【1304】 ○ 太田 光/奥仲 哲弥 『禁煙バトルロワイヤル (2008/10 集英社新書) ★★★☆

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医学と哲学(原理主義批判?)の互いに交わらない別々の話か。

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禁煙バトルロワイヤル (集英社新書 463I)』 ['09年]

 「ヘビースモーカーのお笑い芸人」vs.「最強の禁煙医師」の激論とのことで、肺がんの外科治療が専門の奥仲哲弥医師が、愛煙家である爆笑問題の太田光の喫煙をやめさせようとして、タバコの健康面への悪影響を説くものの、太田光の方は独自の"タバコ哲学"のようなものを展開して、一向にやめようとする気配がない―。

 奥仲医師は、やや自信喪失になりながらも、健康面の害悪やそれに伴う疾病の恐ろしさを具体的に解説していますが、一方で、太田光の"タバコ哲学"にも付き合ったりしていて、最後は、一日5本位なら癌のリスクは低くなるし、COPD(慢性閉塞性肺疾患)になる前に天寿を全う出来るといった言い方までしています。

 こうした話を喫煙者に対してするのはどうかなというのもありますが(喫煙者に迎合し過ぎととる人もいるだろう)、そこに至るまでのタバコの健康面での悪影響や、健康診断(CTと喀痰検査)の必要性についての話は、それなりに説得力があったように思いました。
 但し、後者(健康診断の話)は、タバコを吸い続けている人へのアドバイスであり、条件付きで喫煙を容認しているわけであって、結果として、本書を読んでタバコの喫煙本数を減らす人はいても、やめる人はいないのではないかと。 

 太田光の"タバコ哲学"に関しては読む人の賛否は割れるのではないかと思われますが、共感できる部分もある反面、論理の飛躍も見られ、そもそも、哲学や精神的な問題と、医学的な問題は同列では論じられない気がしました。 
 世の中の喫煙問題・嫌煙運動に対しては一見ノンポリ風に見えながらも、「俺がなにか言ったりすることで、傷ついているやつはいっぱいいるだろうし、それを全部考えると、タバコでかけてる迷惑なんか、俺の中では(中略)少ないだろうと思うし、大した罪悪感もない」というのは、"喫煙=悪、禁煙=善"という二元論(=一元論=原理主義)に対する彼なりのアンチテーゼなのかも。

 奥仲医師は、「最強の禁煙医師」と言うより、「現実論的な禁煙医師」という感じで、禁煙医師としては"異端"乃至"亜流"ということになるのかも(爆笑問題と同じタレント事務所に"所属"しているということはともかくとして)。
 エキセントリックとも思える嫌煙運動に対して、奥仲医師の方が太田光以上にストレートに嫌悪感を表しているのが興味深かったです。

 振り返ってみれば、禁煙の説得に対して太田光が折れないために奥仲医師が様々な視点から話をするというのは、医者という職業が患者という顧客あってのサービス業であるという性格を有していることを示すと同時に、もともとが医学と哲学の互いに交わらない別々の話であって、本書の企画からすれば最初からのお約束事であったように思え、そうした流れでの奥仲医師による解説の中で、例えば、喫煙者のがんの罹患率は、肺がんが非喫煙者の4.5倍であるのに対し、喉頭がんは32.5倍にもなるといったことなど、個人的には新たに知ったことも少なからずありました。
忌野清志郎.jpg
 '08年刊行の本ですが、文中に名前のある忌野清志郎も、当時はがんから復活したかのように見えたものの、'09年に亡くなっていて、彼も始まりは喉頭がんだった...(吉田拓郎、柴田恭平は大丈夫か)。

《読書MEMO》
●タバコの害で肺がんより怖いのが、呼吸が苦しくなるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)(36p)
●吸う一人と吸わない人では、喉頭がんの罹患率は32.5倍(60p)
●女性の人権が高い国は、喫煙率も男女平等?
 女性の喫煙率...中国4.2%、韓国4.8%(男65.1%)、日本12.4%(男41.3%)、米国14.9%(男19.1%)、フィンランド18.2%(男26.0%)、ニュージーランド22%(男22%)、英国23%(男25%)ノルウェー24%(男24%)、オランダ26%(男35%)、アイルランド26%(男28%)[OECD Health Date 2007](111‐113p)
●タバコ事業の管轄は厚生労働省ではなく、財務省(今でもJTの筆頭株主)(119‐120p)
●1日5本主義-3食の後と風呂、飲酒後(135p)

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This page contains a single entry by wada published on 2010年1月12日 23:14.

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