【1392】 △ ロバート・J・ソウヤー (内田昌之:訳) 『フラッシュフォワード (2001/01 ハヤカワ文庫SF) ★★★

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時間転移を解説するこだわりは評価したいが、話は最後"人生訓"みたいになってしまった。

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フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)』['10 年]『フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)』['01 年]

 2009年、ヨーロッパ素粒子研究所で、ヒッグス粒子を発見するための大規模な実験が行われたが、装置が稼働した瞬間に、全人類の意識が1分43秒間だけ2030年に飛んでしまい、2009年の世界では飛行機が墜落するなどの大災害が発生、何千人もの犠牲者が出た。実験の中心人物だったロイドとテオ両博士は―。

 1999年にカナダのSF作家、ロバート・J・ソウヤー(Robert J. Sawyer、1960年生まれ)が発表した長編で(原題:Flashforward)、アメリカのTVドラマ<LOST>の後番組として2009年9月にスタートした番組の原作ですが、着想の部分こそ原作に沿っているものの、全体の内容的にはドラマとはかなり異なったものでした。

 所謂タイム・パラドックスものですが、タキオン粒子とかミンコフスキー・キューブなどといったテクニカル・タームを用いて、どうして時間転移が起きたのかを解説しようとしており(そのこだわりは評価したい)、但し、これって解説すればするほど、「因果律」の壁にぶつかってしまうような気が...(その「因果律」そのものが、この小説のモチーフとなっているとも言えるのだが)。
 地球も太陽系も銀河系も、常時もの凄いスピードで移動しているんだけどなあ、その辺の理論的整合性はどうなっているのか、とか突っ込みどころ満載。

 それ以外の部分は、ロイドとテオの人間ドラマが殆どで、ロイドは、同僚のミチコと結婚するつもりでいたけれど、20年後の"ヴィジョン"では別の女性と暮らしていたために、彼女との結婚に消極的になる、一方、テオは、20年後の"ヴィジョン"を見ることがなかった、つまり、20年後には自分は死んでいるということで、その原因を探り、何とか未来を変えられないかと躍起になる―。

 それぞれにとって大事なことだろうけれど、周囲では大事故などの予期せぬ不幸が頻発しているのに、それらはインターネットのニュース記事の見出しのように散発的に作中に記されるだけで(国連が再実験を決議するというのは非現実的ではないか)、あくまでも、ロイド、ミチコ、テオといった研究所のメンバーについての人間ドラマを軸に話は展開していくため、随分"独我論"的な物語のような印象を受けました(こうした内向性は、『ターミナル・エクスペリメント』('95年発表)なども含め、政治的色合いを避ける傾向と、永遠の生命とは何かというのがテーマの1つになっていることと併せ、ソウヤー作品の特徴のようではあるが)。

 但し、その分、人物を深く描いてくれればいいのですが、何となくパターン化した人物造形で(TVドラマ向き?)、長さの割には深まらず、だったらこんなに長くなくてもいいのではないかと(すらすら読めることは読めるのだが)。

 ネタバレになりますが、結局のところ、「諦念」によって"ヴィジョン"通りになってしまったロイドと、「努力」によって"ヴィジョン"を変えたテオ―ということで、この話って、最後は、そういう"人生訓"が落とし所だったのかと。

 2030年の未来予測はともかく、1999年発表された2009年を舞台とした作品ということで、既に2009年の予測からして外れている部分が所々あるのをチェックするというのは、ちょっと意地悪な楽しみ方でしょうか。

フラッシュフォワード top.jpgフラッシュフォワード tv.jpg TVドラマ<フラッシュフォワード>の方は、全人類が2分17秒間意識を失い「6カ月後」を垣間見るという設定で、この「20年後」と「6カ月後」の違いだけで、全く異なる話になってしまうし、また、登場人物の設定なども随分違っているので、原作を元に「作り変えた」別のお話と考えた方がいいのでしょう(本国では低視聴率のため、放送打ち切りになってしまったが、続編を望む声も一部にあるという)。

「フラッシュフォワード」FlashForward (ABC 2009/09~2010) ○日本での放映チャネル:AXN(2010.07~08)

 【2001年文庫化・2010年新装版[ハヤカワ文庫SF]】

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