【1386】 ○ ジェフリー・ディーヴァー (池田真紀子:訳) 『ソウル・コレクター (2009/10 文藝春秋) ★★★★

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シリーズ第8作。情報社会の恐怖。ライムの正統派的なアプローチは堪能できた。

『ソウル・コレクター』.jpgソウル・コレクター.jpg The Broken Window.jpg  Jeffery Deaver.jpg Jeffery Deaver
ソウル・コレクター』['09年] The Broken Window (2008) (The eighth book in the Lincoln Rhyme series)

 四肢麻痺の"天才的犯罪学者"リンカーン・ライムの下に、従兄弟のアランが殺人事件の容疑者として逮捕されたという連絡が入るが、完璧過ぎる証拠や匿名の目撃通報に疑問を抱いたライムが、最近起きた類似事件を調べると、同様に完璧な状況証拠と匿名の通報により容疑者が捕まった事件が2件見つかり、どうやら何者かが個人の情報を調べ上げて、自分の身代わりに犯人に仕立て上げているらしいことがわかる―。

 2008年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第8作で(原題は"The Broken Window")、連続殺人事件の背景に、個人の情報を集め、管理し、それを顧客に販売する神のような個人情報企業(データマイニング会社)の存在が浮かんできます。

 こうした情報社会の恐怖を描くのが得意な作家として、「ミレニアム」シリーズのスティーグ・ラーソンなど専門職的な作家が何人かいますが、さすがジェフリー・ディーヴァー、初めて取り上げるテーマでありながら、かなり突っ込んで高度情報社会の裏側を描いているように思えました(IT企業なのに社員のログを残していないなど、疑問点もいくつかあるが)。

 日本でも、元SEの福田和代氏による『オーディンの鴉』('10年/朝日新聞出版)というのがあって、これはこれで面白かったのですが、『オーディン』では、全ての情報を操る「神のような存在」の組織の謎については明かさず「謎の組織」のまま話が終わっており、その点では、ジェフリー・ディーヴァーのこの作品の方が、「神」になり得る存在を具体的に描いています(「グーグル」なんか、大いにその可能性あるなあ)。

 "車椅子探偵"リンカーン・ライムが少しずつ犯人を追い詰めていく様は、今回は意外とストレートで、奇を衒ったどんでん返しも無く、但し、犯人そのものは意外と小粒だったというか、まあ最初から、データマイニング会社の関係者に制約されざるを得ないわけですが...(強いて言えば、最初のリストとは少し違っていたというのが意外性か)。

 ネットやクレジットで買い物をしたり、チップ埋め込みのポイントカードを使ったりすることで、自らの行動を企業に把握され、管理されてしまうというのは怖いけれど、結局、その便利さを捨てないのは、犯人のような悪意を実行に移せる立場の人が、極めて限定されているという了解下でのことなのだろうなあ(しかも、この犯人、相当ご苦労さんというか、泥臭いことをやっているともとれる)。

 今回は、プロセスにおいては、ライムの正統派的なアプローチを最後まで充分堪能でき、また解説において、作者自身が、ライムがやっているように部屋全面にホワイトボードを置いてストーリー構築しているということを知って、たいへん興味深く思いました。

 【2012年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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