【1390】 ◎ ギャビン・ライアル (菊池 光:訳) 『深夜プラス1 (1967/02 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆

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アクション・ハードボイルドの傑作。男心に響く主人公の行動美学。

深夜プラス1 ハヤカワミステリ.jpg  深夜プラス1ミステリ文庫1.jpg 深夜プラス1ミステリ文庫2.jpg 深夜プラス1ミステリ文庫3.jpg Gavin Lyall.jpg
深夜プラス1 (1967年) 』『深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))』 Gavin Lyall(1932-2003)

Gavin_Lyall_-_Midnight_Plus_One.jpgMidnight+One 73.jpgMidnight Plus One (Pan 1983).jpg 元英国情報部員のルイス・ケインは、マガンハルトという実業家を、ブルターニュからリヒテンシュタインまで定刻に間に合うよう送り届ける仕事を請け負うが、この男は、彼の到着を快く思わない者から狙われ、フランス警察からも追われていた。ケインは護衛役のハーヴェイ・ロヴェルというガンマンを引き連れ、シトロエンDSを駆って出発する―。

"Midnight Plus One" (Firirst edition(UK)1965/Pan 1973/1983)

ヤカワミステリ文庫創刊 深夜プラス1.png 1965年に英国の作家ギャビン・ライアル(Gavin Lyall、1932-2003/享年70)が発表した冒険アクション小説(原題"Midnight Plus One")で、CWA(英国推理作家協会)最優秀英国作品賞(CWA. Best. British. Novel. 1965)受賞作。作者の最高傑作とも言われており、ハヤカワ・ミステリ文庫の創刊ラインアップの一冊で、「ハヤカワ文庫海外ミステリ・ベスト100」の5位にランクインしたりもしていますが、再読してみて以前読んだよりも面白く感じられ、確かに傑作だなあと。

Midnight_Plus_One_(Coronet_1993).jpg 物語はケインの一人称で語られており、ロヴェルは欧州で3本の指に入る名うてのガンマンであるものの実はアル中で(何だかドグ・ホリディみたい)いざという時に心許なく、一方、敵方は欧州で№1と№2のガンマンを雇っているという、最初から形勢不利な状況設定がハラハラさせられますが、レジスタンスの闘士でもあったケインの落ち着きある判断で、立ちはだかる数々の難局を何とか潜り抜けていきます。

(Coronet 1993)

 国外脱出行というシンプルで骨太のプロットを軸とした緊迫した展開でありながらも、中継点としてケインのレジスタンス活動時代の恋人の下を訪ねたり、マンガハルトの美人秘書がいつの間にかロヴェルに惚れたりといった男女間の機微も適度に織り込まれ、更には、この護送劇そのものの背後に、予想もつかなかったような黒幕がいるというドンデン返しもあり、いろいろ楽しめます。

Midnight_Plus_One_(Orion).jpg こうした護送劇は、ハードボイルド・アクションなどで結構ありますが、護送の対象となるのは大体、独裁政権を倒そうする政治家であったり、裁判で重要な証言が期待されている参考人であったりすることが多く、但し、このマンガハルトについては、自分の会社の株主としての利益を守ることがリヒテンシュタイン行きの目的であり、それに対しケインは、この仕事の請け負う上での道義性を常に検証していて、ああ、何となくレジスタンスっぽいなあと。

(Orion 2007)

 戦争時代にスパイの元締めをやっていて、今は産業スパイの黒幕になっているフェイ将軍とかいう怪しげな人物(やや滑稽でもあるが、実はくせ者)も登場したりし、ガンマン達の戦いの場も塹壕網だったりして、登場人物の過去も含めて、欧州大戦の面影が色濃く感じられる話でもあります。

 ケイン、リヴェル、フェイ将軍らのそれぞれの銃に対するこだわりの違いなども面白く、車に対する作者のこだわりも強く感じられます(前半はシトロエンDSが激走、後半は、7千㏄の1930年式ロールスロイス・ファントムⅡが装甲車並みの活躍をする)。

 ケインは諜報員時代にカントンと呼ばれていて、作中では(一人称であるため)それほど詳しく語られていませんが、レジスタンス時代の英雄であったらしく、ケインが何か重大な判断を求められる局面で、常にカントンとして相応しい行為であるかどうかを基準にしているというその行動美学も、大いに男心をくすぐる点ではないでしょうか。

 【1967年新書化[ハヤカワ・ミステリ]/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]/2002年単行本[講談社ルビー・ブックス]】

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