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"ブザー"にしないで「ノックの音が」としたことで、古びずに済んでいる。
星 新一
『ノックの音が (1965年)』['65年/毎日新聞社(装幀・挿絵:村上 豊)]/『ノックの音が (講談社文庫)』['72年(カバー:村上 豊)]/『ノックの音が (新潮文庫)』['85年/新潮文庫(カバー:真鍋 博)]
星新一(1926‐1997)の「ノックの音が」で始まる15のショートショート集で、'65(昭和40)年に毎日新聞社から単行本が刊行され、'71年に講談社・ロマン・ブックス、'72年の講談社文庫版、'85年には新潮文庫版が刊行されています。
以前読んだ星新一作品としては、『ようこそ地球さん』('61年・新潮社/'72年・新潮文庫)、『おせっかいな神々』('65年・新潮社/'79年・新潮文庫)、『エヌ氏の遊園地』('66年・三一新書/'71年・講談社文庫/'85年・新潮文庫)、『ボッコちゃん』('71年・新潮文庫)などがありますが、新潮文庫だけでなく講談社文庫や角川文庫(『きまぐれロボット』など)にも初期作品集が収められていました。
上段:『ようこそ地球さん―ショート・ショート28選 (1961年)』『おせっかいな神々 (1965年)』『エヌ氏の遊園地』['71年/講談社文庫]/『ボッコちゃん』['71年/新潮文庫(旧カバー版)](イラスト:真鍋 博/ヒサクニヒコ) 下段:『ようこそ地球さん (新潮文庫)』『おせっかいな神々 (新潮文庫)』『エヌ氏の遊園地 (新潮文庫)』(何れも新カバー版(イラスト:真鍋 博))
風俗描写を"禁忌的"と言っていいまでに排し、「時代に影響されない」寓話的な世界を展開した作風が知られていますが、このショートショート集などはまさに今読んでも"現代"の物語として通用するものであり、そのことを実証しているように思います。
『きまぐれロボット (角川文庫 緑 303-3)』(旧カバー版(イラスト:和田 誠)
更に、登場人物がやはり作者ならではの乾いた感じのキャラクターばかりで、自らが課した「ノックの音が」で始まるというルールに沿って、いきなり部屋に美女が現われたりするなど、大人のイマジネーションを掻き立てるようなシチュエーションもありながら、いやらしさやウエット感が全然ないのも、星新一作品の特徴をよく示しています。
『ボッコちゃん (新潮文庫)』(イラスト:真鍋 博)
「時代に影響されない」ということについては、新潮文庫の後書き('85年新潮文庫版)で作者自身が、「現在ならブザーの方が適切な場合もあるのではないだろうか」としつつも(ノックだとあまりにクラシックな感じがするということか?)、「ノックだと、良くも悪しくも、人間的な何かがある」「ブザーだと、電線的なるものが中間にあって、人間性が薄れてしまう」と書いていますが、'85年当時は玄関などで呼び出すとすればブザーが主流だったのでしょうか。今ならばむしろブザーではなく「チャイムの音が」ということになるのでしょう。
ブザーにしないで「ノックの音が」とすることで、却って「作品は風俗の部分から、まず古びていくのである」との轍を踏まずに済んでいるように思いました。
講談社ロマンブックス『ノックの音が』['71年2月/装幀:和田 誠]
●星新一のおすすめ名作ショートショート15選(個人サイト)
1.『ノックの音が』
2.『悪魔のいる天国』
3.『午後の恐竜』
4.『ようこそ地球さん』
5.『妄想銀行』
6.『おせっかいな神々』
7.『妖精配給会社』
8.『マイ国家』
9.『白い服の男』
10.『かぼちゃの馬車』
11.『おのぞみの結末』
12.『ごたごた気流』
13.『ちぐはぐな部品』
14.『エヌ氏の遊園地』
15.『ボッコちゃん』
(あくまで15選であり、15選内のランキングではない)
【1965年単行本(新書版)[毎日新聞社]/1971年ノベルズ版[講談社ロマンブックス]/1972年文庫化[講談社文庫]/1985年文庫化[新潮文庫]】