【1330】 △ 北村 薫 『鷺と雪 (2009/04 文藝春秋) ★★★

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読後感は悪くないが、時代考証が前面に出すぎ?

鷺と雪1.jpg鷺と雪2.jpg 『鷺と雪』  (2009/04 文藝春秋)

 2009(平成21)年上半期・第141回「直木賞」受賞作。

 女子学習院に通う士族令嬢・花村英子とお抱え女性運転手・別宮みつ子〈ベッキーさん〉が活躍するシリーズの、『街の灯』『玻璃の天』 に続く第3弾・完結篇で、帝都に不穏な足音が忍び寄る昭和初期の時代、良家の令嬢の目に時代はどう映るのかを、ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガーなどといった日常と非日常の狭間にある事象を通して、ミステリー風に描いた連作(「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」を収録)。

 昭和初期の上流家庭の生活を叙情的な筆致で丁寧に描くとともに、そこに"日常生活の謎"を織り込み、ライト感覚の推理小説仕立てにしていて、ちょっと小奇麗に作りすぎている感じもしますが、「不在の父」「獅子と地下鉄」と、読後感は悪くありませんでした(「鷺と雪」は、「推理」の部分よりもシリーズの「完結篇」としての位置づけの方が大きいように思える)。

 また、当時の時事・風俗・流行に関することが数多く文中に描かれていて、文学的な話題もふんだんに盛り込まれているのが楽しめましたが、ここまで頻繁にそうした話が出てくると、作者が一生懸命、史料や当時の新聞を手繰っているのが眼に浮かんでしまうような気も。

 そのことが却って、主人公そのものを、昭和初期に生きた女性ではなく、こっちの世界にいる女性であるように思わせ、そう思った途端に、今一つ入り込めず、加えて巻末に参考図書をずらり並べて、どの部分が史実でどの部分が虚構かまで補足して書いているのは、ややサービス過剰のような気もしました(日本史とか文学の勉強にはなり、楽しめもしたが、その分、作為が表面化した?)。

 これは、直木賞選考委員に対する「ここまで時代考証した」というアピールでもあるのか。それに対する功労賞的受賞とまでは言いいませんが(今までに一定数の固定ファンいるというのは実績と看做されるのだろう)、この作品が6回目の候補作でした。
 選考委員の宮部みゆき氏は「別宮は〈未来の英子〉なのです」と言っている。ふ〜ん、そういう読み方もあるのかあ。

週刊 昭和タイムズ 053号 『昭和10年』(1935年).jpg ブッポウソウの鳴き声と思われたものが実はコノハズクだったということが判明した話などは、知っている人は知っている、それなりに有名な話なのですが(「昭和タイムズ(53号・昭和10年)」という最近の雑誌にも出ていて、作中のラジオ中継番組が出ている東京朝日新聞の番組表が掲載されている)、2.26事件の数ヶ月前のことで、その組み合わせの妙から素材として取り上げたのかなあ。

月刊 昭和タイムズ 053号 『昭和10年』(1935年)

 【2011年文庫化[文春文庫]】
 

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