【1337】 △ 東野 圭吾 『聖女の救済 (2008/10 文藝春秋) ★★★

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危なっかしさのあるトリックと、そのための無理を孕んだプロット。

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聖女の救済』(2008/10 文藝春秋) ドラマ「ガリレオⅡ(第11・12話)/聖女の救済」(2013/06)福山雅治・吉高由里子・天海祐希

ガリレオ1-6.jpg 会社社長の真柴義孝が自宅で倒れているところをその愛人・若山宏美に発見され、自分で淹れたコーヒーに毒が含まれていたことが死因と分かり、離婚を切り出されていた妻の綾音が容疑者として浮上するが、真柴が自宅で死んだ時、綾音は北海道の実家にいたという鉄壁のアリバイが在り、草薙刑事と部下の女性刑事・内海薫は、意見を違えつつもそれぞれに捜査を進める―。

  「探偵ガリレオシリーズ」の第5弾、『容疑者χの献身』('05年/文藝春秋)に続くシリーズ2作目の長編作品で、ここに来ていよいよ"本格推理"っぽくなってきたかなと途中まで期待を持たせましたが、謎解きに臨む"ガリレオ"こと湯川自身が「虚数解」と言っているように、トリックとしてはかなり現実離れしていると言うか、あり得ないもののように思えました(蓋然性への依存度が高くて危なっかしいとでも言うか)。

 それでは心理的な踏み込み度はどうかと言うと、「結婚から1年経って子供を授からなければ離婚する」という夫からの約束を逆手に取った綾音の情念には確かに滲み出るような凄まじさがあり、またこれが1年間の"救済"期間ということでタイトルともリンクしているわけですが、どうして"救済"期間を置かなければならないのか自分にはよく分かりませんでした。

 綾音に惹かれるところがあって事件の推理にバイアスがかかる草壁と、女性の立場から女性心理を冷静に読み解く内海薫の対比という点では面白く描かれているようには思いましたが、作品全体としては、トリックのための無理を孕んだプロットという印象が拭い切れませんでした。

SPring-8 (「高輝度光科学研究センター」のサイトより)
SPring-8.png 相変わらず読み易く、ずんずん入り込めて最後まですらすら読めてはしまうのですが、周辺ネタについて言えば、兵庫・播磨科学公園都市内にある「SPring-8」を用いての毒物分析も、和歌山毒物カレー事件('98年)で砒素の同定に使用されたのは記憶に新しいところであり、時代の流れには沿っていますが、時代の先を行くものではありません。理系出身ならば、新聞ネタを超えるような何かが欲しいところ。

 実力ある作家の話題作ということで並み以上の期待をしてしまう分、「こんな程度の作家ではないはず」「ちょっと最近書き過ぎているのではないか」(この作品も短編小説集『ガリレオの苦悩』と同時出版)と、見方がややシビアになってしまうのは仕方がないかもしれません(因みに、ガリレオシリーズ第3弾、シリーズ1作目の長編『容疑者Xの献身』とガリレオシリーズ第6弾、シリーズ3作目の長編『真夏の方程式』は共に映画化されたが、このシリーズ2作目の長編作品『聖女の救済』はテレビの「ガリレオ」シリーズの中(第2シーズン)で前後篇に分けてドラマ化されたものの、映画化はされなかった)

【2012年文庫化[文春文庫]】

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