【1361】 △ 貫井 徳郎 『ミハスの落日 (2007/02 新潮社) ★★★

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地理的バラエティだけでそこそこ楽しめるが、トリックは物足りない。

ミハスの落日.jpg 『ミハスの落日』['07年]ミハスの落日 文庫.jpg 『ミハスの落日 (新潮文庫)』['10年]

 青年ジュアンは、面識の無いアンダルシアの大富豪にある日突然呼び出され、亡くなった母とこの老富豪が絡んでいた過去の未解決の密室殺人事件の真相を聞かされる―。
Mijas is a town in the province of Málaga.
ミハス.jpg 表題作「ミハスの落日」('98年発表)ほか、世界5都市を舞台にしたミステリ短編集で、地理的バラエティだけでそこそこ楽しめますが、それぞれが短編である分、ミステリとしては仕掛けが軽いというか、いかにも作り物という感じが拭えませんでいた(「ミハスの落日」については、作者自身も後書きで、このトリックは「まともに書いていたら噴飯もの」と認めている)。

 それを補う部分が"旅情ミステリ"的要素だということなのでしょうが、例えば表題作は、ミハス自体が観光都市であり、どちらかと言えばメルヘンチックな町で(伝統的なホテルや教会もあるが、観光向けにリニューアルされている)、個人的にも好きな所ですが、この小説のような雰囲気はあまり無いんだよなあ(これも作者自身が後書きで、実際には「日本人観光客もよく行くくらいなので、寂れた田舎町ではない」と書いている)。

 岡惚れした女性客につきまとうビデオショップの店員が主人公の話「ストックホルムの埋み火」('04年)も、必ずしもストックホルムが舞台である必然性は感じられないし...。過去3度の結婚相手が次々と事故死して多額の保険金を受け取った女性の話「サンフランシスコの深い闇」('04年)が、多少翻訳モノっぽい雰囲気が出ていてラストもちょっと意外性があったけれども、これも、別にサンフランシスコでなくとも...。
 
 娼婦連続殺人事件の犯人を追う「ジャカルタの黎明」('06年)や、アメリカ人女性旅行客のガイドとして雇われたエジプト人の男が辿る末路を描いた「カイロの残照」('06年)もそうですが、全体的には、犯人の動機や犯行のトリックに無理があり過ぎるように思えました。

 それぞれの都市を現地取材したとのことで、すべて「現地人」を主人公にして書いているという点では意欲的と言うかユニークだと思いましたが、肝心の彼らの視線が何となく日本人観光旅行者的なのが気になり(最後の「カイロの残照」などは、まさに旅行ガイドが主人公)、後書きに作者の観光旅行記みたいなコメントがあると尚更そう感じてしまいます。

 但し、「小説新潮」の"密室特集"とか"警察小説特集"といった要請に沿いながら、そこに自ら"世界の各都市を舞台にした作品"という制約を加えて、南欧・北欧・アメリカ・アジア・アフリカとあちこち飛びながらあまあの連作を構成しているというのは、やはり評価すべき才能なのでしょうか。

 【2010年文庫化[新潮文庫]/2016年再文庫化[創元推理文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年8月 7日 23:13.

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