【1286】 ○ 久保田 千太郎(作)/久松 文雄(画) 『呉越燃ゆ―孫子の兵法 (上・中・下) (コミック人物中国史)』 (1990/07 文藝春秋) ★★★★

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実質的には伍子胥と范蠡の物語(それぞれに孫子が絡む)。"創作"を含むが面白い。

呉越1.jpg 呉越2.jpg 呉越3.jpg呉越燃ゆ―孫子の兵法〈上〉 (コミック人物中国史)』『呉越燃ゆ―孫子の兵法〈中〉 (コミック人物中国史)』『呉越燃ゆ―孫子の兵法〈下〉 (コミック人物中国史)

 今から2500年前、南方の大国・楚では、奸臣・費無忌が平王に取り入り、忠臣の伍奢と伍尚を謀殺、伍尚の弟・伍子胥は呉へ亡命し、軍師・孫子と共に公子光を助け呉王を刺殺、光は呉王闔廬となり、伍子胥は、闔廬を説得し楚を攻略、平王の墓を暴き復讐を果たす。しかしこの隙に、越の太子・勾践と軍師・范蠡が呉に戦いを仕掛けてきて、反撃を開始した呉軍は越へ侵入するが、范蠡の奇略にあい大敗、闔廬も殺される。越への復讐に燃える呉王夫差と伍子胥は、ついに越軍を破り会稽山に追いつめる―。

 「史記」の「呉越の争い」を描いた、久保田千太郎・作、久松文雄・画の歴史コミックで、オリジナル単行本は'84(昭和59)年6月講談社刊の全4巻。

呉越燃ゆ―孫子の兵法.jpg 後にそれぞれ「春秋五覇」の1人に数えられる呉王夫差と越王勾践が、自国の存亡を賭け、智謀の限りを尽くしたこの争いは、「臥薪嘗胆」の故事でも知られていますが、このコミック物語の前半の主人公は、知勇に優れた武将である呉の伍子胥(ごししよ)で、後半の主役は、名軍師として鳴らした越の范蠡(はんれい)と見ていいでしょう。

 その2人に比べると、伍子胥が仕えた夫差は、臆病なくせに功にはやる若者であり、范蠡が仕えた勾践は、自信家で戦さを好む性格が後に災いしたように描かれており、とりわけ夫差の呉王になってからの暗君ぶりは甚だしく、「西施の顰に倣う」(この故事成語の解説は出てこなかったけれど)で知られる、范蠡から送り込まれた美女・西施(せいし)との愛欲に溺れ、奸臣・伯嚭の讒言に乗せられ、伍子胥を殺してしまいます(伍子胥、無念!)。

小説十八史略 1.jpg 薪の上に練ることで復讐心を失わないようにする「臥薪」は、一般に強い復讐心を表すとされていますが、本書では伍子胥が驕慢な夫差に進言したものとなっており、作家の陳舜臣氏も『小説・十八史略』の中で、夫差の執念の弱さを物語るエピソードと解せなくもないとしています(因みに、勾践の"会稽の恥"を雪ぐための「嘗胆」も、自らの発案ではなく、范蠡の進言によるものとなっていて、勾践にも夫差と同じような意志の弱さがあったことが見てとれる)。

 文藝春秋版は、サブタイトルに「孫子の兵法」とあり、孫子(孫武)自身も活躍しますが、孫子が呉王闔廬や伍子胥を助け、楚を壊滅させたのは史実であるとしても、呉王夫差から死を賜った伍子胥の無念を晴らすべく、越の軍師・范蠡に策を授け、夫差を敗死させたというのは本当なの?

 ただ、全体を通してストーリー的には面白く、孫子の多彩な兵法のごく一部のみしか描かれていないのは不満ですが、田舎に隠遁している時の孫子の恐妻家ぶりとか、再婚して還暦近くなって子をもうけた時の喜びぶりとかは、孫子の意外な側面を見せています(これも"創作"の要素が強いと思えるが)。

 かつての呉王夫差と同じ愚を繰り返そうとしている越王勾践に国の先行きを読み、宰相の位を辞して越を去り、斉国で事業家として成功した范蠡の生き方などは、社長が無能だから自分の会社はダメなのだと思っているサラリーマンなどが読むと、ちょっと考えさせられるかも。

 【1984年単行本[講談社(『史記9〜12―呉越燃ゆ(中国歴史コミック)(全4巻)』)]/1989年文庫化[講談社(『呉越燃ゆ―史記(スーパー文庫)』)]/1990年単行本[文藝春秋(『呉越燃ゆ―孫子の兵法(コミック人物中国史)(上・中・下)』)]/1995年再文庫化[講談社漫画文庫(『史記4〜6―呉越燃ゆ(上・中・下)』)]】

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