(原題:The Sign of Four)、ホームズとワトスンのタッグがしっかり確立された作品であると言えます。
 但し、このシリーズが世間に人気を博したのは、この後に続く短編シリーズからだそうで、この作品はシリーズ全体の人気ランキングでも、必ずしも上位には入ってこない作品であり、そうしたこともあってか、個人的には今回が初読(だと思うが)。

 『緋色の研究』同様にそこそこ面白かったですが、謎解きの要素は意外と希薄で、結末部分では "high speed" boat chase などがあってアクションっぽくなるのですね、この作品は。
 後半4分の1を占める最終章は犯人の独白になっており、事件にインド大乱の時の混乱が絡んでいて、そこから財宝話が出てくるわけですが、このインド大乱って、セポイの乱のことなのですね。光文社文庫の新訳版は読み易くてすらすら読めてしまうのですが、その辺の周辺事情の部分だけは、ややごちゃごちゃしていて、分かりづらかったです。

 物語の途中までの焦点は、メアリーの手に財宝が渡るかどうかですが、最後は彼女とワトスンの2人が逆説的にめでたしめでたしとなる―冒頭で、『緋色の研究』において事件の記録にロマンチックな要素を持ち込んだことをホームズに批判されるワトスンですが(ドイル自身の前作への自己批判が反映されているらしい)、今回の物語でも、ホームズの口を借りて「絶対におめでとうとは言えないね」と。う~ん、ドイルは二重人格か。

Sign of Four.jpg 河出書房版は『四つのサイン』としていますが、より正確に言えば「四人のしるし」でしょう。他の3人は字が(自分の名前すら)書けないのだから(左のオーディオ・ブックのジャケット参照)。

"The Sign of Four, Sir Arthur Conan Doyle, Audio book"

 シャーロッキアンでも知られる訳者らしく、注釈と解説、訳者あとがきで本全体の3分の1を占めていました(これだけで1つの読み物のよう)。

 しかも、その訳者あとがきで、この物語を精神分析的に解釈していて、この作品の様々な登場人物に、作者のドイル自身及びその家族が反映されていることを示すとともに(この物語はドイルの「告白小説」だそうだ)、この物語における財宝が、母親の愛情の象徴であることを示唆しており、なかなか面白かったです。

 訳者あとがき部分だけだと10ページほど。興味がある人には、一読されることをお勧めします

四人の署名0.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名」 (87年/英) ★★★☆ ジェレミー・ブレット主演 
 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1960年文庫化[創元推理文庫(阿部知二:訳『四人の署名』)]/1979年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳)]/1983年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池滋:訳『四つの署名・バスカヴィル家の犬―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈5〉』)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2013年再文庫化[角川文庫( 駒月雅子:訳)]】 

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単なるサイコ・スリラーで終わらないどんでん返し。リアリティを保つドラマとしての肉付け。

『ABC殺人事件』.jpgABC殺人事件 ポケミス.jpg ABC殺人事件 クリスティー文庫.jpg  ABC殺人事件 ハ―パーコリンズ版.jpg ABC殺人事件 2001.bmp
ABC殺人事件 (1957年) 』(鮎川信夫:訳) 『ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['03年](堀内静子:訳)  HarperCollins版(1995/2001)
ABC殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(田村隆一:訳/真鍋博:カバーイラスト)

The ABC Murders -Great Pan.jpgトム・アダムズ108「ABC殺人事件」.jpg ある日ポアロの元へABCと名乗る人物から殺人予告とも取れる一通の手紙が届き、そして予告通り、アンドーヴァの地で小売店のアッシャー夫人が撲殺され、更に2通目、3通目の予告状も届き、ベクスヒルで若い女性バーナードが、更にチャーストンでクラーク卿が殺される。この連続殺人には、殺人が行われた地名と被害者の頭文字がAとA、BとBのように一致していることと、死体のそばに必ず「ABC鉄道案内」が置かれているという2つの共通点があった―。 米国版(表紙イラスト Tom Adams)
Pan Books First edition published in 1958.

ABC殺人事件1962.bmp 1935年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題:The ABC Murders)、一見無関係な殺人事件が連続して起きる「ミッシング・リンク・テーマ」の決定版とされている作品であり、更には、サイコ・スリラーという点でも、80年代のトマス・ハリスや90年代のジェフリー・ディーバーの諸作品の先駆け的要素を持った作品であると言えます。

 但し、近年のサイコ・スリラーやクライム・ドラマに見られるような、所謂「サイコ」(サイコパス)というパターン化した怪物的犯人像と、この作品で犯人と目される人物のキャラクターとでは、同じく精神を病んでいるにしても随分と趣が異なり、更には、「サイコ」を徐々に追い詰めて、最後に捕まえて事件は解決というパターンではなく、更にそこから大きな「どんでん返し」がある点でも、クリスティのオリジナリティの高さを感じます。

Fontana版(1962)

「ABC殺人事件」.jpg 一方で、その「どんでん返し」を振り返って思うに、捜査を攪乱させるためとは言え、ここまでやるかなあ犯人は、という印象はあり、先に挙げたジェフリー・ディーバーの『魔術師(イリュージョニスト)』('03年発表、'04年文藝春秋、'08年文春文庫)の犯人などもまさに同じ手法を用いており、確かにこうした犯行技巧は現代ミステリにも受け継がれてはいるのでしょうが、どうしてもこの手のやり口は、犯人サイドから見て労力と結果の対比効率が良くないのではないかと思ってしまいます。

 ただ、クリスティのエラいところは、そうした批判をも見通して、人間ドラマとしての肉付けをしっかりすることにより、一定のリアリティを最後まで保持しようとしているところにあるのではないかと。
Grosset & Dunlap later edition in USA

 だから、読者を、「これは推理小説であり、要は"お話"なのだ」みたいな読み方には最後までさせない、この辺りが、「ミステリの女王」の真骨頂なのではないかと、個人的には思います。


クリスティのフレンチ・ミステリー/ABC殺人事件.jpg 事件の序盤で、ポアロがヘイスティングスの問いに、犯人は「中背の赤毛の男で、左目が軽いややぶにらみ」で、「右足をやや引き摺り、肩甲骨のすぐ下には黒子がある」と言う場面があり、これは、まだ犯人について何も分っていないのに「シャーロック・ホームズ流の推理」を聞きたがるヘイスティングスに対する苛立ちと皮肉を込めた冗談なのですが、同時に、シャーロック・ホームズの推理的卓抜(コナン・ドイルの作風)の非現実性を皮肉っているようにも取れました。
「クリスティのフレンチ・ミステリー(第1話)/ABC殺人事件」 (09年/仏) ★★★☆

ABC殺人事件 新潮文庫.jpg 【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(鮎川信夫:訳)/1959年文庫化[創元推理文庫(堀田善衛:訳)/1960年再文庫化・1996年改版版[新潮文庫(中村能三:訳)/1962年文庫化[角川文庫(能島武文:訳)/1974年再文庫化[講談社文庫(久万嘉寿恵:訳)]/1987年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/1990年再文庫化[偕成社文庫(深町真理子:訳)]/2000年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳)]/2003年再文庫化[創元推理文庫(深町真理子:訳)/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(堀内静子:訳)]】

ABC殺人事件 (新潮文庫)

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ミステリとしてはやや冗長だが、怪異的雰囲気は出ている。ストーリー提供者との共作だった?

バスカヴィル家の犬 新潮文庫旧版.jpg バスカヴィル家の犬 新潮文庫.jpgバスカヴィル家の犬 (新潮文庫)』['54年]バスカヴィル家の犬 光文社文庫.jpgバスカヴィル家の犬―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』['07年]

バスカヴィル家の犬 S・バシェット画.jpg デヴォンシャーの名家バスカヴィル家の当主、チャールズ卿が怪死を遂げた。ベーカー街を訪れた医師モーティマーの依頼によって、チャールズ卿の死に関する調査とバスカヴィル家の新たな当主となったヘンリー卿護衛のため、多忙のホームズに代わりワトスンが、依頼人と共にデヴォンシャーへと向かう。彼を待ち受けていたのは独特の雰囲気に包まれた沼沢地帯と、そこに暮らすいずれも一癖ある隣人たち、そして今なおその地の人々の胸に現実の恐怖として生き続ける、バスカヴィルにまつわる魔犬伝説だった―。

 1901年にコナン・ドイルが発表した、ホームズ物語の4つの長編中最長の作品であり、また、1893年の「最後の事件」以降8年ぶりのホームズ復活、但し、時代背景は「最後の事件」以前のこととされています。

シドニー・パジェット画/ホームズとワトスン

ダートムア.jpg 『緋色の研究』、『四つの書名』、そして、本作の後に書かれた『恐怖の谷』の3つの長編は何れも2部構成になっていますが、この『バスカヴィル家の犬』は、前半ワトスンの手紙乃至報告文が中心で、後半がワトスンのリアルタイムでの語りのようになっているものの、明確に2部に分かれてはいません。

 ホームズが1本のステッキから持ち主のプロフィールを推察する導入部分は有名で、ストーリーもそう複雑ではなく、「魔犬」という特異なモチーフでもあるため、ホームズ物語の中でも印象に残るものでした。

 日本シャーロック・ホームズ・クラブという組織が1979年と1992年に実施した、シリーズ60作品を対象としたベストテン投票でも、共に1位になっている作品ですが、ただ、今回再読して、ストーリーがそう複雑でない割には少し長いかなあとも感じました。
 
 一部のミステリ通によれば、ヘンリー卿の靴が無くなった時点で事件の仕掛けが分ってしまい、ロジック上も幾つか穴がある("ご都合主義"が見受けられる)とのことですが、個人的にはそれほど気にならず、後半の早々に犯人が明かされてしまうのも、自分のような、いつも最後の最後まで誰が犯人かが読みとれない読者には、ある意味、丁度いいくらいの感じです。

 まあ、この「長さ」の部分は、この作品の舞台である西イングランド地方のダートムアの叙景に費やされていたりして(ダートムアはその名の通り草原湿地帯で、今は国立公園に指定されているが、夜歩きに適さない土地であることは確か)、それはそれで、作品全体を覆う怪異的雰囲気を醸すのに寄与していると言えるのではないでしょうか。

The hound of the Baskervilles.jpg 光文社文庫版は、初版時のシドニー・パジェットの挿画が30点掲載されていて(新潮文庫版は挿画無し)、当時の時代の雰囲気や登場人物の風貌が分かりやすいです。

 また、作家の島田荘司氏が解説を書いており、ドイルの旧知でありファンでもあったバートラム・ロビンソンの「ダートムア物語」というのが、この作品の背景及びモチーフに大きく寄与しているという話をたいへん興味深く読みました。

 島田氏は、『バスカヴィル家の犬』はコナン・ドイルとバートラム・ロビンソンとの共作のようなものであるとしているようですが、翻訳者の日暮雅通氏によれば、ロビンソンのこの作品への関与の度合いについては諸説あるようです。

シドニー・パジェット画

バスカヴィル家の獣犬01.jpgバスカヴィル家の獣犬 dvd.jpgThe Hound of the Baskervilles (2002).jpg 「シャーロック・ホームズ/バスカヴィル家の獣犬」 (02年/英) ★★★★
  
sherlock バスカヴィルの犬 07.jpgsherlock バスカヴィルの犬 01.jpg 「SHERLOCK(シャーロック)(第5話)/バスカヴィルの犬(ハウンド)」 (11年/英) ★★★

 【1954年文庫化[新潮文庫(延原 謙:訳)]/1960年文庫化[創元推理文庫(阿部知二:訳)]/1980年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳『バスカビル家の犬』)]/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池 滋:訳『四つの署名・バスカヴィル家の犬―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈5〉』)]/2004年再文庫化[講談社文庫(大沢在昌:訳『バスカビル家の犬』)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]】 

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シリーズの最後の短編集。衰えぬ冴えを見せる一方で、"変化球"的・"疑問符"的作品も。

Dust-jacket illustration of the first edition of The Case-Book of Sherlock Holmes.jpgシャーロック・ホームズの事件簿 新潮文庫 旧版.jpg シャーロック・ホームズの事件簿.jpgシャーロック・ホームズの事件簿 (1953年) (新潮文庫)』『シャーロック・ホームズの事件簿 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
Dust-jacket illustration of the first edition of The Case-Book of Sherlock Holmes

 1927年、コナン・ドイルが亡くなる3年前に刊行されたシャーロック・ホームズ・シリーズの最後の短編集(第5短編集)で(原題:The Case-Book of Sherlock Holmes)、ドイルの没後60年に当たる1990年に著作権が切れるまでは、延原謙訳の新潮文庫版しかありませんでした(従って、創元推理文庫版の訳者は、阿部知二(1973年没)ではなく、最初から深町眞理子氏になっている)。

The Case-Book of Sherlock Holmes.jpg 1917年刊行の『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』以降に発表された(これが"最後"じゃなかったわけだ)、「マザリンの宝石」(1921年)から「ショスコム邸」(1927年)までの12編を収めており、光文社文庫版(日暮雅通訳)は解説や漫画家・坂田靖子氏のエッセイなども含めて487ページ、この文庫はカバーの紙質がしっかりしているのがいいです(シドニー・パジットの挿画が多く掲載されている点もいい)。

 一方、新潮文庫版は、例によって「隠居した画材屋」(延原謙訳では「隠居絵具屋」)と「ショスコム荘」の2編が『シャーロック・ホームズの叡智』の方に組み入れられていますが、この仕分け基準が未だによく分らない...。しかも、新潮文庫版は光文社文庫版と異なり発表順には並んでおらず、では何順なのかというと、この辺もよく分らない...(でも、訳文そのものは格調高い)。
 とまれ、ドイルの晩年にして、なお衰えぬ見せぬホームズの冴えが認められる短編集であることは確かです。

シドニー・パジェット画/ホームズとワトスン

 1927年と言えば、すでにアガサ・クリスティなどが登場していた頃ですが、起きている事件は1903年以前の設定となっていて、この辺りは、それまでリアルタイムで"現代モノ"を書いていたのが、晩年の作品において年月の流れを止めたクリスティと似ている気もします。

消えた蝋面.jpgThe Casebook of Sherlock Holmes, Volume 1.jpg 一方で、最後まで新たな境地を探ろうとしているのか、「白面の兵士」(この作品、ドイルは医師だったはずだが、ハンセン氏病に対する誤解がみられる)などのようにワトスンではなくホームズ自身が事件を語ったり、結構"変化球"が多いという感じでしょうか。 この"不統一性"は、1921年の書き始めの段階では、短編集として纏めるという意図が必ずしも無かったことからくるのかも。

「消えた蝋面」(「白面の兵士」)山中峯太郎 1956年ポプラ社(名探偵ホームズ全集19)

 晩年のドイルの超自然現象への関心や、博物学的知識が反映されている作品も見られ、動物モノに至っては犬やライオンが出てくるばかりでなく、「ライオンのたてがみ」では、サイアネア・カピラータという大○○○まで登場します。

 ホームズの"後出しジャンケン"的な謎解きも目立つ作品群で、全体としては玉石混交といった感じでしょうか。

 個人的には、「サセックスの吸血鬼」「高名な依頼人」が良かったかなあ。
 「ソア橋の難問」はトリックに(本格推理小説によくあるパターンだが)やや無理がある気もし、「三人のガリデブ」も着想はすごく面白いけれど、いくら犯人が金持ちだからといってここまでやるかなあという感じも。

メンタリスト.jpg 「三破風館」の金持ち夫人である犯人に対する事件の収め方は、探偵がこんな取引きしてもいいの?というのはありますが、つい最近観た海外ドラマ「メンタリスト」(第17話)でも、主人公の犯罪捜査アドバイザー(サイモン・ベイカー[写真右端])が犯人に死刑求刑しない代わりに、誤認逮捕の被害者のがん治療費として50万ドルの小切手を切らせるというのがあり、こうした決着方法も今に引き継がれていると見るべきでしょうか(この番組の宣伝文句の1つは「ポスト・シャーロック・ホームズ」。科学捜査全盛のクライム・ドラマの中では、確かに言い得ているかも)。

《読書MEMO》
●収録作品
マザリンの宝石/ソア橋の難問/這う男/サセックスの吸血鬼/三人のガリデブ/高名な依頼人/三破風館/白面の兵士/ライオンのたてがみ/隠居した画材屋/ヴェールの下宿人/ショスコム荘

the mentalist.jpgthe mentalist1.bmp「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」The Mentalist (CBS 2008/09~ ) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2010~)

THE MENTALIST / メンタリスト 〈ファースト・シーズン〉コレクターズ・ボックス1 [DVD]


 

 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1991年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康男:訳)]/1991年再文庫化[創元推理文庫(深町真理子:訳)]/2007年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]】

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シリーズの最初の作品。格調高い新潮文庫版に対し、読みやすい光文社文庫の新訳版。

緋色の研究 新潮文庫.jpg 緋色の研究 創元推理文庫.jpg 緋色の研究 光文社文庫.jpg  Arthur Conan Doyle.jpg緋色の研究 (新潮文庫)』 『緋色の研究 (創元推理文庫)』 『緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)』 Arthur Conan Doyle

緋色の研究 1887年初版.jpg アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle、1859-1930)によるシャーロック・ホームズ・シリーズの最初の作品で、1886年に執筆され、翌1887年に発表されたもの(原題:A Study in Scarlet)。

『緋色の研究』1887年初版

 2部構成で、第1部は、ワトスンがホームズと出会って共同生活を始めるまでの経緯と、そこへ「血痕の飛び散った空き家の一室で死体が発見されたが、外傷が全く見られない」という奇怪な殺人事件が持ち込まれ、ホームズがその事件の犯人をつきとめるまでを、第2部では、事件の背景となった宗教と恋愛が絡んだ過去の出来事の経緯を、犯人自身が告白するという形式です。

 ワトスンがホームズと初めて会って、最初は奇妙な奴だなあと思っていたのが、次第に彼に興味を覚え(握手しただけでワトスンがアフガン帰りだと言い当てた)、その卓越した推理能力に圧倒されるようになるまでがコンパクトに描かれています。

The Mormon trek, recreated on Southport sands.jpg 19世紀のアメリカでのモルモン教の歴史が絡んだ、第2部の犯人の告白は結構「重たい」話であり、彼がどう裁かれるのかと思ったら実は重大な病気を抱えていて―というのは、その後のミステリでもよくあるパターンで、でも、これがホームズ・シリーズの後期に書かれたものだったら、ホームズの対処の仕方も少し違ったものになったかも知れないなあと。

The Mormon trek, recreated on Southport sands

 一方で、事件の背後関係を実はホームズは独自に調査して知っていたとか、"後出しジャンケン"みたいなのはこの頃からあって、光文社文庫の巻末にエッセイを寄せている赤川次郎氏も、「もしコナン・ドイルが現代のミステリの新人賞にでも応募していたら、とても入選できなかっただろう」と書いています。

 シャーロック・ホームズ・シリーズ(全集)は、文庫では、新潮文庫版(延原謙訳)、ハヤカワ文庫版(大久保康雄訳)、創元推理文庫版(阿部知二訳)、ちくま文庫版(訳者多数)があり、今世紀に入ってちくま文庫版が絶版になった代わりに光文社文庫版(日暮雅通訳)が刊行されていて、また文庫以外では、河出書房版(小林司・東山あかね訳)のハードカバー全集があります(『緋色の研究』の創元推理文庫版については、来月(2010年11月)深町眞理子氏の新訳版が刊行予定)。

 シャーロッキアンと呼ばれる人々の間では、典雅な訳調の新潮文庫版が"正典"とされているようですが、短編集の一部が本来とは別編集になっていたり、挿絵が無かったりと、一般読者からすれば不満要素もあります。

緋色の習作.jpg シャーロッキアン2人が訳した河出書房のハードカバー版(小林司氏は日本シャーロック・ホームズ・クラブ主宰。先月(2010年9月27日)81歳にて逝去された)が、最も詳細(マニアック?)に解説されていて(本作のタイトルを『緋色の習作』としているのも"こだわり"の1つか)、挿画も発表当初のものを多く載せていますが、「入手しにくい・高い・重い」といった難点があります。

 こうして見ると、光文社文庫版は、「注釈」が河出書房版ほどではないにしても充実していて、挿画もかなり多く収められています。
 個人訳でもあるし、訳文がこなれていて読み易いという点でもいいのではないかと(ホームズ・シリーズって、こんなにすらすら読めたっけ、という感じ)。

 因みに、『緋色の研究』の挿画は、よく知られているシドニー・パジェットのものではなく、この頃はジョージ・ハッチンスンのものです(ホームズのイメージ、微妙に違うなあ)。

 自分がかつて読んだのは新潮文庫版でしたが、これを機に光文社文庫版で他の作品も読んでみようかという気になりました。

ピンク色の研究 dvd.jpgピンク色の研究 04.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第1話)/ピンク色の研究」 (10年/英) ★★★★ ベネディクト・カンバーバッチ主演

 【1953年文庫化[新潮文庫(延原謙:訳)]/1959年文庫化[角川文庫(阿部知二:訳)]/1960年文庫化・2006年改版版[創元推理文庫(阿部知二:訳)]/1977年再文庫化[講談社文庫(鮎川信夫:訳)]/1983年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(大久保康雄:訳)]/1997年再文庫化[ちくま文庫(小池滋:訳『緋色の研究・まだらの紐―詳注版シャーロック・ホームズ全集〈2〉』)]/2006年再文庫化[光文社文庫(日暮雅通:訳)]/2010年再文庫化[創元推理文庫(深町眞理子:訳)]/2012年再文庫化[角川文庫( 駒月雅子:訳)]】 

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ハード・ボイルド・ラヴ・ストーリー? そのまま今風ハードボイルドとして楽しめるが...。

闇の中から来た女.jpg闇の中から来た女』['91年] ダシール・ハメット.jpg Dashiell Hammett(1894-1961)[本書表紙見返しより] 
Woman in the Dark.jpg ヨーロッパで金持ちのロブソンに拾われてアメリカにやって来たルイーズは、彼の下を逃れようとして、ロブソンの地所に住む前科者のブラジルの小屋に転がり込むが、ルイーズを連れ戻そうとロブソンの手下2人がブラジルの小屋に押し入ったため暴力沙汰になり、ブラジルがそのうちの1人コンロイに大ケガをさせたことから、彼女はブラジルと一緒に逃亡することになる―。

"Woman In The Dark" Trade Paperback(1989)

 1933年に発表されたダシール・ハメットの作品で(原題:Woman in the Dark)、ハードカバー仕様で約220ページほどですが、『初秋』のロバート・B・パーカーの序文と『砂のクロニクル』の船戸与一氏による訳者解説が前後にそれぞれ約20ページずつあるため、正味180ページ、本文の文字もスカスカなので、実質的には中編作品と言えるでしょう。

 ロバート・B・パーカーは、「ハメットのどの作品よりもラヴ・ストーリーの色彩が濃い」作品としていますが、確かにそう思え、更に、「結末はハメットには珍しく感傷的で、ブラジルとルイーズがズット幸福ニ暮スだろうということを暗示している」としていますが、これに対し訳者の船戸氏は異を唱えています(だから、その部分がカタカナ書きになっているのか)。

 個人的には、この辺りは微妙なところだと思います。『デイン家の呪い』('29年)のコンチネンタル・オプと令嬢ゲイブリエルや、『ガラスの鍵』('30年)のネッド・ボーモントと上院議員の娘ジャネットの関係にしても、映像化されたりすると両者の間に相思相愛の情が芽生えたように脚色されそうだけれども、原作からは必ずしも(少なくとも男の側からは)そうはとれません。

 但し、この作品のルイーズは、そうした少女と女性の中間のような女性ではなく、成熟した女性の美しさと強さを持ち、それでいて優しさと思いやりのある女性であり、ブラジルも積極的に彼女にアタックしている―。

 船戸氏の言うには、ブラジルやロブソンがルイーズに吸い寄せられるのは、「アメリカ的なものがヨーロッパ的なものへと無意識のうちに拝跪したことを意味する」とのことで、そのことを時代背景及びアメリカのヨーロッパに対する文化的コンプレックスの観点から論じ、やがて、ブラジルもロブソン同様にルイーズから棄てられるであろうと。

 う~ん、作家ってここまで読み込むのかと感心させられますが、こうした解釈が入るということは、3人称複数の視点で描かれた文章を、ヒロイン一人の視点に統一して訳したとしているように、翻訳そのものの中にも相当の意訳があるとみた方がいいのかも。

 個人的には、2人の行く末がどうあれ、ルイーズは、ハメット作品に登場する女性の中でも最も「いい女」として描かれているように思われ、ブラジルの男っぷりにやや欠損があるのに比べて(例えば、ロブソンという大地主の土地で暮らしているとか、刑務所暮らしを経験して閉所恐怖症であるといったこと)、彼女の女っぷりの方が際立っているように思いました。

 ハードボイルドの始祖と言われるハメットですが、その作品は何れも、今でいうハードボイルドのイメージから少しずつズレているように思われ、その点ではこの『闇の中から来た女』は、そのまま今風のハードボイルドとして通用するような気がします(だから、ストレートに楽しめばいいのかも知れないが)。

Woman in the Dark (1934) _.jpg その点が、船戸氏の言う、「かつての『血の収穫』や『マルタの鷹』『ガラスの鍵』のように、物語の進行とともにアメリカの権力が隠蔽していたものを無言のうちに引き剥がしてみせるといった迫力はかなり薄まってきている。『闇の中から来た女』を書いたとき、ダシール・ハメットはすでに衰退期にはいっていたのだ」ということの、逆説的な証左となっているとも言えるのではないかと思いました。

 因みに、原作発表の翌年、「キング・コング」('33年)で有名な女優フェイ・レイ主演で映画化されていますが、日本では未公開のようです(監督は、怪奇映画のフィル・ローゼン。怪奇映画風にしてしまったのかなあ)。

Woman in the Dark (1934)

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ゴチック・ミステリ? 作者のプロット構築力が遺憾なく(やや過剰気味に)発揮された作品。

The Dain Curse by Dashiell Hammett (Consul M718, 1959).jpgデイン家の呪 ポケミス.bmp デイン家の呪い.jpg DainCurse Penguin, 1966 (paperback).jpgデイン家の呪 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』['56年]『デイン家の呪い(新訳版)』['09年] The Dain Curse, Penguin, 1966 (paperback)
The Dain Curse by Dashiell Hammett (Consul M718, 1959)

 コンチネンタル探偵社の調査員の私は、保険会社の依頼でダイヤモンド盗難事件遭った科学者エドガー・レゲット博士の屋敷を訪ねるが、やがて博士が不審な死を遂げ、更に関係者の自殺や謎の死など怪事件が次々起きる。レゲットの娘ゲイブリエルは麻薬に溺れており、レゲットの妻アリスの実家デイン家に纏わる呪いが、これらの事件に影を落としているようにも見える―。

 1929年に刊行されたダシール・ハメットの長編第2作で、前作『赤い収穫』と同じく"コンチネンタル・オプ"が主人公ですが、前作のような1つの町全体を"浄化"するといったスケールの大きな話ではなく、いわくありげな一族と、その一員で怪しげな宗教に傾倒する令嬢を軸とした、ある種"ゴチック・ミステリ"の様相を呈しています。

 但し、3部構成を成すストーリーはかなり込み入っていて事件が満載、「たった1冊の本の中でハメットの探偵は1人の男を撃って[7発撃ちこんでも倒れないので]刺し殺し、もう1人を射殺[4人で同時に発射]する手助けをし、彼自身は、短剣、拳銃、クロロフォルム、爆薬で襲われ、おぞけをふるうような場面から素手で闘って逃げだし、5人の女性ともみあい、1人の娘を麻薬中毒から救い出す。さらに...誘拐1件、殺人8件[あるいは9件か]、宝石強盗1件、呪いの家[にまつわる]1件とわたりあうのである」(ジョン・バートロウ・マーティンによる書評より。[]内は訳者注記)とあるように、その過剰な詰め込み具合がやや荒唐無稽ともとられ、『赤い収穫』や『マルタの鷹』ほど評価は高くないようです。小鷹信光氏の今回の訳は、1953年の村上哲夫訳(1956年にハヤカワ・ポケミスに収録)以来、半世紀以上ぶりの新訳とのことで、忘れられた作品だったということでしょうか。

The Dain Curse (1978).jpg 個人的には、結構面白かったし、小鷹氏が「『赤い収穫』とはまったく異なる小説であり、探偵役のオプの役柄もまるで別人」と言っているのがよく解りました。ハメットの小説と言うだけで、1つの固定した原初的なハードボイルドのイメージを抱きがちですが、実は作品ごとに随分違うなあと。

 3部構成のそれぞれにオチがあり、さらに第3部では、3番目の事件解決の後、更に連続したそれらの事件全体の黒幕が明らかになるという大ドンデン返しがあって、作者のプロット構築の才能が遺憾なく(やや過剰気味に)発揮されているのではないでしょうか。

 それぞれの事件の最後の方でまとめて謎解きがあり、第1部、第2部では、それを「私」自身が友人の作家フィッツステファンに解説していることに、(「あんたはシャーロック・ホームズか」と言いたくなるような)ややハードボイルドらしからぬものを感じました。連載の紙数の都合でこうなったのかなあと思ったけれども、要は、これもドンデン返し1つの伏線だったということか。

The Dain Curse (CBS 1978)        
The Dain Curse [VHS] _.jpg ジェームズ・コバーン主演で1978年にTV映画化されていますが、未見です。話が第2部から始まるという端折りぶりらしいですが、ハメット未亡人はジェームズ・コバーンがハメットに似ているのを気に入っていたとか。
The Dain Curse (1978) .jpg
The Dain Curse (CBS 1978)


 【1956年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(村上哲夫:訳『デイン家の呪』)/2009年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳)]】

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デ・ニーロの演技もさることながら、ジェームズ・ウッズの剃刀の刃のような演技が鮮烈。

Once Upon a Time in America (1984)_.jpgワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ パンフレット.png ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ dvd.jpg ONCE UPON A TIME IN AMI.jpg
パンフレット/「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ [DVD]
Once Upon a Time in America (1984) ジェームズ・ウッズ/ロバート・デ・ニーロ

ワンス1.JPG 1920年代初頭、ニューヨークに住むユダヤ移民の子ヌードルスは、仲間を率いて貧困街で悪事を働く中、町に越して来たマックスと出会い、2人は禁酒法の隙間をぬって荒稼ぎ、大人になった頃にはギャング集団として伸し上がっていた。新たな仕事の計画を立てたマックス(ジェームズ・ウッズ)の無謀な考えに反発したヌードルス(デ・ニーロ)は、彼を裏切り警察に情報を流したため、マックスは殺されヌードルスは町を追われる。しかし30年後の今、年老いたヌードルスのもとへ―。 

 セルジオ・レオーネ(1924-1984)監督の遺作となった作品で、1984年10月に有楽町マリオンにオープンした「日本劇場」(現「日劇スクリーン1」)の杮(こけら)落としロードショー作品でした。

ワンス2.JPG セットも役者(脇役陣含む)も音楽(エンニオ・モリコーネ)も豪勢で、時代の雰囲気を感じさせる重厚かつ哀愁に満ちた作品だと思いましたが、3時間半近い長尺の割にはやや唐突な終わり方のような気もしていました。但し、後年テレビで観直してみると、劇場のようにスケールの大きさは味わえないのですが、ストーリーは冷静に追えるというメリットもあって(勿論、2回目ということあって)、ちゃんと伏線はあったのだなあと思いました。

 時代背景は、ヌードルスがと出会った少年時代(1923年)と、刑務所出所後にマックスと再会し、仲間らと連邦準備銀行を襲う計画に加わった青年時代(1931年-1933年)、更にマックスと再々会した現在(1968年)を行き来しますが、既にネタばれになっているように、実はマックスは生きていて、ヌードルスが強盗計画の無謀さから仲間を救うべく密告に及ぶことも、全て彼の手の内にあった計画だったと―。

ワンス3.JPG つまりヌードルスは自分が仲間を裏切ったと思っていたのが、実はマックスの方が最初から仲間を裏切っていたわけで、そのマックスが、今は実業界に君臨するも失脚の窮地にある―ラストシーンで、ヌードルスが道でマックスと思しき人影を認めるも、清掃車が通り過ぎた後にはその影は無かったことは、マックスの自殺を示唆しているのでしょう。

 マックスはヌードルスと再会した時点で、自分を殺してくれと頼んでいて、その報酬まで用意していた―にも関わらずそれを断ったヌードルスに対し、「これがお前の復讐なのか」と問い詰め、それに対し、「俺の話はもっと単純だ。昔、親友がいた。彼の命だけは助けたいと思い、仲間を裏切ったが、それでも彼を救うことができなかった」と答えるヌードルス。

ワンス4.JPG 友情が悔恨に、更に復讐の念に転じるべきものが、ノスタルジーを通じてアンビバレントとして様々な感情が複雑に併存しているのが、今の老いたヌードルスなのでしょう。そして過去を引き摺って生きてきたという点では、マックスもヌードルスと同じであり、彼なりに落し前をつけようとしたともとれます。

 非情さと繊細さの混ざり合ったキャラを演じたロバート・デ・ニーロの演技もさることながら、当時まだ映画界では新進のジェームズ・ウッズの鋭い剃刀の刃のような演技が鮮烈です。ジェームズ・ウッズはその後もずっとバイプレーヤーして活躍していますが(この俳優を個人的に最初に知ったのは、デヴィッド・クローネンバーグ監督ヴィデオドローム5.jpg「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)だと思っていたが、日本での公開は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の方が1年早い)、最近ではFOXチャンネルの「SHARK ~カリスマ敏腕検察官」(スパイク・リー製作)に主演しており、現在もその演技が観られるのが嬉しいです(本国では2シーズンで放送終了になってしまったようだが)。

David Cronenberg & James Woods

ワンス5.JPG「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」●原題:ONCE UPON A TIME IN AMERICA●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:セルジオ・レオーネ●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:セルジオ・レオーネ/レオナルド・ベンヴェヌーティ/ピエロ・デ・ベルナルディ/エンリコ・メディオーリ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:205分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ジェームズ・ウッズ/エリザベス・マクガヴァン/ジェニファー・コネリー/ダーラン・フリューゲル/トリート・ウィリアムズ/チューズデイ・ウェルド/バート・ヤング/ジョー・ペシ/ジェームズ・ヘイデン/ウィリアム・フォーサイス/ダニー・アイエロ/ジェラード・マーフィ/ラリー・ラップ/ダッチ・ミラー/ロバート・ハーパー/リチャード・ブライト/ポール・ハーマン●日本公開:1984/10●配給:東宝東和●最初日劇1.jpgに観た場所:有楽町・日本劇場(84-10-27)(評価:★★★★☆)
音楽:エンニオ・モリコーネ
有楽町マリオン 阪急.jpgさよなら日劇ラストショウ1.jpg日本劇場  .jpg日本劇場 (前身は「日本劇場」(1933年12月24日-1981年2月15日閉館)) 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側11階にオープン(1,008席)、2002年~「日劇1」(948席)、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(上写真:「日劇1」館内) 2018年2月4日閉館 TOKYO MX (2018.2.2)

SHARK~カリスマ敏腕検察官.jpgSHARK~カリスマ敏腕検察官1.bmp「SHARK~カリスマ敏腕検察官」Shark (CBS 2006/09~2008) ○日本での放映チャネル:FOXチャンネル(2008~ )

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「初体験/リッジモント・ハイ」 (82年/米)2.jpg 主役を食ったロバート・デ・ニーロ、映画を食ってしまったショーン・ペン。

ミーン・ストリート dvd.jpg Mean Streets.jpg 初体験リッジモント・ハイ dvd.jpg 初体験/リッジモント・ハイ dvd.jpg
ミーン・ストリート [DVD]」Harvey Keitel(ハーヴェイ・カイテル),Robert De Niro「初体験 リッジモント・ハイ [DVD]」/「初体験リッジモント・ハイ コレクターズ・エディション [DVD]」Phoebe Katz(フィービー・ケイツ)

「ミーン・ストリート」_1.jpgMEAN STREETS 2.jpg 「ミーン・ストリート」('73年/米)は、マーティン・スコセッシ 監督の初期の映画で、しがないヤクザ者のチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)が、組織に対する忠誠心や自分の生き方に自信を持てないでいる一方、気分によって仕事をし、酒・博打・女による借金で首が回らなくなっている親友のジョニーボーイ(ロバート・デニーロ)をかばい続けるがばかりに、共に窮地に追い詰められていく―という話。

MEAN STREETS.jpg  本来の主役はハーヴェイ・カイテルであり、親友を巡って葛藤する青年を見事に演じているのですが、それを凌いでいるのが、ジョニーボーイという無頼のキャラクターを演じているロバート・デ・ニーロ(当時29歳)の演技で、そのハチャメチャぶりと破滅型人格の底に滲む哀感には、当時スゴい役者が現れたものだと思わせるものがあったのではないでしょうか。

 ロバート・デ・ニーロはその後、「ゴッドファーザーPARTII」('74年/米)に出演し、「タクシードライバー」('76年/米)では、ハーヴェイ・カイテルと主演・助演が入れ替わっていますが、「ミーン・ストリート」の時点で、すでに主役を食っていたなあと(「タクシードライバー」の3年前に作られたこの映画の日本での公開は、「タクシードライバー」公開の4年後だった)。

RIDGEMONT HIGH.jpgフィービー・ケイツ リッチモンドハイ.bmp 「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)は(故・伊藤計劃の『虐殺器官』('07年/早川書房)を読んでいたら、この映画のことがちらっと出imagesI35HWSBZ.jpgてきた)、アメリカの高校生達の恋と青春を描いた作品で、当時人気のフィービー・ケイツ(Phoebe Cates、中初体験/リッジモント・ハイ   .jpg学生のようなルックスと大学生のような肉体の持ち主である彼女には、ロシア系、中国系などの血が混ざっている)を中心に据えたアイドル映画ですが(ストーリー上の主人公はジェニファー・ジェイソン・リーJennifer Jason Leigh)、学生になりすまして母校リッジモント・ハイに潜入し若者たちの生態を観察したキャメロン・クロウの同名原作が元になっており、高校生の実態を世の大人たちに知らしめる啓蒙的意図を持った作品でもあったようです。

グレムリン 00.jpgPhoebe Cates in Gremlins.jpgフィービー・ケイツ ロードショー.jpg フィービー・ケイツはこの作品の2年後、ジョー・ダンテ監督の「グレムリン」('84年/米)に主演し、日本でもその年(昭和59年)のクリスマス映画として公開されましたが大ヒットし(そもそも"モグワイ"という珍獣は、クリスマス・プレゼントだった。どうしてグレムリン  dvd.jpgアメリカでは6月公開だったのか)、彼女の日本での人気も一気に高まりました。あの中で、彼女演じる少女がクリスマスが嫌いだと言って、その理由が、自分の父親がクリスマスにいなくなって、1年後に煙突掃除したらサンタクロースの格好をした父親が出てきた、途中で詰まって死んじゃったんだという話を、可愛い顔してさらっとしてみせるのにはややビックリしました(ジョー・ダン監督特有のブラックユーモアだったのだろなあ)。

グレムリン 特別版 [DVD]

RIDGEMONT HIGH 1.jpg フィービー・ケイツが日本でホントにブレイクしたのは、やはり「グレムリン」ではないでしょうか。個人的には、この「初体験/リッジモント・ハイ」を観て最も印象に残ったのは、教室内の不良少年の1人で、その悪ガキぶりは演技を超えて本物の不良に見え、しかも、本当に少しキレてしまっているような感じさえありました。この不良少年を演じたのがショーン・ペンで(Sean Penn、当時22歳と高校生役にしては結構老けていた)、ちょっと狂った若者を映画に出させたわけではなく、やはり類稀なる演技力の賜物だったのだと、後で思いました(前年の「タップス」('81年/米)にも出ていたらしいが、坊主頭のトム・クルーズ(当時19歳)の方が印象深い)。

Fast-Times-at-Ridgemont-High.jpg その後、ショーン・ペンの方は、デ・ニーロを超える2度のアカデミー主演男優賞を受賞するまでの俳優になっていますが、「リッジモント・ハイ」に関して言えば、こんなたわいもないアイドル映画(乃至は"啓蒙映画")の中に置くにはあまりに"規格外"な存在であり、作品そのものの予定調和を掻き乱し、結果として映画そのものを食ってしまったという印象があります。

FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH.jpg 映画公開時は準主役というより脇役に近かったと思いますが(ポスターの右上に小さく写真が出ているだけ)、最近のDVDカバーなどでは彼の写真が前面に使われていて、「無名時代のショーン・ペンを観ることが出来る作品」というのがウリになっているのかも(売り出し前のニコラス・ケイジフォレスト・ウィッテカー、後の「ER」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズなども高校生役で出ている)。

『ミーン・ストリート』(1973).jpg「ミーン・ストリート」●原題:MEAN STREETS●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マーティン・スコセッシ/ジョナサン・T・タプリン●脚本:マーティン・スコセッシ/マーディック・マーティン●撮影:ケント・ウェイクフォード●時三鷹オスカー.jpg間:115分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ハーヴェイ・カイテル/デヴィッド・プローヴァル/エイミー・ロビンソン/ロバート・キャラダイン/デヴィッド・キャラダイン/リチャード・ロマナス●日本公開:1980/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-18)(評価:★★★★)●併映「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)

初体験/リッジモント・ハイ2.jpg「初体験/リッジモント・ハイ」●原題:FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ヘッカーリング●製作:アート・リンソン/アーヴィング・エイゾフ●脚本:キャメロン・クロウ●撮影:マシュー・F・レオネッティ●音楽:アーヴィング・エイゾフ●原作:キャメロン・クロウ●時間:90分●出演:ジェニファー・ジェイソン・リー/フィービー・ケイツ/ショーン・ペン/ジャッジ・ラインホールド/ニコラス・コッポラ/ニコラス・ケイジ/フォレスト・ウィッテカー/ブライア初体験/リッジモント・ハイ ポスター.jpgン・ベッカー/ヴィンゼント・スキャベリ/アンソニー・エドワーズ/エリック・ストルツ●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:中中野武蔵野ホール.jpg野武蔵野館(83-07-02)(評価:★★☆)●併映「マイ・ライバル」(ロバート・タウン) 
[上左]「初体験/リッジモント・ハイ」映画公開時ポスター(ショーン・ペンの写真は右上丸囲み内)

グレムリン00.jpg「グレムリン」●原題:GREMLINS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ジョー・ダンテ●製作:マイケル・フィネル●脚本:クリス・コロンバス●撮影:ジョン・ホラ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:106分●出演:ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ/ホイト・アクストン/フランシス・リー・マッケイン/ポリー・ホリデイ/コリー・フェルドマン●日本公開:1984/12●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(84-12-29)

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