【1309】 ◎ 吉田 伸夫 『宇宙に果てはあるか (2007/01 新潮選書) ★★★★☆

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宇宙論諸論の発展過程を丹念に追い、一般読者に解り易く解説した良書。

宇宙に果てはあるか.jpg 『宇宙に果てはあるか (新潮選書)』 ['07年]  吉田伸夫.jpg 吉田 伸夫 氏(略歴下記)

 宇宙論が現代まで発展した過程を、大銀河説と島宇宙説の間の"大論争"び始まり、アインシュタインの宇宙モデル、ハッブルの法則、背景放射の発見から、インフレーション宇宙論やブラックホールのエントロピーに至るまで、12の話題に沿って解説したもの。

 第1の特長として、様々な理論提唱や論争を取り上げる中で、結局は誤りであったもの、後に修正を余儀なくされたものについても、科学者が何故そのように考え、どこが間違っていたのかが分かり易く解説されているほか、後に主流となった学説についても、誰がどのように提唱し、どのように補完され、どのように実証されたかが示されていて、いまだ検証されていない仮説段階のものについては、その仮説性の度合いをきっちり示していることが挙げられます。

 その流れとして、第2に、超弦理論やM理論などに基づく宇宙論は、「いまだに実験や観測によって検証されておらず、理論として練りあげられているわけではない」とし、「シャドーボクシングはやたらと威勢がよいが、一度も実戦に出場していないボクサーのようなもの」を「殿堂入りしたチャンピオンたちと同列に論じるわけにはいかない」として詳しくは取り扱われておらず、結果として、量子宇宙論にはほとんど触れられていませんが、この明快な"切り分け"姿勢は、個人的には気に入りました(ホーキングらの原論文を引きながらも、その「虚数の時間」論などについては、「試みは斬新で尊敬に値するが、この理論を頭から信じている物理学者はほとんどいないだろう」と)。

 第3の特長は、1つ1つのテーマについてかなり丁寧に踏み込んで解説し、初学者のやや上位レベルにある読者の知的関心に応えながらも、相対論的宇宙論や動的宇宙論など、もともとの歴史的経緯において数式論が先行したようなものについても数式に依らず言葉できちんと解説し、専門性の高いものについては意図的に(節度をもって)解説を簡略なものにしている点で、お陰で初学者でも最後まで読み切るのが苦にならないという意味で「入門書」としての要件を保っていて、且つ、スリリングな謎解きのプロセスが楽しめるという点でしょうか。

 終わりの方で、地球外文明の存在可能性について、有名な「ドレイクの式」の各項を検討していますが、そうした場合にも複数の論文を検証し、幅を持たせた見方をしていて、こうした点にも著者の"節度"を感じました。
 
光の場、電子の海.gif 著者は、素粒子論(量子色力学)が専門ですが( 量子論については、同じ新潮選書に『光の場、電子の海-量子場理論への道』('08年)という著作がある)、科学哲学や科学史にも造詣が深く、また、著者のホームページ「科学と技術の諸相」も質的に充実したもので、質問コ-ナーなどもあったりし、自然科学の広い問題を扱うだけでなく、社会学的な問題に言及したコラムもあります。

光の場、電子の海―量子場理論への道 (新潮選書)

 大学で非常勤講師をしながらも教授職には就かず、所謂"学者バカ"の対極にあるような人であるように思われ、自らの専門分野(というより、本書で扱っている分野)については、どのように説明すれば一般読者に解りよいかということが、経験的に分かっている人のように思いました。
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吉田伸夫
1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。東海大学、明海大学で非常勤講師をつとめながら、科学哲学や科学史をはじめ幅ひろい分野で研究を行なっている。著書に『宇宙に果てはあるか』『光の場、電子の海―量子場理論への道』『思考の飛躍―アインシュタインの頭脳』(何れも新潮選書)などがある。

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This page contains a single entry by wada published on 2010年1月22日 00:02.

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