【1317】 ○ 内藤 朝雄 『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか』 (2009/03 講談社現代新書) ★★★★

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「群生秩序」という視点から、社会学的に「いじめの構造」を鋭く分析。

いじめの構造.gifいじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)』 ['09年]内藤 朝雄.png 内藤朝雄 氏

 いじめが何故起こるのかということを社会学的に分析した本で、著者には『いじめの社会理論』('07年/柏書房)という本書で展開されている分析のベースとなっている本がありますが、個人的はその本は読了していないものの、本書を読めば、大体、著者の考え方は解るのでは。

 自分が以前に読んだ本田由紀・後藤和智両氏との共著『「ニート」って言うな!』('06年/光文社新書)の中で著者は、「最近の若者は働く意欲を欠いている」「コミュニケーション能力に問題があり他者との関わりを苦手とする」「凶悪犯罪に走りやすい」といった根拠の希薄な「青少年ネガティブ・キャンペーン」と相俟って「ニート」が大衆の憎悪と不安の標的とされていることを指摘していて、なかなか明快な分析であると思ったのですが、本書においても、既存の「いじめ問題」に対する教育学者や評論家の論調の非論理・不整合を指摘しつつ、この問題に対し、より社会学者らしい突っ込んだ分析を展開しています。

 著者によれば、いじめの場においては、市民社会の秩序の観点から見れば秩序が解体していることになるが、(著者の命名による)「群生秩序」というもの、つまり群れの勢い(ノリ)による秩序という観点から見れば、むしろ「秩序の過重」が見られるとのこと。また、寄生虫が宿主の行動様式を狂わせることを喩えに、学校という小社会の中では、社会が寄生虫化することが起こりうるとも。

 つまり、学校の集団生活によって「生徒にされた人たち」の間では、付和雷同的に出来上がったコミュニケーションの連鎖の形態が、場の情報(「友だち」の群れの情報)となって、それが個の中に入ると、個の内的モード(行動様式)をいじめモードに切り替えてしまい、内的モードの切り替わった人々のコミュニケーションの連鎖が更に次の時点の生徒達の内的モードを切り替えるということが繰り返され、心理と社会が誘導し合うグループが生じるのだといいます。

 「生徒にされた人たち」は、存在していること自体が落ちつかないという不全感(むかつき)を抱いていて、それが群れを介して誤作動することで全能感に切り替わり、全能感を味わうための暴力の筋書きに沿ってなされるのがいじめ行為であり、逆にいじめの対象が逆らったりしてこの全能感が否定されると、更なる暴発が発生することになると。

 全能感の類型などを細かく定義しており、個人的には必ずしも全て100%納得できた説明ではなかったのですが、実際に起きた様々な(どうしたこうしたことが起きてしまうのだろうという陰惨な)いじめ事件をケーススタディとして、それらに対して一定の解を与える手法で分析を進めているため、それなりの説得力を感じました。

 とりわけ、「投影同一化」という心理的作用によって、いじめがいじめる側の過去の体験の「癒し」となっているという分析は腑に落ち(この論理で児童虐待における「虐待の連鎖」のメカニズムも説明できるのではないか)、また、いじめられる側のいじめる側に呼応してしまうメカニズムについても解説されています(往々にして、加害者だけでなく、被害者や教師も、ある種のメンバーシップに取り込まれていることになる)。

 抽象的な社会・心理学的理論だけ展開して終わるのではなく、打開策も示されていて、短期的政策としては、「学校の法化」(学校内治外法権を廃し、学校内の事も市民社会同様に法に委ねること)と「学級制度の廃止」(とりわけコミュニケーション操作系のいじめに対して)を掲げています。

 本書にあるように、教師までもがこうしたメンバーシップに取り込まれているような状況ならば、学校は聖域だというのは却って危険な考え方であるということになり、また、学級という濃密な人間関係の場がいじめの原因になっているのならば、そうしたものを解体するなり結びつきを弱める方向で検討してみるのも、問題解決へ向けての足掛かりになるのではないかと思われました(どこかの学校で実験的にやらないかなあ)。

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This page contains a single entry by wada published on 2010年2月21日 22:58.

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【1318】 ○ 土井 隆義 『友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル』 (2008/03 ちくま新書) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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