【1396】 ◎ ドン・ウィンズロウ (東江一紀:訳) 『犬の力 (上・下)』 (2009/08 角川文庫) ★★★★★

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掛け値無しの面白さ。バイオレンスは厭という人にはお薦めできないが。

犬の力.jpg  犬の力 上.jpg 犬の力 下.jpg犬の力 上 (角川文庫)』『犬の力 下 (角川文庫)

犬の力 (上・下)』4.JPG 2009(平成21)年・第28回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作、2009年度・第1回「翻訳ミステリー大賞」受賞作、2010年・第28回「ファルコン賞」(マルタの鷹協会主催)受賞作(更に、宝島社「このミステリーがすごい!(2010年版・海外編)」1位、2009年度「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門)第2位、2009年「IN★POCKET」の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」でも第2位)。

 メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー、叔父が築く麻薬カルテルの後継アダン&ラウル・バレーラ兄弟、高級娼婦への道を歩む美貌の女子学生ノーラ・ヘイデン、ヘルズ・キッチン育ちのアイルランド人の若者ショーン・カラン。彼らは、米国政府、麻薬カルテル、マフィアなどの様々な組織の思惑が交錯する壮絶な麻薬戦争に巻き込まれていく。血に塗られた30年間の抗争の末、最後に勝つのは誰か―。

犬の力 洋書.jpg 2005年に発表されたドン・ウィンズロウの長編で(原題: "The Power of the Dog" )、1999年以降筆が途絶えていたと思いきや6年ぶりのこの大作、まさに満を持してという感じの作品であり、また、あのジェイムズ・エルロイが「ここ30年で最高の犯罪小説だ」と評するだけのことはありました。

 それまでのウィンズロウ作品のような1人の主人公を中心に直線的に展開していく構成ではなく、アート・ケラー、バレーラ兄弟、カランの3極プラスノーラの4極構成で、それぞれの若い頃から語られるため、壮大な叙事詩的構図を呈しているとも言えます。

 若い頃にはバレーラ兄弟に友情の念を抱いたことさえあったのが、やがて彼らを激しく憎しむようになるアート・ケラー、マフィアの世界でふとした出来事から名を馳せ、無慈悲な殺し屋となっていくカラン、メキシコの麻薬市場を徐々に牛耳っていくバレーラ兄弟、その兄アダン・バレーラの愛人になるノーラの謎に満ちた振る舞い、大掛かりな国策的陰謀の中で彼らは踊らされているに過ぎないのか、最後までハラハラドキドキが続きます。

 もう、「ニール・ケアリー・シリーズ」のような"ソフト・ボイルド"ではなく、完全にバイオレンス小説と化していますが、重厚感とテンポの良さを併せ持ったような文体は、やはりこの作家ならではかも。
 「ボビーZ・シリーズ」で、エルモア・レナードっぽくなったなあと思いましたが、この作品を読むと、あれは通過点に過ぎなかったのかと思われ、エンタテインメントの新たな地平を求めて、また1つ進化した感じです。

 一歩間違えれば劇画調になってしまうのですが、と言って、この作品の場合、そう簡単には映画化できないのではないでしょうか。丁度、ダシール・ハメットの最もバイオレンス風味溢れる作品『赤い収穫(血の収穫)』が、かつて一度も映画化されていないように(1930年に映画化され「河宿の夜」として日本にも公開された作品の原作が『赤い収穫』であるという話もあるが)―。それでも、強引に映画化するかなあ。

 とにかく掛け値無しで面白いです。但し、たとえエンタテインメントであってもバイオレンスは厭という人にはお薦めできません(と言う自分も、上巻の終わりのところでは、結構うぇっときたが)。

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