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今読むと、文体よりも中身か。掴み難い現実としてある「今」という時も、後で振り返れば...。
『キッチン』['88年]『キッチン (角川文庫)』['98年]「キッチン [DVD]」映画「キッチン」主演:川原亜矢子
『キッチン (角川文庫)』['98年]『キッチン (福武文庫)』['91年]
1987(昭和62)年・第6回「海燕新人文学賞」(福武書店主催)並びに1989(平成元)年「芸術選奨新人賞」受賞作(後者は『うたかた/サンクチュアリ』と併せての受賞)。
両親と死に別れ祖母と暮らしていた桜井みかげは、その祖母に死なれて独りぼっちになるが、花屋の店員で祖母のお気に入りだった田辺雄一に声をかけられ、田辺家に居候を始める。雄一も片親で、その親は、もともと男だったが、彼の妻・雄一の母親の死後、女性になってしまい、以来、オカマバーに勤めて生計を立てている「えり子」さんという人だった―。
「キッチン」とその続編「満月-キッチン2」、「泉鏡花文学賞」を受賞した「ムーンライト・シャドウ」の3部作で、何れも作者が日大芸術学部在学中に書かれ、単行本は当時、飛ぶように売れました。
今読むと、当時話題となった文体の新しさのようなものはさほど感じられませんが、それだけ平成以降、このような文体の作品が増えたということでしょうか(多くの女性作家の文学少女時代に影響を与えた?)。
「キッチン」の、男女がキスもセックスもなく、いきなり同居という設定も斬新でしたが(但し、コッミックなどでは伝統的にあったパターン)、3部作の何れもが愛する人の死と残された者の再生がテーマになっていて、その癒しの過程のようなものをうまく書いているなあと。
海外でも多く読まれている作品ですが、自分はこの手の小説にあまり相応しい読者ではないのかも知れません。
「満月」を読んで「キッチン」の主題を自分なりに理解したのですが、そうした意味では、"解説"的な「満月」よりも、「キッチン」の方が小説的かも。
但し、えり子さんの死から始まる「満月」も必ずしも悪くは無く、掴み難い現実としてある「今」という時が、後で振り返ってみれば、「人生においてかけがいの無い満たされた時間」であったと思うようになることは、小説の話に限らず、実際に誰の人生においてもあるではないかと思います。
森田芳光監督により映画化されましたが、橋爪功が演じたえり子さんは、ちょっと気持ち悪かったものの、演技自体はインパクトありました。
それに比べると、主演の川原亜矢子は、ブルーリボン賞の新人賞などを獲りましたが、個人的には、演技しているのかどうかよく分からないような印象を受けました。
パリコレのモデルに転身したとのことで、やはり役者には向かないのだろうと思いましたが、その後日本に戻り、30代になってから、女優としてもモデルとしても活躍している―映画「キッチン」に出ていた頃の、牛蒡(ごぼう)が服着て歩いていうような面影は今や微塵も無く、いい意味での変身を遂げたなあ、この人。
「キッチン」●制作年:1983年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:仙元誠三●音楽:野力奏一●時間:108分●出演:川原亜矢子/松田ケイジ/橋爪功/吉住小昇/後藤直樹/中島陽典/松浦佐紀/浦江アキコ/入船亭扇橋/四谷シモン/浜美枝●公開:1989/10●配給:松竹(評価:★★★)
【1991年文庫化[福武文庫]/1998年再文庫化[角川文庫]/2002年再文庫化[新潮文庫]】