【1331】 △ 高杉 良 『反乱する管理職 (2009/01 講談社) ★★★

「●た 高杉 良」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1902】 高杉 良 『人事の嵐―経済小説傑作集』

民事再生を申請した生保会社に弁護士が管財人として乗り込んでくる話。人物造型がパターン化している。

高杉 良 『反乱する管理職』.jpg反乱する管理職.jpg 『反乱する管理職 (100周年書き下ろし)』['09年/講談社]

渋谷クロスタワー(旧東邦生命ビル).jpg 経営破綻の危機に晒された東都生命は、メインバンクの援助打ち切りと風評による資金流出が重なって、ついに外資に売却されることが決まり、外資幹部、弁護士チームが次々と乗り込んでくるが、職員代表として管財人室長を命じられた友部陽平は、この身売り劇の陰で、許されざる謀略が進んでいることを知る―。

 1999年に経営破綻した東邦生命がモデルで、その保険業務はGEエジソン生命(現在のAIGエジソン生命)に引き継がれましたが、小説では「AIC」という外資に直接売却されたことになっていて、そう言えば渋谷クロスタワーが東邦生命ビルという名称だった頃、ビルの上の方にある東天紅で食事したことを思い出したりしましたが、あの頃にはもう経営が悪化していたのかなあ(ここの東天紅もいつの間にか閉店してしまったが)。

 「講談社創業100周年記念出版」、作者としては「『金融腐蝕列島』」以来12年ぶりの書き下ろし!」、ということで、期待もそれなりにあったのですが、やや肩透かしを喰った感じも。
 外資に売却される全体経緯よりも、スポーツクラブの売却を巡る問題に焦点が当たっていて解り易いことは解り易いけれど、主人公をはじめとする登場人物の行動や性格、会話等もパターン化されたもので、今一つでした(あまり本筋に関係ない情事の場面が多いのは、読者サービス?)。

会社蘇生.jpg 民事再生を申請した企業に弁護士が管財人として乗り込んでくる話は、大沢商会をモデルにした作者の『会社蘇生』('87年/講談社)と似ていますが、あの本を読んだ時は、最近は大企業の経営が立ち行かなくなった場合でも「会社更生」の適用申請が主流だけども、「民事再生」方式で旧経営陣には辞めてもらった方がスッキリするケースもあるのではないかと思いましたが、大沢商会の管財人となった弁護士は、企業ブランドの存続に尽力した、例外的とも言えるほど立派な弁護士だったわけか...。

 本書の弁護士チーム(管財人側)にはそんな篤志は無く、管財人室長(東都側)である主人公は、不透明な資産売却や外資に追従するような強引なリストラに反発するわけですが、ちょっと「管理職の反乱」というタイトルが与える一般的イメージとは、情況が違うのではないかと。
 主人公が。会社に留学させてもらってMBAを取得したエリートであり、再就職に困らない人であるというのも、感情移入しにくい理由かも。

 エピローグの設定が'08年9月で、巨大投資銀行「ローマン・スターズ」(リーマン・ブラザーズ)が経営破綻し、「AIC」(AIG)は国有化されるというのは、時事ネタとしてはタイムリーでしたが、主人公がかつての部下と「座・和民」で飲んで、「"青年社長"って小説だな。読んでないけど」とか言いつつ、「大泉-竹井路線」(小泉-竹中路線)がこの国に与えたダメージを論じ、新聞メディア(日本経済新聞)を批判して、最後、「この店、気に入ったよ」などと言っているのは、楽屋ネタ漫才の台本を読んでいるみたいで笑ってしまいました。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2010年2月27日 09:11.

【1330】 △ 北村 薫 『鷺と雪』 (2009/04 文藝春秋) ★★★ was the previous entry in this blog.

【1332】 △ 西 加奈子 『うつくしい人』 (2009/02 幻冬舎) ★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1