【1301】 ◎ 三井 誠 『人類進化の700万年―書き換えられる「ヒトの起源」』 (2005/09 講談社現代新書) ★★★★☆

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たいへん分かり易い入門書。興味を惹く図説や記述が多かった。

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人類進化の700万年―書き換えられる「ヒトの起源」 (講談社現代新書)』 埴原和郎『人類の進化史―20世紀の総括 (講談社学術文庫)』 
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 ややアカデミックな埴原和郎著『人類の進化史-20世紀の総括 』('04年/講談社学術文庫)のすぐ次に読んだということもありますが、たいへん分かり易い入門書でした。個人的には、学術文庫の復習を本書でするような形になりましたが、こちらを先に読んで、それから学術文庫の方を読むという読み方でもいいかも。

 '05年の刊行であるるため、タイトルからみてとれるように、'02年に発見された700〜600万年前の人類化石"サヘラントロプス・チャデンシス"の発見は織り込み済みで、それを起点に、「猿人→原人→旧人→新人」という進化の過程に沿って解説しています。

 この「猿人・原人・旧人・新人」という区分は必ずしも絶対的な時系列にはなっておらず(同じ時代に複数の"人類"がいた)、また、ホモ・ハビリスのように「猿人」と「原人」の中間に位置する人類もいたりするため、欧米では現在はあまり使われなくなっているようですが、「猿人・原人・旧人・新人」といった枠を外して個々の"人類"名を全てカタカナで表記するだけだと分かりづらいため、敢えて、旧来の「猿人・原人・旧人・新人」という言葉を用い、例えばホモ・ハビリスはホモ・エレクトスと同じく「原人」としてグループ化するなどして、読者が概念把握し易いように配慮しています。

 「直立二足歩行」は「犬歯の縮小」とともに、人類誕生初期からの特徴であるとのことですが(脳の大型化や言語の使用などはずっと後のこと)、なぜ人類が直立二足歩行を始めたのかは大きな謎であるとのことです。この問題についての諸説が紹介されていますが、オスがメスに対し、より多くの食糧を運び易いようにするためそうなったという説が有力であるというのが興味深いです。

 但し、進化には目的があるのではなく突然変異から起きる、という法則に沿ってこれを正確に言うならば、「オスは、メスに食糧を運ぶために二足歩行に適した体に進化し、繁殖機会を増やした」のではなく、「二足歩行が出来るように進化した人類のオスは、メスに食糧を運ぶことで繁殖機会を増やした」となると。

アフリカ単一起源説による人類進化.jpg 「新人」に関しては、ネアンデアルタール人(ホモ・ネアンデアルターレンシス)とクロマニヨン人(ホモ・サピエンス)の関係などを図説でもって分かり易く解説していますが、形態的な進化の過程を探るだけでなく、"おしゃれ"の始まりなどの「心の進化」の過程や、農耕、家畜の飼育、飲酒などの習慣がいつ頃から始まったのかを解説し、また我々にとって興味深い「日本人の起源」についても考察していますが、こと後者については、遺伝子情報から解析すると相当複雑で、単に「南から来た」とか「北から来た」といった二者択一的な解答を出すのは難しいようです(このテーマについては、篠田謙一『日本人になった祖先たち-DNAから解明するその多元的構造』('07年/NHKブックス)により詳しく解説されている)。

 化石の年代測定法(放射性同位元素による方法など)や、遺伝子情報学についても、概説とは言え、相当のページを割いているのも本書の特徴であり、また、魚類から両生類や爬虫類、鳥類にかけての進化の過程では色覚を持っていたのに、哺乳類はなぜ色盲になってしまい、またそれが人類になって復活したのはなぜかといった考察も興味深いものでした。

《読書MEMO》
●なぜアフリカだったのか(アフリカの類人猿(チンパンジー等)は人類に進化したのに、アジアの類人猿(オランウータン等)はなぜ進化しなかったのか)
⇒アフリカでは急激な乾燥化が起こり、木から下りる必要が生じたが、アジアの熱帯林は豊かで樹上生活を続けることができたため(60‐61p)
●人類がアフリカを出たのは180万年前(2002年にグルジアで化石が発見された。脳の大きさは600ccで初期原人に及ばない)。人類は誕生してから500万年間、アフリカで生きていた(92‐94p)
●東アジア(北京周辺)到達は166万年前(97‐98p)
●4万〜3万年前のヨーロッパには、ネアンデルタール人と現生人類(クロマニョン人)が共存していたらしい。但し、混血は無かった(126‐128p)
●恐竜全盛時代、多くの哺乳類は夜行性 ⇒ 色覚が退化(221‐222p)
●ミルクを飲むのは哺乳類の子どもだけ ⇒ 人類は遺伝子の突然変異で大人でもラクトース(乳糖)が分解できるようになった(今でもミルクが苦手な人がいる)(230p)

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