【1291】 ○ 山本 博文 『『葉隠』の武士道―誤解された「死狂ひ」の思想』 (2001/12 PHP新書) ★★★★

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第2部・第3部は、「武士道」と『葉隠』のそれぞれに対する著者の考え方のエッセンス。

『葉隠』の武士道.gif山本 博文 『『葉隠』の武士道―.jpg
『葉隠』の武士道―誤解された「死狂ひ」の思想 (PHP新書)』 ['01年]

 全3部構成で、第1部「鍋島家の家風」で『葉隠』の口述者・山本常朝の属した鍋島藩の家風について解説し、第2部「武士を取り巻く世界」で、『葉隠』を中心に、当時の武士らしさとはどのようなものであったかを探り、第3部「『葉隠』の「思想」」で、「鍋島家」と「武士社会・世間」というそれらの背景ベースに、『葉隠』の根底にある思想の実態を批判的に検証しています。今回は再読でしたが、読んでいて、かなり驚いたり、目から鱗が落ちる思いをしたはずなのに、細かい内容は結構忘れているものだなあと。

武士と世間 なぜ死に急ぐのか.jpg 第2部「武士を取り巻く世界」では、武士にとって戦場で手柄をあげることも討ち死にすることも同等に名誉なことであり、そのために、江戸時代に入っても、死ぬ(法的に処罰を受ける)とわかっていて争い(喧嘩を含む)に臨むケースもあり、要する、に面子にこだわっただけ命は軽かったし、その「武士の一分」は、価値観としては、法の論理(喧嘩両成敗など)をも上回るものだったということが書かれています。

 著者によれば、赤穂浪士の討ち入りなども、主君の怨念を晴らすためではなく、そのままでは浪士たちが武士としての面目を保てないがためになされたということで、この第2部の部分は、著者の『武士と世間―なぜ死に急ぐのか』('03年/ 中公新書)(個人的評価 ★★★★☆)にそのまま引き継がれています。

男の嫉妬 武士道の論理と心理.jpg 一方、第3部「『葉隠』の「思想」」では、『葉隠』という書の背後に見え隠れする功利主義や自己弁護を抽出し、鍋島綱茂が常朝に必ずしも信を置いていなかったことを、著者自身も頷けるとしていますが、要するに、『葉隠』というのは、隠遁した老人が説く処世術に過ぎず、そこにあるのは見せかけの忠義または傍観者的態度だと手厳しい非難をしていますが、この部分は。著者の『男の嫉妬―武士道の論理と心理』('05年/ ちくま新書)(個人的評価 ★★★)に引き継がれているように思います。

 但し、『男の嫉妬』の方は、そうした『葉隠』の記述に、常朝という人の持つ、根拠が脆弱な割には高いプライドだけでなく、「男の嫉妬心」が窺えるとしていて、その心性に踏み込んでいて、個人的には、果たしてそこまで言えるかなあとも思いました。その点、本書は、そこまではさほど踏み込んでおらず、『葉隠』は姑息な「ただのことば」として孤立して、「我々は、『葉隠』を決して評価してはならない」という結語で終わっているだけで、こちらの方が、論としてすっきりしているように思えます。

葉隠入門.png また、本書でも俎上に上っている三島由紀夫の『葉隠入門―武士道は生きている』('67年/カッパ・ブックス)(個人的評価 ★★★☆)については、確かに三島は、『葉隠』の理想の武士像に自分を重ねて、アナクロ的な死を選んだのかも知れませんが、『葉隠』の処生術的な要素は充分に認識していて、むしろそれを面白がっている風でもあります。三島はその部分と「死に狂い」の部分を分けて(或いは表裏で)考えたのではないでしょうか。『葉隠』にエピキュリアニズムさえ見ています。但し、そのエピキュリアニズムは「一念を持って生きよ」というストイシズムの裏返しであり、小事に煩わされたりトラブルに巻き込まれることなく、大事に敢然とした行動がとれるよう備えよという解釈だと思うのですが。

サムライとヤクザ.png 本書を読んでいて、「喧嘩」を介して、武士の論理とやくざの論理に共通項が見られる(自己の面子が潰され時に、しかるべき報復ができるかどうかという価値観)との記述があり、これも、著者がどこか別のところでも書いていたのではないかと思ったら、著者の本ではなく、氏家幹人氏の『サムライとヤクザ-「男」の来た道』('07年/ちくま新書)(個人的評価 ★★★)でした(タイトルそのものだった)。氏家氏の本を読んだと時はやや疑問符だったけれど、やはりそうなのかなあ。

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This page contains a single entry by wada published on 2009年12月16日 23:40.

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