【1272】 ○ 細野 真宏 『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?―世界一わかりやすい経済の本』 (2009/02 扶桑社新書) ★★★☆

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確かに分かり易いが、分かり易さゆえにプロパガンダ的役割を担っている?

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「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

 新書で縦書き2段組というコンパクトな体裁ながらも、パンダとかクマのイラストが出てきて図解と併せて解説するパターンは、『経済のニュースが面白いほどわかる本 日本経済編』('99年/中経出版)以降のシリーズのスタイルを踏襲しています。

 扱っているテーマは、「なぜ人は宝くじの行列に並んでしまうのか?」、「なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか?」、そして表題の「未納が増えると年金が破綻するって誰が言った?」の3つで、前フリ(?)として、『細野真宏の数学嫌いでも「数学的思考力」が飛躍的に身に付く本!』('08年/小学館)のテーマをもってきているようですが(小学館の本の広告が扶桑社新書のカバーに入っているのはタイアップ広告?)、最も「経済」に近いテーマであるサブプライムローン問題の話よりも、表題の「年金」の方に多くページを割いています。

 著者自身も、一番書きたかったのは「年金」についてだったとしており、これは著者が首相直轄の「社会保障国民会議」のメンバーだったことに関係しているようですが、年金のことを何も知らないで委員になって、1年後には年金について解説した本が書店に並んでいるというのは、さすが著者ならでは。
 読んでみて、年金の仕組みを語るにはあまりに少ないページ数ではあるものの、コンパクトで分かり易かったです(その分かり易さが問題の部分もあるが)。

 「社会保障国民会議」において、「未納が増えると年金が破綻する」と言った日経新聞の論説委員に対し、保険料の徴収率が65%だろうが90%だろうが、年金財政に殆ど影響は無いというデータを示してやり込めたようなことが書かれていますが、この背景には、年金財政は収入より支出が多くなる構造のため、現在の未納者が年金を納めて受給権を得ると、それだけの給付しなければならず、従って年金財政上において未納者は"問題にならない"ということがあり、むしろ、赤字構造の制度そのものがおかしいのでは。

 更に、「税方式」を主張する日経側に対する批判が展開されていますが、本書にあるように、年金財源を消費税化すれば厚生年金の負担が減るので、企業側は負担減となり、結果的に従来の企業負担分も含め、我々庶民の負担が重くなるというのも、ある程度知られているところ。

 著者の論理の展開はオーソドックスなのですが、但し、細かいところは(国によって?)ボカされていて、例えば、未納者(保険料免除者)が本来支払うべき国民年金保険料を厚生年金が実質的に肩代わりしていることなどは省かれているし(保険料免除者というのも、おかしなマニュアル本も出てたりして、その実態が気になるところ)、また、現在の完全未納者が将来において受給権を獲得する確率をどう見積っているのかも不明です(国民年金保険料を納めなくてもまず罰せられることはない現況を鑑みると、厚労省の思惑は、未納者は未納のままでいてくれることを願っているともとれる)。

 また、将来給付について、「物価スライドがあるから大丈夫」的な言い方は、本当に"大丈夫"なのかなあと。
 過去分を再評価により大盤振る舞いしてきたツケで年金財政が厳しくなったわけで、将来において急激な物価上昇があったとしても、それに給付がついていけるか(これも、年金積立金があるから大丈夫との論で切り替えしてくるのだろうが)。

 一般書であるため、ここはあまり細部にまで立ち入って書く場でもないのかも知れず、若い読者に年金について関心を抱いてもらうには、変わり映えのしない定型的な解説書の中にこうした切り口の本があってもいいのかなとは思います(従って、一般書としては"一応は○"という感じ)。

 但し、'04年改正の「マクロ経済スライド」を過剰に高く評価しているなど、いろいろな面で国(厚労省)のプロパガンダ的役割を担ってしまっている印象も受けなくもなく、やっぱりちょっと気になるんだよなあ。

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This page contains a single entry by wada published on 2009年11月 7日 23:47.

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