【1299】 ○ 島田 誠/森栗 茂一 『カラー版 神戸―震災をこえてきた街ガイド』 (2004/11 岩波ジュニア新書) ★★★☆

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震災後、街がどのように復興を遂げてきたかということにスポットしているのが特徴。

カラー版 神戸.jpg 『カラー版 神戸―震災をこえてきた街ガイド (岩波ジュニア新書)』 ['04年]

 神戸の街を紹介した本ですが、阪神淡路大震災の後、街がどのように復興を遂げてきたかということにスポットを当てているのが特徴で、震災後ちょうど10年を経ようとしている時期に刊行されたのは、1つの区切りを記すうえでも意味のあることだったのではないでしょうか。

 なぜ「神戸駅」でなく、隣り駅の「兵庫」が県名になったのかとか、なぜ「神戸駅」より「三ノ宮」の方が賑やかなのかといった、神戸の発展の歴史についての概略を知ることも出来、また、街の見所を広く紹介しているため、通常のガイドブックとしても使えます(北野異人館町やハーバーランドだけしか行かない観光客には読んで欲しい)。

 神戸に実家がある者としては、街の昔の面影がまだ脳裏にあり、本書の中にも、もっと昔の写真と10年後の現況とを対比させるような意匠があってもよかったのではないかと思いました(依然と空き地のままになっている場所など、結構あるんだよなあ)。

 神戸に対する個人的な印象としては、本書にもある「神戸株式会社」という言葉が一番ぴったりくる感じで、ワイナリーとかハーブ園とか、市営の施設(商売?)がやたら多いという気がします。
 それと六甲・有馬方面にかけての、ここ10年ばかりの高速道路網の整備には目覚しいものがあり、むしろ、やや過剰ではないかとも。
 市のキャンペーンとかも行政的と言うより"企業的"なイメージがあるし、それはそれでいいところもあるし(震災からの立ち直りの早さは、やはり神戸ならではだろう)、何となく危うい面もあるような気も。

 「親水空間を十分にとった都賀川」の写真があり、阪神淡路大震災で水道が断水し、トイレ用の水に不便した際に、都津川の水がトイレ用や洗濯用に重宝したことにより、川の水の大切さを知った住民の「都津川を守る運動」があって、川底を歩いて散歩できる、この公園が造られたとのことです。
 それが、'08年7月の集中豪雨による鉄砲水(これ、ネット動画で見ると凄まじい)で学童保育で水遊びに来ていた児童2人が流され亡くなるという事故が起きてしまったのは、哀しい皮肉としか言いようがありません。
 
 こうして見ると、本書も、ややキャンペーン的かも。但し、終わりの方で、下町の再開発における人々の意気込みや悩みをとり上げ、また、若者を中心とした地道な文化・芸術活動などに触れているのは悪くないです。

8時間労働制導入記念碑.jpg ハーバーランドの「跳ね橋」の傍のオブジェが、川崎造船所が1919年に「8時間労働制」を導入した記念碑だとは知りませんでした。
 神戸は、パン・ケーキ・チョコレート・コーヒー・紅茶などの食文化、洋服・帽子・シューズなどのファッション、ゴルフ・サッカー・ボートなどのスポーツにおいて「日本で初めて」の地であるとのこと。
 「8時間労働制導入記念碑」の解説のところにも一言、「日本で初めて」と入れておいて欲しかったです(記念碑には「発祥の地」と刻まれている)。
 
 表紙と各章の扉絵に川西英(1894‐1965)「新・神戸百景」から抜粋した絵が使われていて、絵自体はすごくいいです。但し、ここに描かれているのは、「震災前の神戸」と言うより、昭和20年代から30年代にかけての「レトロな神戸」です。

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