【1362】 △ 貫井 徳郎 『乱反射 (2009/02 朝日新聞出版) ★★☆

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「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話? 前半部分は冗長、後半部分はご都合主義。

乱反射.jpg 『乱反射』 ['09年]

 2010(平成22)年度・第63回「日本推理作家協会賞」受賞作。

 新聞記者・加山聡の2歳になる一人息子は、根腐れしていたため強風で倒れた街路樹の下敷きになって頭に重傷を負い、救急車で病院をたらい回しにされて亡くなってしまうが、この事故死の背景には、複雑に絡み合ったエゴイズムの積み重ねがあり、事故後、加山は、それらの「罪無き罪」の連鎖を辿る―。

 街路樹伐採の反対運動をする"良識派"の主婦、犬の散歩の際にフンの処理をしない尊大な定年退職者、職務への責任感が希薄なアルバイト医、病院の救急外来を空いているという理由だけで頻繁に利用する若者、事なかれ主義の市役所職員、車の運転が苦手な姉と大型車を親にねだる妹―と、事故の遠因となる人物達の日常が描かれますが、約500ページのうち、そうした事故までの経緯の描写だけで300ページあって、かなり冗長な感じがしました(「週刊朝日」に1年間連載されたものだが、連載では読む気にならないなあ)。

 フツーの人々の平凡な日常に潜むエゴイズムというものを描いているのでしょうが、最初から「エゴ」に焦点を当ててしまっているため、それぞれの人物造型が平板と言うか画一的で、文章もあまり上手くないような...。
 ミステリとしても、要するに「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話であり、あまりに蓋然性に依拠し過ぎていて、それでいて、主人公が因果関係を探る際に、ちゃんとその手助けとなる証言者が次々と現れるのは、あまりに御都合主義めいています。

 帯には「全く新しい社会派エンターテインメント」とありますが、着想自体は悪くないと思うし、主人公の新聞記者自身が、自宅ゴミを高速道路のサービスエリアに持ち込むなど、登場人物の多くと同じようなモラル違反をしているという構図も分かりますが、結局、何が描きたかったのかも曖昧のまま終わっている感じがしました(要するに「道徳訓」だったの?)。

 そうした意味では、「社会派」と言われても、個人的はぴんと来ず、それと、やはり、「エンターテインメント」の部分が、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話に依っているわけで、しかも、冗長だったり、御都合主義だったりと。

 北村薫氏が「日本推理作家協会賞」の選考の際に強く推薦していますが、その前に自作の『鷺と雪』が直木賞選考でこの作品と競合して、『鷺と雪』の方が直木賞を獲っているんだよなあ(落選者へのエール?)。 

【2011年文庫化[朝日文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年8月 7日 23:26.

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